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出会い系でやっちまった相手が……

お久し振りです。

そしてまたもや見切り発車です。

懲りない男、豚骨ラーメン太郎。


飽きるまで頑張ります(開き直り)

季節は春。

温かな日差しが眠気を誘う土曜日。


高校二年の始業式を明後日に控えた俺は、気分転換を兼ねてデートでもしようとスマホを手に取った。

ブックマークから、この一年で随分と使い慣れた出会い系サイト『ワクテカメール』を開く。


掲示板を眺めていると、いかにもな援デリ業者の中にテンプレート丸出しの投稿を見つけた。

何となく気になり投稿者である『ハル』のページを開く。

ほぼ真っ新なプロフィール。

写真も掲載していない。

明らかな新参者であった。


たまにはこういうのを相手にしてみるのも悪くないか、と一先ずメールをして反応を伺う事にする。

現在ログイン中と表示されている為、返信はそう遅くないだろう。

再び掲示板を眺めること数分。

ハルから返信が来た。

予想通り、サイトに登録したばかりであるという旨が書かれていた。


それから何通かメールをやり取りする。

ハルは先月に大学院を卒業したばかりの新社会人であるようだ。

既に入社はしているが、明後日から本格的に職務を開始するらしく、緊張をほぐす為に誰かと遊びたかったという。


また、なんと今日はハルの誕生日で、誰かに祝ってもらいたかったとのことだ。

奈良から東京に出てきたばかりで知り合いもあまりおらず、寂しさに耐えかねて出会い系に登録したらしい。

行ってみたい所がいくつかあるようで、良ければ案内しましょうかとメールしたところ、快諾を得た。

待ち合わせの約束をし、準備に取り掛かる。


特に汗をかいている訳でもないが、シャワーを浴びて体を清めた。

ドライヤーで髪を乾かしつつ、毛先にややクセのある黒髪を整えていく。

服装はシンプルに細身のチノパンに白シャツとジャケット。

ロールアップして踝を見せる事で、カッチリし過ぎないよう調整している。


出会い系では21歳という設定である。

元から年齢を上に見られがちな顔だが、さらに身なりをそれらしくするだけで大抵の人を騙す事が可能であることを、俺は知っていた。

愛用のジェルワックスで髪のセットを終えて鏡で全身をチェックする。

自分で言うのもなんだが、爽やかなイケメン風の大学生に仕上がっていた。


客観的な判断をするなら、俺の容姿は"ややイケメン"くらいのものだ。

決して悪くはないが、探せばそこらへんにいるレベル。

だがカッコよさは持っているものでも作るものでもなく、"見せるもの"だという事をこの一年で学んだ。

というより数人の"客"から教えられた。

これなら一目でハルにがっかりされる事もないだろう、と考えつつ少し早めに家を出る。


一年と少し前に一人になってしまった部屋に「行ってきます」と告げるが、当然返事など来るはずもなかった。






メールにて到着した旨を伝え、服装や細かい位置などを教える。

返事はすぐに来た。

ハルもじきに到着するとのこと。

待つこと十分程、やや緊張した面持ちで目を彷徨わせている女性を見つけた。

セミロングの茶髪は派手すぎないゆるふわなカールをしており、大きな瞳は愛嬌のある顔立ちの中でも一際目を引いた。


清潔感のある白のワンピースに春らしい淡い桃色のカーディガンを羽織っている。

メールで聞いていた服装と一致する。

あれがハルで間違いないだろう。

思わぬ美人との出会いに胸が強く鼓動を打つ。

紛れもなく"当たり"であった。

ハルがこちらに目を向け、驚いたように目を見開いたのを見て、軽く手を上げた。

柔らかな笑みを浮かべて近寄るハルに、俺も歩み寄って口を開いた。


「こんにちは、ハルさんで間違いないですよね?」


「はい、そうです!えっと、ツバメさん…ですよね?」


「そうです。今日は来ていただいてありがとうございます。宜しくお願いしますね。」


「こちらこそお願いします!……でも、ちょっと驚いちゃいました。」


手を合わせて上目遣いにこちらを見るハル。


「驚いた…ですか?」


「はい、その……ツバメさんが、思ったより、その……カッコ良かったので。」


頬をうっすらと染めて恥ずかしそうに告げるハルに、思わず笑みを浮かべる。


「そう言っていただけると、頑張ってセットした甲斐がありますね。でも、それを言うなら僕も驚きましたよ。ハルさんがとても綺麗な方だったので。」


「そ、そんな!私なんて全然、全く、これっぽっちも!!」


頬を更に染めてブンブンと首を振るハル。

ゆるふわの髪も一緒に揺れていた。


「謙遜しなくて良いのに……まぁとにかく、今日は楽しみましょうね。」


「は、はい!宜しくお願いします!」


「あまり硬くならずに…普通に友達と遊ぶように、リラックスしましょう。それで、行きたい所がいくつかあるんですよね?」


「あ、はい、そうなんです!えっと……」


ハルの行きたい所リストを聞きながら脳内で地図を広げる。

今日中に効率良く回れるスポットをピックアップしハルに教えると、それで問題ないとの事だった。

夕方まで彼女をエスコートし、デートを楽しむのであった。




空はすっかり赤くなり、夜が近づいている。

横を歩くハルは可愛らしい笑顔を浮かべながら伸びをした。


「……はぁ、今日は色々回れて良かった!ツバメ君、ありがとね!」


「それは良かったです。満足できましたか?」


「もちろん!とっても楽しかったよ!」


この数時間でハルとの距離を縮め、かなり仲良くなる事ができた。

東京に出てきて頼れる人もいない状態であったのが、距離を縮める助けになったのだろうと思う。

結構早い段階で敬語をやめてフレンドリーに話すようになり、俺のことを君付けで呼ぶようになっていた。

俺は敬語のままだが、なるべく柔らかく話すようにしている。


「僕も楽しかったですよ。お別れするのが寂しいくらい。」


名残惜しそうに笑う。

相手に共感させるように演じている自覚はあるが、全くの嘘という訳でもなかった。

それくらい今日という日が楽しかったという事だ。

機会があればまた会えるだろう、と思っていたが、ハルは俺の予想以上に積極的な女性だったようだ。


「そ、それなら!あの…もし良ければ、この後食事とかどう……かな?」


上目遣いでそう言ったハルはもじもじと気恥ずかしげだ。


「……そうですね、大丈夫ですよ。明日は予定もないですし。」


「そっか、良かった!それじゃ、えっと……ツバメ君ってお酒とか飲めたりするのかな?」


「すみません、実はお酒はかなり苦手で…。でも、友達とよく行くので、美味しいお店は知ってますよ。そこで良かったら行きましょうか?」


「そこに行こう!案内お願いね?」


「お任せ下さい。」




店から出ると、外はすっかり暗くなっていた。

だが土曜の夜だけあり、人は未だ多い。

酔っ払いの陽気な声がどこかから聞こえていた。

俺に続いて店から出たハルを見る。


「どうでした、この店は?」


「とっても美味しかったよ!連れてきてくれてありがとう!」


満面の笑みを浮かべるハルに、内心で安堵する。


「それは良かったです。……さて、どうしましょうか。」


考えるフリをしつつハルの反応を伺う。

少しでも帰る素振りを見せたら解散するつもりであったが、ハルは寂しそうに瞳を震わせていた。


「……ハルさんも、明日は特に予定ないんですよね?」


「うん、明日は明後日に向けてゆっくりしようかなって。」


「なら、まだ時間大丈夫だったりします?」


俺がそう言うと、ハルは瞳を輝かせた。


「う、うん!全然大丈夫だよ!」


「なら、これまたおすすめのバーがあるんですけど、軽く飲み直しませんか?…とは言っても、僕は飲めないんですけどね……友達の評判は高いところですよ。」


「行く!行きたい!」


子どものようにはしゃぐハルを見て思わず笑ってしまう。

それに気付いたハルが恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「そ、そんな笑う事ないじゃん……」


「すみません、ハルさんがあまりにも可愛かったので。」


拗ねた様子のハルを宥める。


「もう、そんなこと言っても騙されないんだからね!ほら、早く行こ!」


そう言いつつも満更でもなさそうににまにましながら、ハルは俺の右腕を抱えるように腕を組んできた。

ほろ酔い気分なのだろうか、随分と積極的だ。

肘のあたりに感じる柔らかな感触を楽しみつつ、俺は次の目的地に案内した。




こじんまりした落ち着いた雰囲気のバーを出ると、夜は更に深まっていた。

ハルがまたもや腕を組んでくる。

ほろ酔いで気分の良さそうなハルを見て、苦笑しつつ口を開いた。


「すっかり遅くなってしまいましたね。今日は一日付き合ってもらって、ありがとうございました。」


「んーん、こっちこそありがとね!とってもとっても楽しかった!」


「それは良かった。さて、それじゃそろそろ帰りましょうか。終電も近くなってきましたし。」


そう言って歩き出そうとする俺だが、がっちりと腕を組んだハルは動かない。

首を傾げてハルを見る。


「ハルさん、どうかしましたか?」


「んーとね、えっとね……」


ハルはもじもじとしてごにょごにょと何か言っている。

その様子を見て何が言いたいかを察したが、ちょっと意地悪したくなった俺は気付かないフリをする。


「もしかして気分が悪かったり?それとも忘れ物でもありましたか?」


「そ、そうじゃなくて、その……」


アルコールも相まって顔を真っ赤にしたハルを見て、軽く吹き出した。


「な、何でそうやって笑うのよ……っていうか、わかってるんでしょ?」


真っ赤な顔で拗ねたように口をムッとさせる様子が可愛くて、思わず意地悪したくなってしまう。


「わかってるって何がですか?」


「だ、だから、今日は…その……ごにょごにょ」


「ごにょごにょじゃわかりませんよ。今日は……何ですか?」


「も、もう!君ってそんなに意地悪だったんだね!」


怒ったようにそっぽを向くハル。

だが組んだ腕はそのままだ。


「意地悪なのは嫌いですか?」


「嫌い!……だけど、嫌じゃない……かも。」


「良かったです。…それで、帰らないんですか?」


「うー……だから、今日は……」


「今日は?」


「……か、帰りたく……なかったりなんかしちゃったりして………」


顔から火が出そうなほど赤面しつつも勇気を出したハルを見て、ここが限界だと悟った俺は意地悪を中断することにした。


「….そうですね。俺も、できればもうちょっとハルさんといたいです。良ければ、今日は僕と一緒にいてくれませんか?」


「ツバメ君がそういうなら仕方ないね。仕方ないから一緒にいてあげます!」


赤面したまま笑うハル。

こういう事にはあまり慣れていないのだろう。

それでもこうして甘えてくれるのだから、今日一日頑張った甲斐があったというものだ。


「それじゃ行きましょうか。」


「うん!」


初めて会った人とその日に、というのは久々だ。

最後の最後で失望させる訳にはいかない。

精一杯楽しませよう、と俺は気合を入れつつ歩を進めた。






翌々日。

今日は始業式が行われる。

俺は今日から高校二年生になる。

ここ数年は色々な事があった。

今年度はもう少し平穏な日々を送りたい、と願いつつ体育館で校長の長ったらしい話を聞き流していた。


今日は始業式だけだ。

昼には放課となるが、昼過ぎからバイトの為ゆっくりもしていられない。

昼食は持参しているが、どこで食べようかと思案していると、いつの間にか校長の話が終わっていた。

全員が機械的な拍手をする。

数秒して拍手が収まると、体育館の端に立つ教頭がマイクに近付いた。


「それでは続きまして、今年度から本校に就任して下さる事になった先生方をご紹介します。先生方は壇上へお上がり下さい。」


無駄に良い声の教頭がそう言うと、三人の教師が壇上へ上がった。

男性が二人と女性が一人だ。

あちこちからどよめきが起こる。

おそらく、新人の女性教諭がかなりの美人だからであろう。

だが、俺は別の意味で驚愕していた。


柔らかなゆるふわカールの茶髪。

一際目を引く大きな瞳。

ぷるんとした色艶の良い唇。

それなり以上に整った顔立ち。

そして愛嬌のある可愛らしい笑顔。



間違いない。



「まじかよ……」


嘘だと言ってくれ。





出会い系でやっちまった相手が先生だったなんて……

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