【小ネタ④】北嘉多玄絵と漫画紹介
とある日の放課後。
俺は図書委員会の仕事で図書室の受付に座っていた。
隣には黒髪ミディアムボブの小柄な少女がいる。
灰色の瞳を隠すように伸ばされた前髪。
その前髪越しにチラチラと横目でこちらを伺っているのを感じた。
「……クロエさん、どうかした?」
「ふぇ!?な、何でもないでしゅ!…あぅ………」
慌てて噛んで恥ずかしがって、なかなかに大変そうだ。
「そう?」
「は、はい。」
と言いつつ俯き加減で盗み見てくる。
……これはあれだろうか?
暇だから何か話振れよの合図だろうか。
こんな時に田中さんがいれば良いのだが、あいにく先生に呼ばれてどこぞへと行っていた。
クロエさんに限って無茶振りしたりはないだろうが暇なのは事実だった。
放課後の図書室に訪れる者はそう多くない。
試験前であれば勉強する生徒もいるだろうが今は五月だ。
数人がまばらに座って読書しているだけであり、借りようとする者はいなかった。
「………暇だな。」
「そう…ですね。」
何かないだろうか。
「あ、そういえば……」
クロエさんがハッとしてこちらを向く。
「この間、お土産ありがとうございました。お菓子、とっても美味しかったです。」
「あぁ、どういたしまして。それなら良かったよ。」
GW明けに田中さんを通して熊本旅行のお土産を渡してもらっていたのだ。
「熊本って行った事ないです……旅行はどうでした?」
「楽しかったよ。なかなか見られないものも色々見られたし。」
「良いですねぇ……」
「クロエさんは旅行とかするのか?」
「ワタシは……パパがお仕事で忙しいので、なかなか行けないですね。」
「ほう、そうなのか。」
「なのでワタシはいつも家で漫画やアニメを観たり読んだりしてますです。」
なるほどなぁ。
漫画やアニメか………あまり知らないんだよな。
………そうだ。
「なぁ、クロエさん。良かったら、おすすめの漫画を教えてくれないか?」
「おすすめの漫画…ですか?」
「あぁ…あまり触れた事がないから、よく知らないんだ。」
「で、でも燕昇司君はいつも小説とか読んでるから……漫画なんて……」
「漫画だって本だろう?本は好きなんだ。」
当たり前の事を言ったつもりだったが、クロエさんは口を開けて呆然としていた。
「……クロエさん?」
「あっ…あ、いえ、その………そう、ですよね。」
どことなく嬉しそうに指を合わせて俯いている。
「………はい、わかりました。おすすめの漫画をお教えしますです!」
顔を上げて笑みを浮かべた。
「ありがとう。ちなみにクロエさんはどんな漫画を読んでるんだ?ジャンルとか。」
「そうですね……母が何でも好きなのでワタシも幅広い方だとは思いますけど……恋愛系の少女漫画が多いかもしれないです。」
「少女漫画か……」
食わず嫌いをするつもりはないが最初はもう少し入りやすいものが良いな。
「燕昇司君は何か趣味や好きなことはありますか?自分が入り込めるものが最初は良いかもしれないです。」
ふむ、なるほど。
「好きなこと、か………料理は好きだな。」
「燕昇司君は料理できるんですか?凄いです!」
「いや、そうでもないよ。でもまぁ、料理やお菓子作りはそこそこできるかな。」
「ふぇぇ………あっ、それなら…『食劇のトーヤ』は読みやすいかもしれないです。」
「どんな話なんだ?」
「主人公のトーヤが料理学校に通って、才能あるライバル達と料理バトルを繰り広げるんです。料理を食べるとその味を演劇形式で表現してくれるんです。」
「………なかなか斬新だな。」
でもちょっと気になる。
スマホのメモに残しておこう。
「他には何かあるか?」
「うーん、そうですねぇ……スポーツ系とかはどうですか?男の子なら好きそうですけど。」
「スポーツか……昔から空手はやってるな。」
「空手ですか!格闘技がお好きなんです?」
「そうだな、普通の球技とかよりは興味はある。」
「なら、バッキーシリーズは面白いかもです。」
「バッキーシリーズ?」
「はい、格闘技者のバッキー・ハンミャーを主人公としたシリーズ作です。最初の『ストライカーバッキー』から始まり、現在シリーズ五つ目の『バッキーストリート』まで続いている大作なんですよ。」
「ほう、それは読み応えがありそうだな。」
「物語が進むにつれてリアルさが薄れていく感じはありますが、人気作なのは間違いないです。」
メモメモ。
「もう一つくらいあれば知りたいな。」
「そうですか…うーん………」
とそこに、先生に呼び出されていた田中さんが戻ってきた。
「任せちゃってごめーん、やっと終わったよ。」
ぴょこぴょこと三つ編みを揺らして謝罪している。
「あ、ハナちゃん、お疲れ様。」
「お疲れさん。別に気にしなくて良いぞ、こっちも暇だったからな。」
「それなら良かった……んで、何の話してたの?」
「あぁ、実はクロエさんにおすすめの漫画を………そうだ、クロエさん。」
「ん?」
「ミステリーの漫画でおすすめとかあるか?」
田中さんを見て思いついたものだ。
「ミステリーですか……本格的なミステリーが良いですか?」
「ん……いや、むしろ頭軽くして読めるのが良いな。」
「それなら『冷菓』がおすすめです。」
「ほう?」
「え、なに、何の話?」
田中さんが困惑している。
「クロエさんにおすすめの漫画を教えてもらってたんだ。」
「あぁ、なるほど……それで、ミステリーのおすすめで『冷菓』って訳ね。」
「田中さんも知ってるのか?」
「そりゃ、作者は日本のミステリーではなかなか有名な人だからね。本格派とはちょっと違うけど、面白いわよ。」
「どんな話だ?」
クロエさんを見る。
「薔薇色の青春を送っていた主人公フォーチャローが、灰色の生活を送るヒロインのウェルを巻き込んで、日常の謎を解いていく話です。」
「日常の謎……」
「現実にありそうなちょっとした謎を、事実から推論を導いて解く様は、不思議な爽快感があります。」
「あとウェルたそが超可愛い。」
「です。」
クロエさんと田中さんが二人してうんうんと頷いている。
「…まぁ、二人がそう言うなら読んでみるか。」
「『冷菓』はアニメも秀逸よ。」
「グラフィックが神がかってますです。」
「……休みの日にでも見てみるよ。」
一週間後。
「ウィーリス先輩可愛い。」
「燕昇司君はそっち派だったか。」
「と、歳上好きです……?」
ちなみに作者は十文字さん派です(嘘)
下記、新連載です。
主に更新するのは『出会い系』の方なので、こちらは余裕のある時に投稿します。
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『あべこべ世界でも変わらず俺は俺でありたい』
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