女社長と旅の始まり
ちょっと短いです。
五月に入った途端に感じる違和感。
つい先日まで爽やかで柔らかな春の風を感じていたのに、五月に吹く風はまるで春の終わりを告げるようなもの寂しさがある。
なんて青臭い感傷に浸る人間なんて少数だろう。
大多数の人間はついに迎えた休暇に胸を踊らせているに違いない。
というわけで。
「ついにやってきましたGW……ってか。」
春の終盤らしい穏やか且つ輝かしい太陽を見上げながら呟いた。
目の前には都心と国内を結ぶ巨大な空港。
周りには俺と同じように旅行にでも行くものと推測できる、キャリーバッグやらボストンバッグやらを運ぶ人々で溢れていた。
かくいう俺も深緑の頑丈なキャリーバッグをゴロゴロさせている。
予定していた待ち合わせ場所に着き、左手につけた革ベルトの腕時計を確認した。
「ちょっと早く着きすぎたか……いや、あの人のことだから、もうじき来るか。」
約束の時刻より20分早く着いてしまった。
だが今回の待ち人はどこぞの変態大学生と違って時間に厳しく、早めの行動を尊ぶ人だ。
仕事では10分前、プライベートでは15分前を厳守していると聞いたことがある。
そして待つこと5分。
見事に約束の15分前に彼女は現れた。
「あら、もう来てたのね。待たせてごめんなさい。」
淡いデニムシャツにタイトな黒のパンツルック。
ヒールつきの派手すぎないサンダルにプライベート用の細いフレームの眼鏡。
クールな大人の美女である。
「いえ、大して待ってないですよ。気にしないで下さい、美冬さん。」
「そう。それなら良いのだけれど。……久し振りね、吾郎。ちょっと背が伸びたかしら?」
目の前まで来てこちらを見上げる。
女性にしては高めの身長。
切れ長の眼にどこか緑がかった黒の瞳。
緩やかなウェーブのかかった艶のある黒髪は一つに束ねられ、左肩から流していた。
「以前会ったのは三月の半ばでしたね。そんなに伸びてもないと思いますけど。」
「そうかしら?ますます男前になった気がするわ。」
俺の頬を撫でてクールに微笑む彼女の名は雪峰美冬。
美冬さんは現在急成長中のベンチャー企業の代表取締役であり、大学在学中に起業し軌道に乗せた敏腕社長である。
俺が初めて美冬さんに会ったのは高校入学の前だった。
それ以来色々とお世話になっている。
大人っぽく見せる振る舞いや所作などは全てこの人から教わったものであった。
「今日は誘っていただいてありがとうございます。楽しみにしてました。」
美冬さんとはたまに食事や買い物を共にさせてもらったし、こうして旅行に行く事も何度かあった。
費用は全て美冬さん持ち。
おまけにお小遣いまでくれる。
正直そんなの無くても会って良いのだが、こうした関係が互いにとって都合が良いというのも事実であった。
「私が吾郎と行きたかったんだもの。気にする必要はないわ。…さぁ、行きましょうか。私も凄く楽しみだったの。」
貰うものがある以上与えるものもなければならない。
日頃は仕事で忙しい美冬さんを少しでも楽しませ、癒してあげたいと思うのは、偽らざる本音だ。
美冬さんの為に作ってきたクッキーをいつ渡そうかと考えながら、先を歩く彼女を追いかけた。
約2時間の空の旅。
互いの近況や起こった出来事などを話しているとあっという間だった。
長閑な緑溢れる大地を見下ろしながら下降していく。
15分後、俺と美冬さんは2時間振りの陽を浴びた。
やってきました九州は熊本である。
「日差しが気持ち良いですね。こっちの方がちょっと暖かいみたいです。」
「そうね。ちょうど良い気候だわ。」
美冬さんは眼を閉じて澄んだ空気を味わっている。
「レンタカー借りるんでしたよね?」
「ええ、予約はもうしてあるわ。構内に窓口があるはずだから、行きましょうか。」
自然に手を差し出される。
「はい。運転よろしくお願いします。」
俺もその手を自然に握った。
「お腹空いたわね。旅館までまだ時間がかかるし、どこかで昼食にしましょうか。」
「そうですね。道なりで見つけます?それとも近場で適当に探してみましょうか?」
スマホを取り出し尋ねる。
「そうねぇ……吾郎は何か食べたいものあるかしら?」
「んー…名物とかは旅館の周りでも食べられるでしょうし、これといって特に……美冬さんは何かあります?」
「私は…特に……」
美冬さんがどことなくソワソワしている気がする。
我慢してるんだろうな。
普段は大人っぽいのにこういうところは可愛いから卑怯だと思う。
「……うどん、食べますか?」
我慢してるであろうそれを俺から誘う。
そう、美冬さんはうどんが大好きなのである。
実家は香川のうどん屋らしい。
週に何度もうどんを食べているし、旅行に行くとその土地のうどんを食べたがる。
だがいつもこうして遠慮する為、毎回俺が促しているのだ。
「う…んぅ……でも、折角熊本まで来たのに……」
「食べたいんですよね?」
「それは…でも……」
「俺、九州のうどんってあんまり知らないんですよね……食べてみたいなー……」
「そ、そうね…気になるなら仕方ないわよね。」
「はい、仕方ないです。というわけで、良さそうなとこ探してみますね。」
「お願いするわ。…………ありがとう。」
「………どういたしまして、です。」
昼飯は地元の人々から高い評価を受けている店でうどんを食べた。
東京のそれと比べるとあっさりしていて、讃岐の麺と違ってふんわり柔らかい。
個人的にはかなり好みだと感じた。
美冬さんも美味しそうに食べていたので、やはり来て良かったなと思った。
その後、再び車で移動。
夕方前には目的地である天草へ到着した。
これなら温泉以外にもまだ楽しむ時間がありそうだ。
俺達は予約していた旅館で受付を済ませ、必要なものだけ持って散策へ出る事にした。
予定してるキャラとりあえず出したら登場人物紹介的なのしたいですね。




