恋の話
恋って何だろう。
ギラギラと照りつける太陽から逃げるように木陰で涼む銀髪の青年とその肩に腰掛けるポニーテールの小さな女の子。
青年は木を掘って作ったオカリナを丁寧に手入れしています。女の子はその白い手を見ながら口を開きました。
「ねーねー。シドって好きな人いる?」
青年は少し驚いてオカリナを拭く手を止めて女の子の方を見ました。
「珍しいね、レミからそういう話題が出るなんて。何かあったのかい?」
「んー。無いともいうし、あるとも言う〜。」
「なんだいそれは。」
ふふっ、と困惑半分、面白半分に笑うシドに、レミは頬を膨らませて「私だってよくわからないんだもん。」といじけた様に呟きます。
「私たちってさ、他の種族よりとっても長生きじゃない?だからそうゆう感情があんまりわかんないと言うか…。」
「そうだね。」
シドは自分の尖った長耳を気にしながら同意しました。レミもその背に生えた透き通った一対の羽を撫でて確かめます。
「あぁ、でも、多分似たような感情を抱いたことはあるなぁ。」
「え?ほんと!?いつ?!誰に?!」
「うんとね。あれは確か、冬だったかな…いつの冬だかは忘れてしまったけどね。」
懐かしさにシドの目は優しく細まり、唇はゆっくりと弧を描きます。
「その冬はいつもと比べて吹雪が酷くてね。この森の木々も何本か雪の重みと強風で折れてしまったんだよ。」
「あ、それ知ってるかも!母様達が風邪を引いてしまった時かな?めちゃくちゃにしちゃったってしょんぼりしてたから。」
「そうだったのか。でも、誰だって体調を崩すことはあるからね。それは仕方ないよ。」
「うん。だからなぐさめてあげた!」
「レミちゃんは偉いねぇ。」
「それで?その吹雪の冬に出会ったの?」
「そうだよ。彼はね、とっても面白い人だったんだ。」
特に一番酷かった猛吹雪の日、僕は家で秋に集めた枯れ木に火をつけて暖を取ってたんだ。
暖炉の側でうとうとしてたら、誰かが戸を叩く音が聞こえた気がしてね。ドアを開けてみたんだ。そしたら誰も居ないから驚いちゃった。
気のせいだったかなって首を捻ってたら、下から呻き声が聞こえてね。見たら人が倒れてたのさ。あはは、二回も彼には驚かされちゃったね。
抱っこしようとしたけど、彼、結構体格が良くて、仕方なく、申し訳ないけど引きずって暖炉まで運んだんだ。
かなり冷えてたから毛布で包まりながら背中合わせで寝てあげたよ。血行が良いのか彼はすぐに体温を取り戻して逆に僕が暖かい思いをしてたな、ははっ。
吹雪で帰り道も分からなくなってたから、しばらく彼を泊めてあげる事にしたんだ。
彼は色んなことを知っていてね。話を聞いてるだけでも楽しかったな。それに力も強くて、大掃除の時にベットを軽々と持ち上げてね。いつも植物達の力を借りてやってたんだけど。僕だけでは引きずるしかないからね。
それから僕が作った歌をとっても気に入ってくれてね。その冬の間中口ずさんでたよ。嬉しかったな。何より彼が楽しそうに歌っている姿に喜びを感じたよ。
それから吹雪がやんで、雪が溶け始めた時、彼が帰る事になったんだ。僕はお土産に干した木の実を持たせて見送ったんだけど、今までに感じた事がないくらい大きな寂しさを初めて知ったんだ。
「きっとこれが、僕の初めての恋だったのかもね。」
「その人とは、もう会ってないの?」
「もう、と言うか、その一回だけだね。」
「もう一回会いたい?」
「もちろん。でも、もう彼はお爺さんになっているだろうし、もしかしたら天界から使者が迎えに来てるかもね。」
「…。」
レミは腕を組んで悩み出しました。そんなレミをシドは微笑ましく思いました。
「良いんだよ、レミちゃん。もう一度会えるなら会いたいと思うけど、会えないならそれでも良いんだ。楽しい思い出ができてそれだけで僕は満足だからね。
さ、僕の話はお終い。次はレミちゃんの話を聞かせてくれないかな?」
「むぅ。私のは、もうちょっと考えてから話す!」
「そうかい。楽しみに待ってるよ。」
「とゆうことで、またね!バイバイ!」
「またね。」
レミの姿が森の向こう側に見えなくなるまで見送り、シドは振っていた手を下ろしました。
「懐かしいな。久し振りに思い出した気がする。
雪が閉じ込めた
僕らの思い出
繰り返す事は
無いだろうだけど
覚えているよ
楽しかった日々
君もあの冬を
覚えているかな
…君は覚えているかな?」
青年の歌声と呟きは、夕暮れの空に溶けて消えて行きました。
恋したい。




