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Op
棺の中の顔は穏やかだった。
まるで本当に眠っているようだと思ったが、その生命活動は永久に喪われている。
ぼんやりと見つめていると後ろから声をかけられた。
「塔子ちゃん、気を確かにね」
叔母は涙ぐみながら言った。
はい、と小さく頷くと彼女は私の背を優しくさする。
私は今「父を亡くした可哀想な娘」に見えているらしい。
「東京に戻ってくるんでしょう?」
「いや、まだ、わかんないです」
「お母さんを独りにするの?」
いやいや実家には弟もいるから、と出かかった言葉を飲み込み「仕事のこともあるので」とか何とか誤魔化して頭を下げその場を離れた。
「突然の出来事に混乱してうまく答えられない姪」に見えただろうか。
斎場のトイレはモデルルームのような清潔さで満ちていた。
鏡の中の自分は憔悴も落胆もしていない、至っていつも通りのように見えた。
冠婚葬祭用の小さすぎるポシェットを洗面台に置き、ふと目に映った左の手首に腕時計がないことに気付く。
あれは今、実家に置いてある鞄の中に入っている。
そのことを思い出すまでしばし時間がかかった。
何もつけていないのに腕を見てしまうのは単なる癖だ。が、こういう時にこそあってほしいと思った。




