第四百六十話・石山本願寺の回答
書籍版よろしくお願いいたします。
次に繋げるためにも|д゜)
Side:山科言継
「内蔵頭よ。また織田から荷が届いたと聞くが?」
「はっ、此度は新しき趣向にて、梅の酒なる物も届いたようでございます」
「ほう。それは楽しみよの」
大樹がまた都から逃亡しおった。主上は多くをお望みではおられぬ。ただただ天下太平をお望みなれば……。
それなのにあの者たちは……。
此度は都を三好が押さえたことで荷が届くかと案じておったが、さすがの三好も織田の荷には手を出さなんだか。
三好も、大樹を抱える六角も、織田のことが気になるのじゃろう。尾張はかつては幕府軍の主力となったほどの力ある国じゃ。尾張をまとめて勢力を取り戻した織田が、いずれに付くかで畿内の情勢が変わりかねん。
もっとも当の織田は相も変わらず畿内に関わる気はないようで、よき品々を主上に献上し、大樹にも多少送って仕舞いとしておる。
なにも出来ぬことにお心を痛めておられる主上が、ことに楽しみとしておられるのは、季節の変わり目に届く織田からの品々じゃ。
都では献上品は一度か二度で絶えてしまい、官位の無心に相違ないと囁く者も多かった。じゃが、織田からは荷は届くものの、官位を言の葉に載せることもなく、近頃では荷を運び参った使者も挨拶が終われば直ぐに帰りてしまうほどじゃ。
前回は正月を迎えるということで、正月に使う品々をわざわざ諸国から集めて献上して参った。むろん手に入らぬこともないが、内裏も楽ではないからのう。正直、助かっておる。
「して、内蔵頭よ。織田はやはりいかようにも言うて参らぬのか?」
「はっ、特には……」
「そろそろ報いておかねばと思うのだが?」
「はっ、まことに」
主上もそろそろ織田になにか報いてやるべきとお考えか。今時、珍しいほど大量の献上品を運んで参るからのう。
とはいえ、あそこには斯波もおる。朝廷では官位を授けてやるしかないが、よく話し合わねば。余計な波風が立つのは織田とて望むまい。
「そういわば、堺の偽金色酒とやらはいかがした?」
「その件についてでございますが、堺は自らが南蛮より得た金色酒だと主張しております」
「なんと朕の願いが聞けぬというか……」
織田絡みで厄介なのが堺じゃな。織田の金色酒を汚す真似をしおって。
武家の体面に泥を塗りて良いことなど何もないと、何故わからぬ。
主上がお気にされておられるので、勅使ではないが公卿を送って止めるようにと言うたのが聞きいれんのじゃ。
「堺は織田が領内で使いせし織田手形なるものを偽造したことも露見しております。織田は最早堺を見限り、大湊が代わりに諸国に品々を売っておりますので……」
まあ堺のことは三好に言うしかあるまい。別に売るなとまでは言うておらん。織田が名付けた金色酒の名を使うなというだけのことじゃ。
じゃが、この件は織田が賢いの。最早堺など必要ないと無視しておるわ。
ここまでくれば織田に堺と和睦する気があるかすら怪しいの。桑名の件でも会合衆の首をすげ替えるまで和睦はしなかったからの。
さて問題は官位か。断りそうな気もするの。畿内が騒がしいこともある。巻き込まれたくはあるまい。
とはいえ断られるのは困るの。はてさて、いかがしたものか。
Side:久遠一馬
願証寺から石山本願寺の議論について知らせる文が届いた。
石山本願寺は自分たちが寺を再建することを諦めたらしい。まあ寺院の再建費用くらいなら出してもいいと考えていたらしいが、荒れ果てた寺領の再建にまで、多額の銭を出すのを渋ったらしい。
普通は地元や各地の信徒から銭や人手をかき集めるんだろうが、織田側が事前に付けた他国の信徒を入れるなという条件が地味に影響したみたいだ。
そもそも石山本願寺とは三河の件とは切り離して商いを普通に続けている。不作を補填するために頼まれた食糧も売ったし金色酒や絹織物や綿織物に、鉄も頼まれたので売った。さすがに硝石は売らなかったが。
皮肉と言うか外交らしいというか、向こうは織田との関係や取引と三河の件を完全に分けて考えている。
決定打は信仰に関しては制限しなかったことだろう。三河の件とは別に、堺の偽金色酒への対応については連携する用意があるという文が信秀さんには届いている。織田領内全域で一向宗の禁教令でも出なければ、三河の件などどうでも良いと考えているのかもしれないな。
「坊主どもは怖いな。手のひらで転がされておるような気になる」
願証寺からの文に信秀さんが珍しく苦笑いしている。外交能力は武家の比じゃないね。さすがに戦乱ばかりの日ノ本の中心で勢力を誇っているだけのことはある。戦国時代に外交僧が活躍するわけだ。
三河は願証寺に任せて織田との関係を拗らせたくないのが本音かな。
「想定の範囲内だよね? エル」
「はい。信仰さえ奪わなければいいのです。石山本願寺が引けぬ一線はそこですから」
織田も外交戦での対抗は難しいかもしれない。エルがいなければ。
「だが守護使不入はいかにする。あれは要らんぞ」
「三河の寺領の統廃合と守護使不入の撤廃は願証寺に飲ませます」
懸念は守護使不入だ。エルの言葉に横で聞いていた信長さんがそれを指摘するも、返答に少し驚いている。そんなこと出来るのかと言いたげだね。
でも想定の範囲内なんだよ。石山本願寺の議論は虫型偵察機で把握しているから向こうが許容する範囲でこちらが有利な条件にするだけだ。
皮肉なことだが、加賀とか過去の本願寺の悲惨な経験に比べると、今回はたいしたことがないというのが石山本願寺の本音だ。
勝手に国を乗っ取り、周辺から弾圧されるような大混乱でもなければ、禁教令が出て信仰の危機でもない。
守護使不入は維持したいのが本音だろうが、肝心の願証寺ですら三河の守護使不入は維持が無理だと考えており、それは石山本願寺にも伝わっている。石山本願寺が派遣した高僧が殺されたことで、石山本願寺内部にも守護使不入については無理に維持する必要はないと考えている僧も一定数はいる。
彼らからすると織田が信仰を認める以上は、従うのもやむを得ないというのが現状だろう。幸か不幸か三河はもともと本證寺の勢力地で願証寺のものではない。
まあ、願証寺が織田と上手く話して、信仰を守れればいいというのが石山本願寺の本音だ。
なんというか畿内以外の価値を低く見ているのは、本当にこの時代の人らしいと言える。
「蜂起した寺は廃寺にし、寺領は織田の直轄領にします。残った寺は相応に罰を与えて織田の法に従わせることと引き換えに信仰を認める。そのあたりが落としどころかと」
最終的には三河の本證寺系の寺の寺領を全て召し上げることも考えていたが、ここで石山本願寺が先に折れると逆に難しいよね。妥協してもいいから拠点と信仰さえ守れれば織田に従う気なんだから。
加賀のある北陸や関東を見ていると、三河でまで争いたくはないんだろう。
それに大きいところは軒並み潰したし、残っているところも本證寺に兵糧の提供などしたことで、一揆騒乱に加担したとして、罰を与えることになる。寺領は寺の維持に必要な分だけでいいだろう。できれば、僧兵の数などの武力も制限したいが難しいかな。
どさくさまぎれにほかの寺領の統廃合もやれればベストだね。
目的は石山本願寺と敵対した時に、三河で再蜂起されないようにすることだ。寺領の整理もそれを意識し寺ごとに周りに織田領を配置した形とするつもりだ。実施すれば、徐々に坊主の言うことを無条件に信じる領民は減るだろう。噂ではなく目に見える比較対象がすぐそばにあるからね。
願証寺の勢力が大きくなることが少し気になるが、難癖をつけて潰すわけにもいかない。妥協しなくてはならないところだろう。
「ちちうえ、かじゅま、はい」
「えっと、次は何を折りますか?」
「とりさん!」
ちなみにオレたちはお市ちゃんと折り紙タイムの真っ最中です。実は先にお市ちゃんと折り紙で遊んでいたところに、願証寺から文がきたと信秀さんと信長さんがやってきたんだ。
お市ちゃんは当然のように信秀さんと信長さんにも折り紙を折らせていて、結果として石山本願寺と三河の今後を左右する話し合いは折り紙をしながらの話し合いになった。
話している内容を気にもせずに折り紙を楽しむお市ちゃんは、本当に大物になる気がするよ。
本ページの山科言継のsideですが、誤字報告にて公家の言葉に修正をしていただいたのですが、私の力量では今後同じだけの文章で書ききれないので。ある程度再修正致しました。
わざわざ訂正して頂いた方にはこの場を借りて本当に感謝いたしますが、同じ方が今後も修正してくれるとは限らないので……。
統一性という観点から私では書けないので断念致しましました。
最後に誤字報告に相手がわかる機能をください(笑)
熱心に修正をしていただく方にお礼がいえないので(笑)














