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旅の遊楽と家族温泉

いま、俺達の目の前には巨大なタコがいる。


「お、おぉ……結構凄いですね、これ。」


「そ、そうね……ガイドブックの写真で見るより壮大ね。」


蛸壷を抱えたような巨大なオブジェ。

下にはありあけタコ街道の文字。

本日の最終目的地は黒川温泉、熊本の北東方面にある温泉地だ。

途中で阿蘇にも寄りたいという事で、朝早くから天草を出発していた。

その道中にあるありあけタコ街道。

昨夜ガイドブックを眺めていた時にちょっと気になり、途中で寄れそうな場所だった為こうして来ている。


そこには一際目立つタコのオブジェがあったのだ。

ツアー客であろう集団の先頭にいる女性が、このオブジェを"タコ入道"と紹介していた。

タコ入道……正直かなりショッキングな見た目をしている。

その横にある祈りダコもなかなか印象に残る見た目をしている。

祈りダコというだけあってタコが合掌しているのは良いのだが………何故こんなゆるキャラっぽい顔をしているのだろうか。


「このタコって何かご利益とかあるんですかね?」


「いや、そういう目的で作られた訳ではないみたいね。タコへの感謝供養、豊漁祈願、海難防止などの願いが込められているそうよ。」


ガイドブックを見ながら美冬さんが説明してくれた。


「へぇ……つまり俺達みたいな外部の人間にはあまり関係はない……のか?」


「美味しいタコを食べさせていただいたのだから、祈るのは間違ってないんじゃないかしら?」


「なるほど、それもそうですね。」


二人して祈りダコを拝む。

ついつい目の前のタコと同じような顔をしてしまうのはカメレオン効果が影響しているのだろうか。

違うか、違うな。

そもそもこれはオブジェだ、カメレオン効果は適応外だろう。

カメレオン効果といえば陽奈や海汐さんはよく俺の行動を真似してくるな。

俺が考え込んでいると陽奈は真似して悩む素振りを見せる。

まぁそういう時は大体飯か空手の事しか考えていないのが陽奈なのだが。

下らない事を考えていたら横から視線を感じた。


「……何ですか?」


「真面目な顔してどうしたのかと思ったのよ。」


「……真面目な事を考えていました。」


真面目にアホな事を考えていました。


「本当に真面目な事を考えている人間はそんなこと言わないわ。下らない事でも考えていたようね。」


お見事、その通り。


「………写真も撮りましたし、そろそろ行きましょうか。」


「そうね、誰かさんがこれ以上私を放って下らない事を考える前に。」


「ははは……すみませんでした。」


「よろしい。行きましょう。」


「うぃっす。」


踵を返して車へ戻る。

美味しそうな海鮮を出す食堂もあるみたいだが、朝飯は旅館で済ませてきたので軽く覗くだけにしておいた。






黒川温泉に到着した時にはもう空は暗くなりかけていた。

阿蘇であちこちのスポットを巡っていたらかなり時間がかかってしまったのだ。

ずっと運転させてしまい美冬さんには申し訳ない限りだが、彼女もゆっくりのんびりするよりは普段見られないものを色々と見たいと言っていた。


以下、阿蘇巡りのダイジェストである。




『白川水源』


「凄いですねこれ……こんな綺麗な水源、見たことないですよ。」


「本当ね……実に美しいわ……」


「自由に水汲んで良いらしいですよ。あそこで空のペットボトルを売ってるみたいです。」


「折角だから飲んでみましょうか。」


ゴクゴク


「おっ…おぉ……うっま、なんだこれ……」


「すぅーっと体に入っていくわね……はぁ、美味しい…」




『昼飯』


「お昼、肉で良かったんですか?」


「海鮮は昨日で十分堪能したわ。折角熊本に来たんだもの、赤牛は外せないわよ。」


「まぁ確かに…昨日の天草牛とはまた違いますもんね。」


「育つ場所によって変わるものね。天草牛は黒毛だったし、変わるのは当然でしょうけど。」


「ですね。……あぁ、赤牛丼…最高だ。」




『大観峰』


「これは……すっげぇ眺めだなぁ………」


「流石は一番推しの展望スポットだけあるわね。…それにしても………綺麗………」


「美冬さんの方が綺麗ですよ。」


「ごめんなさい、今はいらないわ。」


「冗談じゃないですよ。」


「……………。」


「本気です。」


「………そう。」


「はい。」


「……もう行きましょうか。」


「いえ、折角ですからもうちょっと眺めましょうよ。ね?」


「……そうね。」




『大観峰②』


「んっ……このソフトクリーム、すっごい美味しいですよ。めちゃくちゃ濃厚だ。」


「このヨーグルトソフトも美味しいわよ。甘みと酸味が絶妙に合わさっているわ。」


「一口下さい。」


「はい。」


「ん………お、旨い。」


「吾郎のも一口ちょうだい。」


「どうぞ。」


「んっ………美味しい…私そっちの方が好きかも。」


「そうですか。」


「………私、そっちの方が好きかもしれないわ。」


「俺はどっちも同じくらい好きですねー。」


「私、そっちの方が、好きだわ。」


「買ってきて良いですよ?待ってますから。」


「………吾郎?」


「はい?」


「歩いて東京まで帰る?」


「失礼しました。交換しましょう。」





という訳で景観もグルメもなかなかに楽しめた。

東京ではまず見られない壮大な自然には圧倒された。

だが今はこれからの事を考えよう。

この時間だし、旅館に着いたらまずは風呂かな。

九州では有名な温泉地らしいし、非常に楽しみである。



旅館で受付後、荷物を置いて一休み。


「美冬さん、昨日と同じように先に風呂で大丈夫ですか?」


「そうね。流石に疲れたし、まずは温泉に行きましょうか。」


「すみません、ずっと運転させっぱなしで。」


「あら、そういう意味で言ったんじゃないのよ。吾郎はまだ免許を持てる年齢ではないのだし、仕方ない事だわ。」


「免許取ったらドライブでも行きましょうか。」


「その時はお願いするわ。」


「承知しました。……それじゃ、温泉行きましょうか。色々あるみたいでしたけど、どこに行きます?」


手早く入浴の準備をして荷物をまとめる。

美冬さんを見ると、彼女も準備を終えていた。


「温泉はもう決めてあるの。着いてきてちょうだい。」


「あ、はい。」


美冬さんの先導に従うこと15分。

旅館の近くの立派な温泉に到着した。



「ここですか?」


「そうよ。実はもう予約してあるの。」


「……予約?」


温泉の予約とは?

行列を成しているようにも見えないが。


「ここね、家族温泉なのよ。」


「家族温泉?家族風呂みたいなものですか?」


「そうよ。小さく区切られた露天風呂に入れるの。」


「へぇ…それは良いですね。」


「でしょ?ここに吾郎と来たかったのよ。」


「それは……ありがとうございます。」


何だそれ、嬉しいぞ。

ハートブレイクされそうだ。

働け、俺のポーカーフェイス。


「ふふっ…喜んでもらえて何よりだわ。」


バレてるじゃねーか。


「さぁ、行きましょうか。」


美冬さんが腕に抱きついてくる。

体感温度が上昇する気がした。


「……そうですね。行きましょう。」


いざ、温泉へ。





チャポン


「はぁぁ……気持ち良いですねー。」


「そうねぇ……はぁ……」


温泉の快楽に身を委ねる。

入る前にちゃんと体は洗った。

もちろん美冬さんの体は俺が洗った。

逆もまた然り。

恥ずかしがる素振りも見せない大人な美冬さんであった。


「昨日の爺さんに話しかけられた時もこんなタイミングでした。」


「方言のきついお爺さんね……貴重な経験じゃない。羨ましいわ。」


「まぁ終わってみれば楽しかったですけどね。聞いてる時は意味わかんなくて……」


「方言ってそういうものよねぇ………吾郎は生まれてからずっと東京だったわよね?」


「はい。父親は富山の出身だったらしいですけど……行った事はないです。」


「そうだったわね………」


美冬さんは俺の生い立ちを知っている。

出会ってすぐに色々あって、全て話したのだ。


「美冬さんは香川でしたよね。」


「そうよ。」


「美冬さんが方言喋ってるのとか聞いたことない気がするんですけど、香川ってあまり方言強くないんですか?」


「私は上京してもう十年になるから、方言もなかなか出ないわよ。…香川の方言……んー、近畿や中国地方の方言が混ざってるとはよく言われるわね。」


「へぇ……」


まず近畿と中国の方言がわからん。

中国地方といえば広島とか?

じゃけぇ…みたいな?

美冬さんが言ってるのは全く想像つかんな。

結局わからん。


「方言って使わなかったらすぐ出なくなるものよ。」


「そういうものですか。」


「吾郎は好きな方言とかあるの?」


「好きな方言…そうですねぇ……京都、ですかね。」


「関西弁?」


「その中でも、大阪や兵庫よりは京都ですね。……はんなりしてて、なんか好きです。」


「そう………なんでやねん。」


いや、何がだ。

こちらのセリフだぞ、なんでやねん。

よし、京都弁返しだ。


「何してはるの?」


「京都弁……なんでやねん。」


「そんなん言いひん。」


「………わからないわ。」


「やんなぁ。」


「…………。」


「……やめましょうか、俺もそんなにわかりませんし。こういうのその地方の人から嫌われるらしいですし。」


「そうなの?」


「四国に行ったこともない東京の人間がドヤ顔で香川の方言喋ってたらどう思います?」


「………少しイラッとするかもしれないわね。」


「そういう事ですよ。」


「ふぅん………そろそろ上がりましょうか。」


「そうですね、行きましょう。お腹空いちゃいました。」


「ふふっ、今日の旅館も良いものを出してくれるみたいよ。」


「それは楽しみです。明日は午前中ゆっくりできますし、美冬さんも昨日よりお酒楽しめますね。」


「あら、良いのかしら?」


「勿論ですよ。今日いっぱい運転してくれましたし、付き合いますよ。お茶ですけど。」


「吾郎がお酌してくれるなら十分だわ。」


「あ、でもあんまりお酒飲みすぎるとその後に支障が出るかもしれませんね。」


「その後?」


「折角ですし、楽しまないと損じゃないですか?」


均整の取れた美冬さんの美しい裸体を眺めながらそう言う。

口元を嫌らしく歪めるのも忘れない。


「わざとらしいわよ。……昨日も楽しんだでしょ?」


「今日の朝が早かったので昨日は不十分でした。」


「全く……そういうところはまだまだ子どもね。」


「そうですか?俺はむしろ美冬さんのためを思って言ってるつもりですけど。」


「私が欲求不満だとでも?」


「違いますか?」


「違うわ。私は自制できないほど若くはないもの。」


「年寄り気取るには早すぎますよ。……それに、俺の前では自制しなくても良いですよ。」


「なに言ってるのよ。」


拗ねたように口を尖らせる美冬さん。

ちょっと可愛い。


「仕事、大変なんですよね?なかなかお会いする機会もないし……発散する時に発散しとかないと、後がきついですよ。」


「それは……」


「いただくものいただいている以上、貴女を楽しませ、癒すのは俺の仕事です。遠慮しなくて良いんですよ。ね?」



「…………まずは食事よ。行きましょう。」


素っ気なく背を向け離れていく美冬さんを見つめる。

恥ずかしそうに顔を赤らめているのは、見ない振りをした。

今日の夜は長くなりそうだ。

温泉って良いですよね。

おすすめの温泉あったら教えて下さい。

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