絶対絶命
先頭を走る玲子さんが叫ぶ。
「式神武装、白夜開放!」
その瞬間玲子さんは式神と合体して白い虎となり、もうスピードでフレークを狙った魔獣の手に噛み付いた。
「すまない玲子。
後は頼んだ。」
フレークはそう言って振り向きもせず走り続けた。
フレークは玲子さんを見捨てたのではない。
信頼しているのだ。
カカオはフレークとすれ違いざまリュッ君に指示する。
「フレークとチョコを頼む。」
リュッ君はカカオの背中からフレークの背中に飛び乗り早速治療を開始した。
そうしている間にも魔獣は手を噛む玲子さんを振り解き逆の手の爪で玲子さんを引き裂こうとした。
「おっと、それはさせねえ。」
玲子さんに振り下ろされた爪をカカオが大剣で受ける。
「遅いわよ、バカ。」
玲子さんはたった一撃手から振りほどかれて地面に叩きつけられただけで式神との合体が解除されていた。
魔獣の爪を防いだカカオの大剣も一撃でボロボロだった。
モナカはチョコとフレークをジャンボに乗せて船に運ぶ。
俺も手伝って船への帰り道を斬り開く。
その時、玲子さんの信号弾が空へと上がった。
赤い信号弾。
即ち撤退だ。
赤い信号弾はただの撤退ではない。
すぐに船を出発させ、船に戻れない者は置いていけという意味だ。
玲子さんとカカオのたった2回の接触だけで玲子さんはそう判断したのだ。
それほどまでに強い魔獣だった。
ジャンボは先に船に戻りフレークとチョコを投げ捨てる。
そしてすぐに俺とモナカを迎えに来た。
俺とモナカもジャンボに残って船に戻る。
モナカはすぐに甲板を走り狙撃班に混じり狙撃を開始する。
少しでも最後尾のカカオと玲子さんの道を作るためだ。
俺は他の人達の乗船を手伝う以外何も出来なかった。
船がゆっくりと動き出す。
乗船を諦めて投げられたロープ付きの浮き輪に捕まる者などみんななんとかして島を出ようとする。
島に残ったら死ぬのだ。
魔獣もそれを理解しているらしい。
大きくジャンプして最後尾の討伐隊と船の間に着地する。
船に背中を向けているため射撃組は最高火力で攻撃するが魔獣の皮膚から少し出血するくらいだった。
このままでは討伐隊は全員船に戻れずに死ぬ。
そう思った時だった。
俺の右肩が久しぶりに熱くなる。
「暗黒剣…。」
俺は小さくそうつぶやくと甲板から魔獣に向かって飛び降りた。
「やめろーラムネーーー!」
フレークさんの叫び声が聞こえるが俺には関係ない。
右肩が熱いのだ。
俺がやらねば誰がやる!
熱い、熱い、俺の身体が熱い!
俺はそのまま魔獣の背中に暗黒剣を突き刺した。
「アオーーーーーン!」
魔獣が堪らずに悲鳴をあげる。
俺は視界の端でカカオと玲子さんが玲子さんの式神を使って船に乗り込んだのを確認した。
他の討伐隊のみんなも式神を使ったり、船から投げられたロープに捕まったりしながら島を抜ける。
俺はたくさんの死体と共に島に残された。
悪魔に貰った右肩の宝珠が熱くなって俺は魔獣に飛びかかった。
その結果カカオや玲子さんやみんなが助かり俺は死ぬ。
俺の中で達成感となんでこうなったという思いが交錯する。
俺の身体に悪魔の大好物の黒い物が増えているのが俺自身にもわかった。
俺はふと左肩に使い魔のゆかりんが乗っている事に気がついた。
「ごめんなゆかりん。
俺一人じゃなかったな。
悪魔の所に帰りたかったよな。」
「キューーイ。」
ゆかりんはそう鳴き声をあげ、俺のシャツの襟を噛む。
バサバサバサバサ。
?
???
「えっ?ゆかりんお前飛べるのか!」
「キュイ。」
ゆかりんは俺を咥えて船まで飛び降りたった。
モナカが泣きながら俺に抱きつく。
「もうなんであんな事したの?」
チョコは無言で俺に抱きついてきた。
「まったくゆかりんが飛べるなら飛べるって言えよ!
冗談キツイぜ。」
カカオも俺に駆け寄ってきた。
「俺を助けに来て死ぬとか勘弁してくれよ。」
フレークも駆けつけてきた。
甲板では屈強な男達も何人か泣いていた。
「俺達もお前が背中を斬りつけて時間を稼いでくれなかったらやばかったぜ。」
討伐隊の人達も駆け寄ってくる。
「まったく心配させやがって。
ラムネがいなくなったら俺のご飯はどうなるんだよ。」
そう言って悪魔が俺の所へ駆け寄ってくる。
そのとてつもない魔力に船の上の手練れ達が何もする事が出来ずに吐き気を催す。
俺達はなんとなく襲っては来ないと分かっているが、周りの人達はたまったものではなかった。
せっかく地獄から逃げ帰ったのにまた地獄がいるのだ。
しかも今回は船の上で逃げ場もなかった。
「なあラムネ。
あれはもういいのか?」
悪魔が魔獣を指差していう。
「もういいも何も俺達じゃ勝てない。」
「そっか、じゃあタコパはまだ先だね。」
悪魔はそう言って島の方へ手を構える。
悪魔の腕がとてつもないスピードで伸びて魔獣を貫く。
悪魔はそのまま魔獣を掴み船の方へ持ってくる。
「いただきまーす。」
なんと悪魔はどこで覚えたのかマヨネーズを取り出して魔獣にかけてそのまま魔獣を食べてしまった。
「やっぱり魔獣の肉は新鮮なジビエに限るな。
じゃあまたな。
船遅いから俺は先に帰るわ。」
悪魔はそう言って消えていった。
船の上ではさっきまでの空気とは一転、俺達と距離を取る人でいっぱいだった。
今週もよろしくお願いします。




