保険金詐欺①
盗難保険導入から三〇日の時が経過。
盗難保険の認知度及び有用性は日々高まり、現在は「運搬はギャンブルだ!」と声高に叫ぶ破滅まっしぐらな一部の商人を除く、全ての商人が加入するまでに至った。
一日で得られる保険料は平均して五十万G。支払う保険料は二十八万、諸々かかる経費が二万Gとして、現状は二十万Gづつ、盗難保険の保険金がプールされている計算になっている。傷害保険も相変わらず好調で一日で二万Gづつプールが出来ている。
つまり、俺の懐には毎日二十万G以上のお金が入ってきているのだ。
「ふむ。好調だな」
俺はシャーロットが作成した収支表に目を通し、頷く。
「はい。流石はリク様ですわ」
最近では、奴隷というか秘書のような立場に収まったシャーロットも、満足そうに頷く。
「ご主人様! 新しい剣を買ってもいいです?」
生産性としは確実にマイナス。最近は俺の奴隷というよりも、一端の冒険者となったルナが俺に申請書の提出という名のおねだりをしてくる。
「は? 前も買っただろ?」
「違うのです! 最近は夜にゴースト系のモンスターが増加してきたので、魔剣が欲しいのですよ」
「魔剣だと? いくらだ?」
「ちゃんと、申請書に記載してあるのですよ」
ルナは以前から口頭でのおねだりが多かった。現状、会社を経営している訳では無いが、支出はきちんと把握したいので、欲しい物がある時は申請書を作成して提出するように、ルナに義務付けたのだが――渡された申請書には、汚い字で『購入する物:まけん 金額:二十五万G 理由:ゆうれいさんを倒すのです』と巫山戯た内容が記載されていた。
「……おい。二十五万って、お前よりも高いじゃねーか!」
ルナの購入金額は十二万Gだ。
「はぅ……そ、それは、アレですよ……ルナがお買い得過ぎただけなのですよ」
「ほぉ。お買い得ね」
俺は必死に言い訳をするルナに目を細める。
「そうなのですよ!」
「魔法を使えない、弓を使えない、料理も下手、掃除もイマイチ、計算も苦手、ついでに性交渉も不可――」
「はわわわっ!? ち、違うですよ! ルナには剣があるのです! 冒険者の皆さんもルナの剣の腕前は凄いって、皆さん言うのですよ!」
ルナのダメだしを続ける俺の言葉を遮って、ルナは必死に剣を持って訴えかけてくる。
「ほぉ。剣の腕前ね。それを見出したのは誰だった?」
「……ご主人様なのです」
「ルナは俺が言わなくても、剣の才能に気付けたか?」
「……無理なのです」
「そもそも、ルナ。お前の今の立場は?」
「……奴隷なのです」
「最近だと、奴隷に二十五万もの大金を費やすのが普通なのか?」
「……」
「ん? どうした? 聞こえないぞ?」
「……うぅ。意地悪なのです。ご主人様は意地悪なのですよ」
「意地悪? 誰が? 俺か? そうか、それならルナは俺以外のご主人様を探しに――」
「はぅ……。ドナドナは嫌なのですよ! 分かったです! ル、ルナは今晩ご主人様に身体を捧げます!」
「……おい。今の会話からどうして、その結論に至った?」
「えっ? だって、ご主人様が性交渉が不可とか……」
頭を抱える俺に、ルナは顔を赤らめて小声で返答する。
「なぜ、その言葉のみをピックアップする……。シャーロット、任せていいか」
俺は頭を抱えて、シャーロットにその後を任せる。
「畏まりましたわ。ルナ先輩は先輩なので、譲りますわ。ルナ先輩はエルフなので子供の心配はありませんが、一応薬屋で――」
「待て! シャーロット。お前は何を任された?」
勘違いをして暴走するシャーロットに俺は、更に頭を抱える。
「えっ? リク様とルナ先輩の夜の――」
俺はシャーロットの脳天をチョップする。
「違う! コレだ!」
俺は申請書のある箇所を指差し、シャーロットに見せる。
「ハァハァ……ゴミを見る様な冷たい視線から……ハァハァ、全身に響き渡る脳天への手刀……ご馳走様ですわ」
身悶える変態に、俺は嫌悪感を示す。
「シャーロットもドナドナか……。他に計算処理が高い奴隷が数人――」
「ハァハァ……更には言葉責め……じゃなくて冗談ですわ! 軽い冗談ですわ!」
俺の真剣な目を見て、即座に行動を改めるシャーロット。
「ルナとシャーロットをセットで売ったら、少し高値で売れないか、聞いてくるか」
俺は椅子から立ち上がり、部屋から退出しようとする。
「はわわわっ!? ルナはドナドナ決定なのです!? 巻き添えなのです! シャーロットの巻き添えなのですよ!」
「リ、リ、リ、リク様! お、落ち着いて下さい! ルナ先輩! 申請書のここが不備ですわ。費用対効果の欄が白紙ですわ。二十五万Gの魔剣を購入したら、いくらの利益が見込めるのか記入がないと、申請書は認められないのですわ」
ルナは泣き叫び、シャーロットは痙攣かと思われるほど震えた後に、俺が指差した申請書の不備をルナへと説明する。
最初から、そうすればいいんだよ。
「うぅ……。またなのです。ひようたいこうか? 難しい言葉は反対なのですよ」
「難しい言葉じゃねーよ。常識だ。無闇矢鱈に何でも買って貰えると思うな」
「うぅ……。守銭奴なのです。ご主人様は守銭奴なのです。昨日も、商業ギルドでご主人様は守銭奴と言ってた商人さんがいたのですよ」
ルナが泣きながら俺を罵倒する。
「は? 俺が守銭奴? 保険料は適切に算出してる。その商人は何て言ってたんだ」
「えっと……ご主人様の保険に加入してないのに、保険金を請求をして、無理ですって言われたら「守銭奴!」「詐欺!」「こいつらは金だけ取って、対価を払わない!」と叫んでたのですよ」
ルナの言葉を聞いて、俺は頭を抱える。
「守銭奴に詐欺ね……。詐欺師は俺じゃ無くて、そいつじゃねーか!」
俺は声を荒げて、机を思いっきり叩く。
「はぅ……。ルナじゃないのですよ。言っていたのは商人さんなのですよ……」
激昂した俺の様子を見て、ルナがオロオロとする。
「ったく、まぁいい。ルナ、魔剣が欲しかったら俺が納得出来るだけの理由をちゃんと申請書に記入してから来い」
「はいなのです……」
結局ルナは俺を納得させるだけの申請理由が思い浮かばず、魔剣の購入はお流れとなったのであった。
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