落ちこぼれのエルフ ②
「初めまして。俺の名前はリクだ」
俺は、奴隷商館に来て初めて、自らの名前を名乗る。
「はわわっ。は、初めまして。ル、ルナなのです」
⑦のプレートを付けたエルフの美少女――ルナは、緊張しているのか、震える声で自分の名前を言う。
「奴隷落ちした経緯を聞いてもいいか?」
手元のファイルに記載もあるが、どうせなら本人の口から確認したい。
「は、はいなのです。ル、ルナは……エルフなのに弓も魔法もへっぽこでして……村の仲間からも……家族からも見放されて……奴隷として売られましたです」
「なるほど。大変だったな」
ファイルの情報と、ルナが話した内容に相違はない。虚偽が無ければ、見栄を張ることも無かった。【神の瞳】が示すとおりに、誠実な人間性は備えているようだ。
「本題だが、俺の仕事を手伝って欲しい」
「仕事ですか? ルナに出来るのなら……。どのようことなのです?」
「今は素材の採集と鑑定が主な仕事だな。素材の採集では、同行して荷物持ち。場合によっては、モンスターに襲われる危険性もあるので、その時は一緒に戦って欲しい。鑑定に関しては、アイテムの整理だな」
「はわっ!? お荷物を持つのも、アイテムを整理するのも問題はないのです。ただ、モンスターと戦闘は……ルナはエルフなのに弓も魔法も……」
ルナの言葉尻が萎んでいく。心なしか、エルフの特徴である長い耳も少し垂れてきた。
「安心しろ。お前の弓も魔法も全く期待はしていない」
俺はきっぱりと言い切る。【神の瞳】で確認した限り、ルナの弓適正はE 魔法適正も各属性全てがFだ。はっきり言ってしまえば、才能がない。
「はうっ。断言されたのですよ……」
ルナはあからさまに落ち込む。エルフの世界で弓と魔法が使えないって言うのは、俺が思う以上に重大な事なのかも知れない。
「お客様。⑦の商品をお買い上げでよろしいですか?」
老紳士がクロージングを仕掛けてきた。
「あぁ。彼女が俺の伝えた仕事内容に異存がないのであれば、問題はない」
俺は、老紳士、次いでルナの目を見て話す。
「ルナは……ルナは……不安はありますが……頑張りますです!」
ルナは葛藤しながらも、最後は力強い言葉を吐いた。
「よし、なら購入だ。店主。彼女を、ルナを購入させてもらう」
「畏まりました。お買い上げありがとうございます。リク様、当店は返品を一切受け付けておりません。商品番号⑦は、性行為不可が従属条件としてございます。本当によろしいですね?」
「うむ。構わない」
「畏まりました。ありがとうございます。それでは、金額のお支払を確認次第、従属契約を結びますが、よろしいでしょうか?」
「問題ない」
俺は、ポケットの中からルナの代金――十二万Gを取り出して老紳士に渡す。ルナの代金は十万Gであった。二万Gは従属契約の為の諸経費だ。ちなみに、ルナが性行為可能であったなら、〇の数が二つ増えるらしい。
「十二万G……確かに。ご購入ありがとうございます。奴隷紋はどこに施しますか?」
「特に指定は無いが……」
「リク様。一般的には首に施します」
「首ね。他には?」
「信用出来る相手であれば、手首や足首に施す場合もございます」
「信用出来る相手であれば? 手首とか足首だと見えづらいからか?」
「いえ、奴隷が主に叛意を抱くと、奴隷紋が絞まります」
うげ。結構エグイシステムだな。要は、首に入れたら、叛意を起こしたら死ぬよって事か。
「ルナ? 君はどこがいい?」
「はわっ。ご主人様、私に聞くのですか!?」
「奴隷紋を施すのはルナの身体だからな。自分で選んでいいぞ」
「じゃ、じゃあ……手首で」
ルナは小さく呟く。
「リク様。手首に奴隷紋を施します。本当によろしいですね?」
老紳士は、俺へと最後の確認をする。
「問題無い。よろしく頼む」
「畏まりました。それでは、リク様。血を一滴頂戴します」
老紳士はそう言うと、針で俺の手の甲を刺して、僅かな血を抜き取ると、俺の目の前でルナの手首に奴隷紋を施した。
従属契約って魔法なのか。使うかどうかは不明だが、従属契約の魔法をついでにラーニングした。
「これにて、完了です。リク様、またのご来館をお待ちしております」
恭しく、頭を垂れて一礼する老紳士に見送られ、俺は奴隷商館を後にするのであった。




