眠れないの。
眠いのに、眠れない。
レイクサイドの森の中。何処からかオカリナの穏やかな音色が聞こえてきます。
音色につられたフクロウが一羽、ゆっくりと飛び立ちました。メロディに合わせて静かに羽ばたくフクロウを月がスポットライトのように照らします。
しばらくして音の源に辿り着いたフクロウは、その肩にゆっくりと羽を下ろしました。
「やぁ、今晩は。相変わらず素敵な舞だったよ。」
オカリナを吹いていた青年はその手を止め、肩の上のお客さんに微笑みかけました。
フクロウは照れを隠そうと羽繕いを始めます。
青年は愛おしげに橙色の目を細め、再びオカリナを吹き始めました。
そんな穏やかな森の夜更けに、嵐がやって来ました。
「…ん?」
青年は自身の尖った長い耳をピクリと反応させ、自分を呼ぶ声のする方へ神経を集中させます。
すると、声はやはりこちらへとどんどん近づいている様子でした。
「シドぉー!」
青年は素早くオカリナを横に置き、自身の胸に飛び込んで来た小さな影を両手で受け止めます。その勢いで出来た風に揺らされたフクロウは、少し迷惑そうにクルルと鳴きました。
「おっとごめんよ。…どうしたんだい?こんな夜更けに。」
フクロウに目配せしつつ、シドと呼ばれた青年は右手に少女を乗せ、今にも泣き出しそうな表情の少女の茶髪を人差し指で優しく撫でました。
「レミ、どうしたらいいかわかんないの!取られたのはくやしいけど、それはいいよ!しょうがないもん!でもちがうもん!そうじゃないもん!でもどうしたらいいかわかんないんだよぅ…ウワーン!」
少女はとうとう泣き出してしまいました。
少女の嘆きに呼応するように木々が騒めきます。
シドは少女が泣き止むまではと、頭を撫で続けました。
「さぁ、何があったか僕に聞かせてくれるかい?」
ようやく落ち着いた少女を切り株の端に座らせます。シドが背中をさすってやると、少女は鼻声で話し始めました。
「ぅん"、今日ね。…ひっく…、ジオと遊んでたの。夢中になって追いかけっこしてたら、…ずびっ。あの子の花だんを、めちゃくちゃにしちゃってたの…。」
ジオは黒猫の獣人の男の子で、レミと仲良しです。あの子、と言うのはレミのライバルでジオと同じく黒猫の獣人の女の子の事です。
「…うん。それで?」
「…レミ、ちゃんとごめんなさいしたの!はんせいしてるの!なのにジオをひとりじめしてるの!ずっと!レミだっていっしょに寝たかったのに!」
「あー、よしよし。それは辛かったね。」
どうやら黒猫の女の子は、花壇を荒らされた代わりにジオと二人で寝る権利を得たようです。
「まぁ、昼間は君が独り占めしてたようだし、今日くらいは我慢してあげてもいいんじゃないかな?」
「それでもいいって、レミ思ったの。でも眠れないの!さびしくて、悲しくて…うぅ、ぐすっ。」
レミは再び泣き出してしまいました。
「なるほどねぇ。それで僕の所へ来たわけだ。
…よし、そう言う事なら今日は子守唄を歌おうかな。レミちゃん、今日はここでお休みして行きな。僕の歌、聴いて行ってよ。」
そう言うとシドは向かい側の木に立て掛けておいた弦楽器を手にとって弾き語りを始めました。
太陽が沈む
辺りが闇に包まれる
でも大丈夫
月が僕らを照らしてる
夜の住人達が目を覚ます
昼の住人よ、さぁ眠れ
宵は彼らの時間帯
眠れないのは
暗くて不安だから
でも大丈夫
星が僕らを照らしてる
夜の住人達が動き出す
昼の住人よ、また明日
夢は僕らの休憩所
「…ふぅ。うん。やっぱり歌は気持ちが良いね。」
シドは肩に居るフクロウに話しかけました。しかし、返事はありません。
(そういえば肩の重みが無いな。)
右肩を見ると、やはりそこにフクロウは居ませんでした。
(どこに行ったんだろ。)
シドが首を傾げていると、
ばさっ、ばさっ。
と、左後ろから羽音がしました。
見ると呆れ顔のフクロウが、いつの間にか泣き疲れて眠ってしまったレミを自身の羽で作ったベットに寝かせていました。
「あはは。さすがメロさん、気が利くねぇ。」
フクロウ、もといメロは、シドに
(貴方が気が利かないだけでしょ)
という視線を送ります。
「いやぁ、メロさんには敵わないなぁ。…レミちゃんも安心し切って寝てるし。僕も寝るかなぁ。メロさんおやすみぃ。」
そう言って一つ欠伸をするとシドは横になって目を閉じ、レミと同じく夢の世界へと旅立ちました。
お休みなさい。




