魔法少女の朝
−これは夢だろうか……
幼い私と父親が目の前にいる
「我が子よ、男は強くなければいけない。
そして常に男らしく生きてゆくべきなのだ。解るか?」
目線を幼い私の目線に合わせてそのまま頭に手をのせてくる
「うん、おとーさん」
そういって笑う幼い私。
−随分懐かしい話だ。父親は私が10歳の頃にいなくなってしまった。
何があったのか、私はその頃の記憶が思い出せない。
だから父親がいなくなってしまった理由は全く判らないが、まあ知らなくて良かったのではないかと今思った
幼い私の返事を聞いて笑顔をつくり、頭にのせた手でクシャクシャと髪を触る。
「そうだ、常に男は強くなければいけない。だから寂しくたって泣いては駄目だ。」
−ああ、こんな父親だった、そしてあまりに馬鹿馬鹿しい。
そして、いなくなった理由を思い出した。
「俺から強くなれる魔法を一つかけておく。キミは必ず強くなれるんだから。」
そう言って何かブツブツとつぶやき出した。
−そう、この魔法をかけられて、私は全てを忘れたのだ。
魔法にかけられ意識を失い倒れる幼い私。
ソレを優しく支えてそのまま寝かす父親。
「じゃあ、行ってくるよ。必ず帰ってくる。」
そういって幼い私に背を向けて何処かへ行こうとする父親。
その手にはやたらと派手派手しいピンクのステッキ。
その格好はやたらと派手派手しいピンクのドレス。
その要望はやたらと派手派手しい魔法少女に見える。
そう父親は魔法少女だったのです。
−−−−−−−−−−−−−−
「"だったのです"じゃねえですよ!!!なんやねーーーーん!!!!」
そういって関西風なツッコミの雄たけびを上げ、フトンから飛び起きる私。
「今凄かった!凄い悪夢見たよ!恐怖の片鱗を見たよ!!」
叫び続ける私に相棒の緑色の球体形状の生物であるマリモが話しかけてきた
「えぇー……いきなり何なのさ?まだ朝早いんだけど」
寝起きなのか少し呆けた顔をしているようだ。
「父親、ステッキ持った、同じ、全身ぴんく、魔法使う、ドレス、女の子、私」
興奮した私は情報を整理しきれず片言になる私。
それに対し、眉をひそめて困った顔のマリモ。
「全然理解できないんだけど、父親は女の子でもキミでも無いと思うよ?」
「そう、何を言っているか解らないが私にも理解できない。頭がどうにかなりそうだ。」
「イヤ何だか本当によく解らないんだけど朝から騒ぐのはよくないと思うよ?」
父親が魔法少女、多感なお年頃の10歳児には衝撃的じゃないのか。何故笑顔で父親に返事するんだ幼い私。ツッコミ所満載じゃないか。お前の格好が一番男らしくないって。断言できるって。あとその格好でドコに行くんだと問いたい、問い詰めたい、子一時間(略)
「なあ、そうは思わないか、マリモ?」
思考の中でツッコミを入れてたら少し落ち着いてきた私は、マリモに同意を求めてみた。
「何が?キミと一緒にいると何かと聞き返す事が多くなって嫌なんだけど?」
なにやら不満を言われたので反論してみる。
「私は同意を求めただけだ。何故ソレが解らないんだマリモ。馬鹿なのかマリモ。どうなんだマリモ」
かなりウンザリした顔をした後、顔をしかめるマリモ。
「何に同意を求めてるか解らないからイヤなんだけどね。あと僕はマリモって名前じゃないよ。」
「そうかマリモ、解ってもらえないのは残念だ。そしてまことに残念ですが貴方はマリモなのでそれ以外の名前など認めませんので。」
本当に心底嫌そうな顔をした後ため息を付くマリモ。
「ああ、なんでこんな人と組んじゃったんだろボク。」
「嗚呼可愛そうなマリモ。という事で朝のやり取りは終わりですよ。朝の支度を終わらして会社に行かないとね」
気持ちを切り替えて朝の準備をしよう。今日も仕事が待っている。
私は長くなっている金色な髪をツインテールにし、フトンをかたす。
枕元においてあった、やたら派手派手しいピンクのステッキを手に取る。
「なあ、マリモ。これ捨ててきていい?」
何気なくマリモに聞いてみる。
「絶対駄目だよ。魔法少女には絶対必要なものでしょ?」
今日も駄目らしい。いつか必ず捨ててやる。
頑張れ山本、負けるな2代目魔法少女。
そして今日も山本真助(男性)22歳は会社に向かう。やたらと美少女な見た目で。
「せめて元の姿に戻れたなら全く問題なかったんだけどな」