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女社長と旅の終わり

柔らかい日が差し爽やかな風が吹く朝。

今日は旅行の最終日である。

夜には飛行機で東京へ戻る為、観光できるのは夕方までだ。

朝食をホテルでとった俺達は、熊本城へ来ていた。


一般にいう熊本城は関ヶ原の戦いの前後で加藤清正によって建造された城だと言われている。

加藤清正といえば、賤ヶ岳の戦いにおいて功績を残し、"賤ヶ岳の七本槍"に選ばれた人物として有名である。

だが秀吉亡き後は家康に近づき、関ヶ原の戦いでも東軍に与している。


「賤ヶ岳の七本槍といえば、脇坂安治や福島正則などの猛将揃いで知られているわね。」


熊本城を見上げて美冬さんがそう言った。


「脇坂は七本槍の中で唯一、明治維新の頃まで続いた大名家でしたよね?」


「関ヶ原では西軍から東軍に寝返って所領を安堵され、安治の子の安元は譜代大名の堀田氏から養子を貰って家を存続させた。親子揃って力だけでなく狡猾さも持ち合わせていたようね。」


「福島正則は猪武者っぽいイメージがあります。」


「七本槍の中でも特に勇猛な武将であったのは間違いないわね。行政面の能力が決して低いという訳ではないのだけれど、石田三成に対抗して東軍についたり、徳川家へ上手く取り入る事ができなかったり、思慮に欠ける部分が目立っているように思うわ。」


「脇坂安治とはそこらへんが違うって事ですか。」


「福島正則と脇坂安治の仲は良好とは言えなかったようね。正則としては、賤ヶ岳の七本槍として安治と同列に扱われるのが我慢できなかったそうよ。」


「そうなんですか?」


「福島正則は豊臣秀吉の親類でもあるのよ。とは言っても、生まれは桶屋の息子だけれどね。」


「豊臣の血に連なるから特別に扱え、と?」


「そういう気持ちがなかったとは言えないでしょうね。本当のところはわからないけれど。……まぁ、西軍につかなかった事といい、徳川に忠誠を誓わなかった事といい、プライドの高い武将だったのは確かだと思うわ。」


「へぇ………前から思ってましたけど、美冬さんって何でも知ってますよね。」


「昔から本を読むのが好きだったってだけよ。ジャンルも幅広く読んでいたし、父親が歴史オタクだったから歴史小説は特に多く読んだわ。」


「あぁ、なんかそんな事も言ってましたね。」


そういえば以前に聞いた覚えがある。

歴史オタクの父親がどこぞで甲冑を買ってきて母親にこっぴどく叱られたとか。

たまに思いつきで経営しているうどん屋を休みにして地方の城を巡ってその度に母親に叱られているとか。

歴史小説の中に18禁の本を隠し、気付いた美冬さんが母親に密告してしばかれたとか。

親父さん怒られすぎだろ。


そんな父親の影響で美冬さんも歴史好きになったらしい。

もしかしたら歴史教師のハルさんと気が合うかもしれないな、とふと思った。

ともあれ、たまに出る美冬さんの解説や豆知識を聞きつつ、熊本城を見て回った。


また、敷地内にある加藤清正を祀っている加藤神社にも行った。

加藤神社では仕事運や勝負運にご利益のあるお守りが売られていた為、こっそり購入して美冬さんにプレゼントした。

驚いた顔をしていたが、嬉しそうに笑ってくれたのでこちらとしても満足だ。





熊本城と加藤神社を回った俺達は、熊本城のふもとにある桜の馬場城彩苑という観光施設へ向かった。

歴史的な文化に触れ合える施設やグルメスポットが集まる区画があり、結構色々と楽しめるようだ。


時刻は昼過ぎ。

ひとまず腹ごしらえをしようとグルメスポットである桜の小路へ来た。

食べ物屋や買い食いできるような店も並んでいる。

何を食べようかと二人で見渡す。

天草で海鮮を食べ、阿蘇で肉を堪能し、黒川温泉で食べ歩きをして市内で郷土料理を楽しんだ。

もはやジャンルとしては制覇している気もする。

という事で、他では見なかったものを選別して食べ歩きをする事にした。


天草の濃厚なウニが入ったうにコロッケ、高菜や赤牛が入った小籠包、紅ショウガやチーズが入ったちくわサラダ、他で食べたものとは一味違ういきなり団子など、珍しいものを食べて回る。

最後にイチゴがたっぷり乗ったソフトクリームを二人で分けた。


食事が終われば一休み、といきたい所であるが、残念ながら残された時間はそう多くない。

桜の小路以外にも軽く見て回った後、お土産を買う為に近くの物産館へ向かった。




「美冬さん、お土産どれくらい買います?」


「いつも通り知り合いに少しと会社に持っていく分くらいね。会社といっても役員に渡す分だから、そんなに多くもないわよ。」


「荷物と一緒に送りますよね?」


「そうね、送れる分は送って、なるべく身軽に帰りたいわ。」


「ですね。」


「吾郎はどれくらい買うの?」


「俺は………」


まず『十六夜』と陽奈の家には必須だな。

『十六夜』に持っていけばセーラ先輩にも渡せるだろう。

あとは海汐さんにも買うとして………今回はハルさんにも渡さないといけないな。

それから……名前詐欺衆くらいには買ってやるか?

田中さんに渡すとしたらクロエさんにもあげた方が良いよな?

それだったらいっそのこと南風原にも持って行くか……家に招いて食事した仲だし。


「バイト先と幼馴染と、知り合い二人と学校の友人達と後輩……そこそこ買わないとですね。」



「吾郎も随分と知り合いが増えたものね。……ちなみにその中で女性は何人いるのかしら?」


「女性?」


亜夜姉ぇとセーラ先輩と陽奈、海汐さんとハルさん、田中さんとクロエさん、そして南風原。

女将さんと輝夜は女性に入るのだろうか……一応入れるか。


「十人ですね。」


「………男性は?」


マスター、山田、佐藤。


「三人です。」


「随分偏ってるのね。」


「そうですか?」


「………まぁ、吾郎の交友関係に口を挟むつもりはないけれど。」


呆れたように溜息をつく美冬さん。

どこか怒っている…….というか若干拗ねているように見える。

美冬さんが嫉妬するというのも珍しいな。


「……一緒に旅行した事あるのは美冬さんだけですよ。」


今のところ。


「ふーん……そう。」


素っ気ない態度を取っているように見えるがほのかに口角が上がっている。

ご機嫌取りとしては悪くなかったようだ。



お土産として、餡子をパイ生地で包んで焼いた武者がえしや、羊羹のようなあずきで求肥を包んだ誉の陣太鼓、そしてお馴染みのいきなり団子などを購入する。

美冬さんもお菓子や酒のつまみになりそうなものを買いつつ、自分用に辛子蓮根を購入していた。

本当に気に入ったんだな、それ。


しっかり吟味してお土産を選び終えると既に夕方に迫っていた。

ホテルに戻ってほぼ全ての荷物とお土産を東京まで送ってもらう手続きをする。

遅くとも明後日の午前中には届くそうだ。


朝の内にチェックアウトをして部屋は引き払っているのだが、ホテルのサービスで荷物と車を預かってもらっていたのだ。

すっかり身軽になった俺達は預けていた車に乗り、ホテルを出た。



空港に到着し、レンタカーを返却する。

出発の時間まで余裕があった為、空港内でお土産などを物色して回った。

特に買い足す物も無かったが、見ているだけでも結構面白いものだ。

暫くすると小腹が空いたので、空港内にある店で熊本ラーメンを二人で分けて食べた。

焦がしニンニクの効いた強い味の豚骨ラーメンである。

食後のブレスケアは入念に行った。


時間になり、飛行機へ乗り込む。

行き同様に約2時間のフライト。

飛行機を降りた時にはすっかり夜になっていた。

真新しい思い出を語っているとあっという間であった。


空港を出てタクシー乗り場へ向かう。

美冬さんはこういう時、大抵タクシーで帰る為、今回もそうだろうと考えた。

タクシー乗り場が見えてくると、腕を組んでいる美冬さんがぎゅっと力を込めてきた。


「ん、どうしました?」


「……いえ、何でもないの。その……楽しかった、わね。」


「…えぇ、とっても。」


この四日間、本当に楽しくてあっという間であった。

美冬さんと接する時間はいつだって穏やかで、なのに心が高揚して、さらに暖かくなれるような、そんな時間である。

美冬さんとの旅行はこれからも必ず行きたいと、心から思っていた。


「………それじゃ、帰らないといけないわね。」


大人っぽく微笑む美冬さん。

別れを惜しむ様子はないが、俺は彼女が寂しがり屋で天邪鬼だという事を知っている。

ただ人一倍自分に厳しくて、甘えとかそういうものを表に出すのが苦手なだけなんだ。


組んでいた腕を解いてタクシーへ向かう美冬さん。

俺はその後ろをついて行き、美冬さんに続いてタクシーへ乗り込んだ。


「………吾郎?」


不思議そうに首を傾げている。

だがその瞳にはどこか期待するような色が浮かんでいた。


「何かちょっと寂しくて……家、行っても良いですか?」


「………そう。全く、吾郎はまだまだ子どもなのね。」


呆れたように笑う美冬さんは、俺でなくてもわかるくらいに嬉しそうだった。


「はい。俺はまだ子どもなので、美冬さんともっと一緒にいたいんです。」


「仕方ないわね……良いわよ。」


「ありがとうございます。」


「………こちらこそ、ありがとう。」


「何がですか?」


「何でもないわ……ふふっ」


クスッと笑った美冬さんが運転手に行き先を告げる。

客観的に見ると甘酸っぱい俺達のやり取りを聞いても何も余計な反応はせず、にこりと笑って承知した運転手を見て、プロだなぁと感動した。



ともあれ、美冬さんとの旅行はこれで終わりだが、彼女とは今夜も一緒にいられるようだ。

発進した車の中で俺は美冬さんの肩を抱き寄せ外を眺める。

見慣れた都会の風景が、いつもより綺麗に見える気がした。

ちなみに作者は熊本ラーメンよりも、あっさりした長浜ラーメン派です。

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