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23.翻訳的オボローニュエム

―――――――――――――――――

 “佳肴(かこう)”のミノタンロース



 ミノタウロスという魔物はご存じだろうか。そう、牛頭半鬼の魔物である。

 その膂力はすさまじく、並みの冒険者では太刀打ちできない。

 だがその肉は美味とされ、美食家の貴族の依頼がつきることはない。


 “佳肴(かこう)”のミノタンロース、これはこのミノタウロスの変異個体である。

 まず目を引くのはその体格。通常のミノタウロスとは比べものにならない大きさだ。

 むろん、そのからだから繰り出されるちからも、ミノタウロスとは比べものにならない。

 だが、そうと知ってもミノタンロースに挑戦する冒険者は多い。

 なぜならその肉の味はまさに天上のものであり、かの魔導王をも虜にしたと言われるからだ。

 そしてその冒険者の多くは骸をさらすことになる。それも当然だ、この魔物は単騎で高位の冒険者パーティでさえ楽に退ける力を持っているのだから……。


 なお、魔導王の一押し部位はタンだったという。



 スキル

 剛力 武器 金剛体 美味

 locked――――

―――――――――――――――――


 ふむ、とりあえず二つ名付きのモンスターだという事はわかった。星も4だしテキストに強いって書いてある。まさに今欲しかったモンスターと言えるだろう。

 ただまあ色々と言いたいことはある。


「説明にミノタウロスってあるけど、どうしてなんだよ。確かミノス島にいるからミノタウロスじゃなかったか? こっちの世界にもミノス島あるのかよ」


 そんな俺のつぶやきに、イリスはやれやれと肩をすくめて答えた。


「前に、ゴブリンの説明の時に言ったでしょう。その辺もマスターの知識にあわせて翻訳されているんですよ」

「ぐ……」


 そう言えばそうだったか。


「なおこちらの言葉ですと〈オボローニュエム〉なんて呼ばれますね。まあ国によっても違うんですが……」

「ちなみに直訳すると?」


 イリスはふむと指を顎に当てて考え込む。


「そうですね……。牛頭悪鬼でしょうか。厳密に言うと違うかもしれませんが、ニュアンス的には近いと思います」


 牛頭悪鬼って……。それなら牛鬼でもよかったじゃないか。まあ、わかりやすさで言えばミノタウロスだろうけどさ。


「ふむ……。ミノタウロスに関しては納得した。じゃああのミノタンロースって名前は何なんだ。明らかにだじゃれ(・・・・)だろう? あれって。 アレも翻訳されたものなのか?」

「知りません」

「…………え?」

「だから、知りません」


 沈黙が訪れた。イリスからのそれ以上の返答はない。


「……さて、そろそろ宴会の片付けでも……」


 立ち上がろうとしたイリスをはっしと止める。


「待てや。何でスルーするのさ!」

「だから知らないんですって。そもそも二つ名付きのモンスターの名前って言わば個体名なんですよ。私の名前、イリスギアもそうです。個体名に翻訳って変な話でしょ」

「いやまあそれはわかるけど。じゃあ何であんなだじゃれっぽい名前になってるんだよ」

「知りませんよ。たまたまか、もしくは神かなんかの思し召しじゃないんですか?」

「んな訳あ……、いやありうるな」


 神と言われて思い浮かぶのは俺をここに送り込んだチャラ神。あいつならやりかねん。いやむしろ嬉々としてやりそうだ。


「……え? ホントに心当たりがあるんですか?」


 納得した俺にイリスが驚く。いや、お前が言ったんだろうに……。


「まあ、俺をここに送り込んだ神ならやりかねんと思っただけだ。イリスさんもこのガチャの仕様とか演出とかで思い当たることもあるだろう?」

「あー……。まあ、確かに――」


 イリスは納得したように微笑んだ。


「――マスターの類友ですしね」

「おい、やめろ」


 俺はイリスの両肩をつかみ、目を見つめて説得する。


「あいつと同類扱いはいやだ。やめてくれ」

「え!? ……は、はい」


 イリスは気圧されたようにうなずいた。

 うん、納得して何よりだ。

 まったく……、ガチのアレ系の奴に昔散々振り回されたんだ。チャラ神がガチなのか振りなのか、いや多分振りなんだろうが、それでも一緒はいやなんだよ。



 さて、あと疑問点はっと……。

 イリスを見ると胸に手を当てて息をついていた。

 ……ふむ。そう言えば片付けに行こうとしたところを無理に押さえつけた形になってたな。冗談で逃げようとしたんだと思ってたけど、存外本気で片付けをしようとしてたのかもしれない。

 そう考えると悪いことをしたか……? いやでも、普段の言動が言動だからなぁ。自業自得という事で勘弁願いたい。


「と言うわけでイリスさんや、片付けの前にいくつか聞いてもいいかな?」

「……片付け? あ、ああ。そうですね。大丈夫ですよ」


 何で疑問形なのさ。片付けるってさっき言ってたやん。

 まあいい、イリスの気が変わらないうちに聞けることを聞いてしまおう。早速腰を落としたイリスに質問を投げかける。


「テキストが突っ込みどころ満載なのはいいとして、スキルが〈剛力〉〈武器〉〈金剛体〉〈美味〉以外はロックされてて見えないのはどうしてだ。他のモンスターはそんなことなかったと思うんだが……」

「ああ、それですか。さっきも軽く触れましたが二つ名付きのモンスターは……、そうですね、マスターにわかりやすく言うとユニーク個体なんですよ。つまり特別なんです。ちなみにマスターはお忘れかもしれませんが私も“機心”のイリスギアと言って二つ名があります。つまり特別なんです」


 知ってるよ、さっきも自分で言ってたじゃん。だからこれ見よがしに胸を張ってドやるな。


「最近マスターの私への扱いがぞんざいなってる気がしたので念押ししてみました。どやぁ」

「親しみを込めてると言っていただきたい」


 いや、イリスに二つ名があったことはさっき言われるまで忘れていたけどな。でも、親しみがあるって言うのはホントだよ。


「親しき仲にも……、という言葉もありますけどね。まあいいです。そんな私のような特別な者は最初からすべての能力を発揮できるわけではありません。つまりはそれがスキルのロックにつながるわけですね」

「ふむ、理解は出来た。ならこいつのスキルのロックを外すためにはどうしたらいい?」

「…………さあ」


 イリスはこてんと首をかしげる。


「もしかしてわからんのか……」

「有り体に言えばそうですね。個体ごとに条件が異なりますからね。そこまで把握は出来ません。まあ、好感度を上げることは大前提でしょうけれど……」

「なるほどなぁ……。ちなみにイリスさん自身のアンロック条件てわかるの?」

「それもわかりませんね。おそらく本人にもわからないようロックされています。ですのでさしあたってマスターはイリスポイントを溜めればいいんじゃないでしょうか。そうすればスキルがアンロックされますよ。たぶん、きっと……」

「適当だなぁ……。大体イリスポイントって何なんだよ」


 俺の言葉にイリスははっと手を口に当てる。


「も、もしかしてお忘れですか? これは再度減点10ですね」


 減点10……? どっかで聞いたことのあるような気も……。


「って、ああ。最初にダンジョン構築していた当たりでそんなこと言ってたな」 

「どうやら思い出したようですね。マスターにしては珍しく察しがいい」

「うるさいわい。大体あれ以降この一週間、一度もそんなの言わなかっただろうが。下手したらイリスさん自身も忘れてたんじゃないか?」


 俺の言葉にイリスはぽんと手を打つ。


「おお、当たりです。10点プラスしてあげましょう」

「当たりって、ホントに忘れてたのかよ!」

「ええまあ。所詮は私の胸先三寸、フレーバーのようなものですしね」


 フレーバーだったのかよ!

 こいつ、俺をからかってくるのはいいんだが、なんだかからかい方が雑になってないか?

 もう少し愛のあるからかい方をしてほしいものだ。


「はいはい、そんなことよりマスター、他に質問はありませんか?」


 イリスがパンパンと手をたたきながらこちらを促してくる。とはいえ――、


「今のところは……。あとはとりあえずこのミノタンロースを呼び出してからになるかな」


 そう言って俺はタブレットを操作し“佳肴(かこう)”のミノタンロースの召喚をし始めた。

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