プロローグ
「キョウ!ちょっと空き教室来てくれ!」
いきなりの幼馴染からの呼び出し、トイレに行ってそのまま帰ろうとしていたというのに。
「ガクは今日何も無いのか?」
「今日はどこも部活の助っ人には行かないって決めてるからな!」
「そりゃまたどうして」
「…マジで言ってる?」
…何かあっただろうか、まさかガクに彼女でも出来たか?幼馴染で同居人でもあるガクがいつの間にそんなことに。これは応援すべきだろうな、とりあえずおめでとうって言っとくか。
「おめでとう」
「いや、それこっちのセリフ!」
「ん?」
「え?」
「何故僕に?」
「いや今日誕生日だろ?」
あ、そういえばそうだったな。余りにも興味なくて忘れてた。というかガクはマメだな、僕の誕生日をわざわざ覚えているとか。
「あー、マジか…ちょっとお兄ちゃんが抱きしめてやるからこっち来い」
「何でだよ、イヤだ」
「俺が抱きしめて、キョウに自分の価値を分かってもらうから」
「イヤだって言ってる」
「そんな拒絶しなくても」
「とりあえず空き教室に行くんだろ、案内してくれ」
「あっ、そうそう!こっちだこっち!」
そう言って僕の手を掴んで引っ張るガク、ちょうど痛くならない程度の力で。こういうとこがガクのモテる理由なんだろうな。
「キョウ、ちょっと目閉じてろ」
「変なことしたら殴るからな」
「しねーよ、たぶん」
「たぶん…?」
「とりあえず手をひくからついてこい」
言われた通りについて行く、そして教室の真ん中辺りで止まった。
「よし、もう開けていいぞ」
「ん」
「「パッピーバースデー!おめでとう!遥!!」」
クラスメイトのみんなが居た、どうやら僕の誕生日を祝に来てくれたらしい。少し目を見開き唖然としていると。
「遥が誕生日だって伝えたらみんな来てくれたんだ」
「当たり前だろ!なぁ!」
「おう!」
「別に私はどっちでも良かったんだけど、みんなが行くからしょうがなく…」
「はいはい、ツンデレツンデレ」
「なによ!その投げやりな感じ!」
みんな笑顔でおめでとうと言ってくれた、他人である僕に対して。僕は冷えた心が温まるのを感じた。
「みんな」
「お?」
「なによ」
「ありがとう」
僕は笑顔で言えていただろうか、みんなに少しは返せてただろうか。
「破壊力凄すぎ…」
「あっ…(昇天)」
「たたたたいいいしたたたことななないいいわわね」
「落ち着け」
どうやら上手くいったようだ、反応は様々だが喜んで貰えたことはわかった。
「あっ!ケーキも用意してるから!」
「家庭科部の子達も『いつも遥くんにはお世話になってるから!』って快く受けてくれたよ!」
「遥、いつの間に家庭科部と交流を…」
「ただちょっと準備を手伝ってあげただけだよ」
特別なことはしていない、手伝って欲しいと言われたから手伝っただけだ。
「はい!ロウソク18本!」
「カーテン閉めろー!」
「一気に吹き消せよ!」
「うん」
僕はそのケーキの前に立ち、息を吸い込む。一気に吹き消せば願い事が叶うんだっけ?
じゃあ僕の願い事は
みんなとずっと一緒に居られますように。
「フッ!」
「すぅううぅうぅうう!」
「なんかここ空気薄くね?」
「なんかツイちゃんの方に体が引っ張られるんだけど…」
変化が起こり始めたのは僕が吹き消したその瞬間だった。
「うおっ!下からの演出もあるのかよ!誰だこれ設置したやつ!」
「すげぇ!まるで魔法陣みたいだな!」
「ファンタジーだ!」
「やべー!」
僕はいつもは絶対に出さない程の大声を出した。直感的に僕はその魔法陣がヤバいものだと気付いたからだ。
「みんな!逃げて!!」
「遥が大声出した…」
「うピィ」
「ツイちゃんが倒れたぞー!!」
僕の声は無駄なものとなり、僕を含めたみんなが光に飲み込まれた。この時全員が反応して逃げていればあんなことにはならなかったのに。兎にも角にも僕の18回目の誕生日は最悪なものとなった。
ツイちゃん→ツインテールの女の子、可愛いもの大好き。男の娘である主人公のことを心の中で溺愛してるが素直になれない。