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ドキドキ♡恋のアイドル!?大作戦

作者: ササラ

 恋に悩む一人の乙女がいた。彼女の名前は田中亜希子。おさげで眼鏡の地味で目立たない女子高校生。彼女には好きな人がいた。それは同じクラスの鈴木政夫。人が良く明るい彼はクラスのムードメーカーであった。そんな彼に恋をした亜希子は、しばしば地味な自分と対比させた。

「ああ、人気者の政夫君は私みたいな地味で暗い女なんて、きっと眼中にないんだろうな……」

 同じ教室にいても会話をすることもなく、ただ彼の姿を目で追い、漏れ聞こえる彼の声に耳を澄ませるだけであった。叶わないと思いながら、けれども恋の炎が止まることはなかった。諦めることもできず、亜紀子の心には政夫への思いが募るばかりだった。

 そんなある日、亜希子が気まぐれにテレビを付けたときだった。そこに映っていたのは、きらやかな衣装を身にまとい華麗に踊るトップアイドル夢星ゆめぼしキラリの姿だった。それは格差社会、少子高齢化、先の見えない暗く淀んだ現代社会を照らす一等星のようだった。彼女の姿を見て、亜希子はあることを思い出した。それは政夫がトップアイドル夢星キラリのファンであることだ。そこで彼女は思いついた。

「もし私が夢星キラリになれば、政夫君と付き合えるのかな。そしたらデートとかも……」

 こんな馬鹿なことを考えて何してるんだろうと、いつもの彼女なら一笑に付して終わっていたところだろう。けれども今の亜希子は恋という名の熱病に罹った状態だ。そんな彼女に正常な判断などできるはずがない。

「そうだよ! そうすれば私にもチャンスはあるかもしれない!」

 彼女はこの思いつきを天啓のように感じた。そして、亜希子は100円ショップで黒いサングラスを買ってくると、自前のキャスケットを被りマスクを付けて、髪を下ろした。そして自分の姿を自宅の洗面所で確認した。

「この姿なら、オフの日の夢星キラリと言えなくもない……!」

 八割が隠れている自分の顔を見て、亜希子は確信したのだった。

 その日から、夢星キラリになるための亜紀子の猛特訓が始まった。亜希子は夢星キラリに関するありとあらゆるものを調べ、彼女の発言をすべてノートにまとめ、彼女の思考を自分の頭にインプットしようとした。そして声色も夢星キラリに似るよう自分のものまねを録音しキラリ本人と聴き比べ、彼女の声に近づくため何度も発声の練習をした。

 そして一ヶ月がたった。ついに亜希子は、本人の次に夢星キラリを知っていると言っては過言だけど、かなりレベルの高い夢星キラリそっくりさんになった。

 亜希子は自分の満足するクオリティに到達して達成感を覚えた。しかし、そこで亜希子はある重大なことに気づいた。

「夢星キラリになったとして、どうやって政夫君をデートに誘えばいいんだ……」

 政夫への連絡手段は、クラスLINEのグループから、彼のアカウントを探せば良い。問題なのは、政夫と夢星キラリの関係性である。政夫にとって夢星キラリは好きではあるが、遠い存在である。そんな人が突然政夫にデートを申し込んだら喜ぶかもしれないが、しかし不思議に思うだろう。まして愛の告白なんかされたらどうして自分が、と政夫は喜びよりも困惑するに違いない。ここに来て、亜希子は計画の大きな壁にぶち当たった。しかしここで引き下がる訳にはいかない、と亜希子の目には不屈の闘志が宿った。そして彼女は脳みそを人生で一番フル回転させた。頭がオーバーヒート寸前、彼女の頭には一つの作戦が浮かんだ。それは、名付けて「いとこは夢星キラリ作戦」である。実は田中亜希子は、トップアイドル夢星キラリのいとこである。そして彼女がオフの日には二人で出掛けたり、会えないときも携帯でやり取りをするなど二人は仲良しである。いつものように、亜希子が彼女と携帯で話をしていると、偶然学校のクラスの話になった。そこで亜希子は、クラスに夢星キラリの大ファンである鈴木政夫という男の子がいるということを彼女に話す。その話を聞いた夢星キラリは興味を持ち彼に会いたいと亜希子に頼む。そこで亜希子は政夫に今度の休日、三人で出かけないかと連絡する。しかし当日は、亜希子は体調不良ということで欠席をする。すると、亜希子扮する夢星キラリと政夫の二人っきりのデートになる。これが彼女の考えた作戦の概要だ。しかしこの作戦で一つ問題なのは、政夫がこの話を信じなかった場合は、すべてが水の泡になってしまうことだ。でも、亜希子は政夫の人の良さを信じていた。彼ならきっと、こんなありえない話でも信じてくれるに違いないと。

  亜希子は早速携帯を取り出した。いきなり自分が夢星キラリの親戚だなんて言い出したら怪しまれるから、少し匂わすような内容で彼の反応を伺おうと亜希子は思った。

『こんばんわ。いきなりごめんなさい。政夫くんにお願いごとがあって……』

 もし既読無視されたらどうしよう、と彼女の頭に不安がよぎる。LINEを送って少し冷静になった亜希子の心臓は、湧いてくる不安でバクバクした。

 少しすると、彼女の携帯が「ライン!」と音を立てた。亜希子は思いの外早くに来た返信におどおどしながら、急いで携帯を確認した。

『こんばんわ!田中さんどうしたの?』

 短い返信ではあったが反応は悪くないと亜希子は感じた。

『こんな事突然言われて信じられないとは思うんだけど』

 亜希子は緊張した。ここからがこの作戦の肝となるからだ。

『実は芸能人の夢星キラリは私の親戚なんだ』

「あー送っちゃった」

 亜希子はつい声を上げた。もう、戻れないと彼女は覚悟を決めた。もし政夫がこのことを信じなければこれにて作戦は失敗、そして亜希子は自称アイドルの親戚の電波ちゃんとして今以上に暗い高校生活を送ることになるだろう。彼女のこの先を左右する運命のLINEだった。

『えええええええ!?ドッキリじゃないよね!?』

 政夫のリアクションが大きく、亜希子はなんだか安心をした。その勢いで、亜希子は政夫に、彼に連絡した経緯を伝えた。

『え、夢星キラリに会えるの!?もちろん行く!というか絶対行く!!』

 政夫は亜紀子の話を完全に信じたようで、亜希子はひとまず安堵した。

 日時と場所を決め、とりあえず「いとこは夢星キラリ作戦」を遂行した亜希子はLINE を閉じようとした。すると政夫から

『この話は、俺以外に内緒にしたほうがいいよね。キラリちゃんのプライベートのことだし』とLINEが来た。

『はい、一応秘密でお願いします』

 亜希子は「内緒」という文字を見て、二人だけの秘密ができたみたいで少し嬉しかった。

『了解です。それじゃあ楽しみにしています!』

『はい!キラリちゃんも楽しみにしているとのことです。おやすみなさい』

 亜希子も政夫とのデートが楽しみだった。けれども、彼を騙していると思うと、彼女の胸はチクリとした。


***


 当日、亜希子は地元の駅前で、キャスケットにマスクとサングラスを付けた、なんちゃって芸能人お忍びコーデで、政夫のことを待っていた。

 ここまで、亜紀子の計画は順調に進んでいた。あとは政夫が待ち合わせ場所に来るだけだった。

 もしかしたら嘘がバレてしまったのではないかと亜希子に不安がよぎった。

 待ち合わせ時刻の10分前になった。亜希子は携帯を確認したけれど、政夫からの連絡はなかった。亜希子はキョロキョロと辺りを見回した。すると後ろから

「あのー……もしかして、夢星さんですか?」

 亜希子は後ろをはっと振り返った。そこには田中政夫が立っていた。

「あ、えっ、あ……」

 亜希子は気が動転してしまった。目の前の女性が慌てふためくのを見て、政夫は困惑した。

「すみません、もしかして人違いでしたか?」

「いや、夢星キラリです! よろしくね」

「…………あ、夢星さんよろしくお願いします。田中さんのクラスメイトの鈴木政夫です」

 亜希子は意外と政夫が夢星キラリを対しても冷静なのに驚いた。もしかしたら正体がバレてしまったのかと亜希子は動揺した。しかし、今更引き戻ることはできなかった。

「……えーっと、じゃあ行こっか。いやー亜希子も風邪引くなんてね。本当についていないというか、うわっ」

 亜希子は緊張と焦りで足をもつれさせコケた。

「大丈夫!?」

 政夫から差し伸べられた手を見て、亜希子は昔のことを思い出した。それは、亜希子が政夫を意識するようになったきっかけになった出来事だった。

「あ……」

 亜紀子の頬に涙が伝った。涙と共に政夫を騙している罪悪感や彼への恋心様々な感情が亜希子の中に湧いてきた。

「ごめんなさい、私夢星キラリじゃないの」

「……うん、ごめん。実は最初に会ったときに声で気づいていた。田中さん……だよね?」

「あ、気づいていたんだ。うん、やっぱり私じゃ夢星キラリにはなれないね」

「でもっ、田中さんのキラリちゃんのものまね上手だったよ。いや、俺はキラリちゃんの長年のファンだから違うことに気づいたけど、普通の人だったら多分わからないよ!」

 亜希子があまりにうなだれていたので、政夫は咄嗟に何故かものまねのフォローをした。

 泣き止まない亜希子に政夫はしゃがんで自分のハンカチを渡した。

「……ありがとうございます」

「いえいえ。怪我とかはない?」

「はい、大丈夫です。ありがとう」

 亜希子は政夫の手を借りてよろよろと起き上がった。亜紀子の気持は幾分落ち着いていた。

「騙して本当にごめんなさい」

 深々と謝る亜希子に政夫は困惑した。

「いや、別に俺は大丈夫。でも田中さんはどうしてこんなことを? もしかしてクラスの誰かに……」

「ううん、違うんです! これは私が勝手にしたことなんです。その……」

 しかし、政夫に嘘をついた理由を話すことはつまり政夫に告白することだった。亜希子はなかなか話すことができなかった。

「話すことが難しかったら無理しなくていいよ。でも、もし誰かに嫌なことをされていたり何か辛いことがあったら相談に乗るから」

「……ありがとうございます」

 話はこれにて終わりそうだった。でも、勝手に人の名前を使っておいてこんな中途半端に終わらせるのは私が許せなかった。

「ちょーっと待った!」

 どこからか聞こえる声に二人は戸惑っていた。しかし、二人ともこの声には聞き覚えがあった。

「え、夢星キラリ!?」

「そう、トップアイドルの夢星キラリです」

 正真正銘の本人に二人はあせあせした。

「え、キラリちゃん今ここにいるんですか!?」

「まあ、ここにいると言えばここにいるし、強いて言えば君たちの心の中にいるというか。そもそも夢星キラリは様々な人の偶像であるから一種の概念であるから……まあ、夢星キラリの話をするところに私ありって感じよ」

「はあ、わかったようなわからないような……」

「というか、夢星キラリの存在については今は重要じゃないのよ。問題は亜希子っ」

「は、はい!」

 急に自分の名前を呼ばれて亜希子はびっくりした。

「あなた政夫に言わなきゃいけないことがあるんでしょ?」

「え……」

 空回りとは言え、亜紀子の努力を見てきた私としては彼女にはそれなりの成果を得て欲しかった。それに政夫も……

「ここで言わなければきっと後悔する。亜希子も伝えたいんでしょ、自分の気持ち」

「……はい」

 亜紀子の目の色が変わった。さっきまでのコケて突然号泣しだす彼女とは雰囲気が違っていた。頑張れ。

「私、政夫くんのことが好きです。それで、夢星キラリになったら政夫くんと付き合えるかな、とかそんな馬鹿なことを考えてしまって……失敗しましたけど。人を騙しておいて、こんなこと言っても信じてもらえないかもしれないけど……この好きの気持ちは本当なんです!」 

 突然の告白に政夫はフリーズした。

「ごめん、ちょっと頭が混乱して……えーっと……」

「要するに亜希子は政夫のことが好きってことだよ。政夫は亜紀子のことはどう思っているの?」

「俺は……」

 一拍置いて、政夫は言った。

「俺もっ、田中さんのことが好きです! 田中さんといつも話してみたいと思っていました。だけど、俺みたいなうるさい奴は田中さん嫌いかなとか、勝手に思っちゃっていて。だから誘ってくれたのすっごい嬉しかったし、今日田中さんと初めて一緒に遊べるってのもすごい楽しみだった。だから、キラリちゃんのマネをしなくたって、田中さんはそのままの姿が一番素敵だと思います」

「ありがとう……ございます」

 亜希子はまた泣き始めた。けれども今度の涙の意味は違う。

「じゃあ、私はここらでお別れね」

「キラリちゃん、ありがとうございました。あと、これからもずっと応援します!」

「勝手に夢星さんの名前を使ってごめんなさい。そしてありがとうございました」

「どういたしまして。二人共お幸せに!」

 ここからは二人だけの物語だ。


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