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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
天文19年(1550年)

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第四百四十九話・蟹江のひと時

書籍版・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。


よろしくお願いします!

Side:久遠一馬


 今日は信長さんと一緒にお市ちゃんたち姉妹を連れて蟹江に来ている。以前、お市ちゃんが風邪を引いた時の約束が延びて今日になったんだ。


 それにしても、ちょっと来なかっただけで町の景色が様変わりしているね。まさに建築ラッシュと言っていいだろう。


 願証寺や北伊勢からの出稼ぎ労働者は、現在も蟹江の町や蟹江から津島・熱田・那古野への街道の整備で働いている。蟹江・那古野間は、お市ちゃんたち姉妹を連れて来られる位だから、当然馬車が通れるけど、荷車などが対面通行できる程ではない。他の街道も対面通行可を基準に整備中だ。


 北伊勢は六角次第だからあれだけど、願証寺は織田との融和と協調路線を恐いほど堅持しているからね。蟹江が終わってもあちこちの賦役に使うことになりそうだ。


 こと職人不足に関しては、学校で職人の育成をすることを検討している。尾張は景気がいいこともあって、宮大工も本来の仕事である寺社の仕事が増えているからね。技術職は慢性的な人手不足の状況に陥っている。


 職人と言えば長い修業が必要なイメージがあるが、きちんとした教育によって育てれば育成期間が短くなるのは、元の世界では当たり前に知られていることだ。


 反発が強いならウチのお抱えにしてしまえばいいし、大工に限らず職人は増やす方向で学校を任せているアーシャと資清さんに検討してもらっている。


 職人の伝統技術は否定しない。でも基礎的な技術は教育で普及させないと、発展の足枷になりかねない。それに、弟子入りする際も、基礎を知っている職人ならば受け入れてもらいやすいかもしれない。


 職人といえば桜井松平家のいなくなった瀬戸では、焼き物をやる方向で調査を進めている。


 こちらはメルティと政秀さん、佐治さんに任せている。佐治さんのところには常滑焼があるからね。職人の手配が出来るし、なんか佐治さんの領民はオレに対する信頼と恩返しの心がやたら高いから裏切る可能性がまずないしね。


「くろいおふねだ!」


 少し話が逸れたが港に来たお市ちゃんが真っ先に喜んだのは、ウチのガレオン型輸送船のようだ。


 お市ちゃんは前にもメルティが熱田に連れて行き、見てきたことがあるらしいが、どうも船が好きらしい。


「あれが出来て、随分と荷役が早くなったようだな」


「ええ。荷物の積み下ろしが大変でしたから」


 一方で信長さんが注目したのは港に作った人力クレーンだ。あれが出来て荷物の積み下ろしが随分と楽になった。


 クレーンの仕組みは紀元前からあり、日本でも過去の宮大工の記録に類似するものがある。どこまで普及しているかは別問題だが、ウチの技術水準でなら使っても問題はないだろう。さすがにコンテナはやりすぎなので、船内でパレットに荷物を載せて、パレットをクレーンで港に下ろしているんだ。


 蟹江で最初に使ったのは港が整備されて使いやすいことと、新しい港で荷役の人足を束ねるような厄介な連中がいないこともあったからだ。仕事を奪うなと騒ぐ連中がいないからね。


 そういえば、ここではすでに大八車が運搬車両として盛んに使われている。クレーンで降ろした荷物をパレットごと大八車に積んで、一旦港にある蔵まですべてを運ぶんだ。パレットから荷物を降ろす作業を蔵でやってもらうことで、効率化を図っている。


 今後、ウチ以外の船が港を利用した際には、荷物の検査や確認の作業が必要なので導入したんだ。禁制品の密輸はいつの時代にもあるからね。


 実はトロッコの運用も想定して作ったんだが、トロッコがまだ出来てないんだ。工業村内での試作と試運転は始まってはいるんだけどね。


 ただ、量産するまえにもう少し試して問題点を洗い出したいと職人から要望が来ているんだ。


 トロッコと馬車は軽量化や簡素化など、職人がこの時代の視点で検討してくれている。工業村の職人も随分と進化したものだ。そのうち、とんでもない発明をしそうでちょっと怖くなるほどだ。


「日ノ本各地にここのような湊をきずき、馬車でえる道を作りたいものだな」


 ガラガラと音を立てて運ぶ大八車にお市ちゃんたちが興味を示す中、信長さんは当たり前のように夢を語る。


「ですが若。道を広げると攻められやすくなると嘆いておる年寄りもおりますよ」


「ふん。そんなことばかり言うておるから、いつまでもくだらん戦がなくならんのだ」


 信長さんの夢は、オレにとっては驚きではない。とはいえ近習の勝三郎さんは旧来の価値観を変えられない年寄りの意見を口にして、信長さんに少し不快そうな顔をさせている。


 歳を重ねるほど保守的になるのはいつの時代も変わりがない。特に過去に成功体験を持っている年配者の考え方を変えるのは難しいんだろうな。


 この時代に日ノ本すべてを考えている者は多くはない。というか、ほとんどいない。特に畿内の者は、田舎に行けばいくほど蛮族だと軽く見る人がよくいるんだ。


 オレはよく海外って口にしちゃうけど、この時代の人は外国とつくにって普通は言うんだ。でも畿内の人は畿内以外を外国とつくにって言うことがあるらしい。心根がよくわかるね。ただ、畿内以外の人も、他国のことは外国という感覚を持っている人も多いからなぁ。侮蔑的な意味で使っているかどうかの違い程度だろう。


 信長さんはすでに理解している。今の織田のやり方で太平の世を築くカギの一つが移動と流通の円滑化であることに。


「そろそろ若様の領地でも、農民と兵を分ける準備をするべきかもしれませんね」


「お前のところのようにか?」


「はい。警備兵と領民は戦に出さぬ体制を作りたいですね。そうすれば領内は更に盤石ばんじゃくとなります」


 お市ちゃんのリクエストで船に乗ってみた。まあ荷下ろしの最中なので動かせないが、驚くほど大きな船なんだろう。お市ちゃんたちは甲板をとてとてと走り回ってはしゃいでいる。


 周囲の護衛や港の警備兵が見えたので、ふと信長さんに今後の大きな課題を伝えることにした。


 兵農分離。歴史を知っていれば聞いたことがある単語だろう。


 ただ、この兵農分離は実際にこの時代で考えると、びっくりするほど難しい。よくできたと思うほどだ。


 厄介なのは領民かもしれない。武士だろうが寺社だろうが気に入らないと蜂起することがよくある。


 そもそも武士と農民の境界が思った以上に曖昧なんだよね。本来は下級武士までしか動員されないはずなのに、血の気の多い農民が自主的に戦に参加してくることがあるし、領主が無理やり連れてくることもある。


 オレたちが来て二年と半年ほど経つが、この期間で領民の支持を得て、直接的な影響力を持ち、土着支配層の恣意しいを排除して統治する準備はしているが、未だに中途半端なままだ。


 村単位の惣という自治も健在だし、血縁と由縁の怪しい血筋を主張する土豪なんて山ほどいる。


 ただ、信長さんは兵農分離の意味を知っているんだよね。ウチのやり方をよく見ているから。


 ウチは牧場村も代官を務める工業村、農業試験村、山の村も、基本的には領民を戦には動員していない。去年の三河の時でさえ、武士と忍び衆以外は一時雇いの傭兵で対処した。あの時は領民も志願してきたが、『領内の仕事も大事。みんなが領を支えてくれるから戦える』と言って帰した。


 生産職を戦に出すなんてもったいないことは出来ない。下手に領民を動員すれば生産力が落ちるだけだ。食うか飢えるかの他国ならばともかく、ウチで優先すべきなのは日常の仕事だからね。農閑期で暇な領民は賦役にでも行ってもらえば良いんだ。


「だが、いかがするのだ?」


「まず武士と農民を分けるようにする支度が必要かと。武士は戦をする武官か統治をする文官に専念させ、農民は田畑を耕すことや賦役に専念するべきですね。ただ、反発もあるでしょうから、慎重にやらないと。まずは若様の領地で試して問題点の洗い出しをやるべきですかね」


 警備兵を本格的に治安維持の警察機構に移行するには、職業軍人を別に設ける必要がある。別に身分をはっきりさせたいわけじゃないが、統治する文官、それに協力する警備兵と、外圧と戦う職業軍人と、領民は分けるべきなんだよね。今の時代の問題点の一つが、武官と文官の両方を同じ武士がやって、武官でもあるから警備と外征の両方やっていることだ。元の世界のように武官は完全な職業軍人として専業化すべきだ。


 まあ現状だと信長さんの直轄領内の先住豪族とかその分家など、既存の中間勢力の整理が先か。臣従しているものの、統治は各自にお任せという半ば独立している中間統治者なんて、ぶっちゃけ邪魔だ。


 ただ潰すと不満だろうから、文官や武官として銭による多少の俸禄のアップで土地から引き離すのが理想だろう。土豪などでも使えそうな者は将として部隊を率いてもらうのもありだ。まぁ、軍人としての知識などを徹底的に叩き込む必要はあるだろうけどね。


 土地の問題はもっと複雑だ。


 正直、小作人と大地主という格差はあまり作りたくない。良心的な大地主が小作人の生活の面倒を全て見ることで絶大な影響力を持つこともあるし。史実での山形の本間家が良い例だろう。『本間様には及びもせぬが、せめてなりたや殿様に』なんて言われたほどだ。大名が農民の生活を保障しない限り、地主などの影響力は排除できないだろう。


 もっともこれはまだ、エルたちと具体策を詰めている段階の雑談だ。正式に議論をする前にクリアすべき問題点が山積みだし、評定にかけたり根回ししたりとやることがたくさんある。


 特に、評定に出席するレベルの重臣ならば、将来は自分たちの領地が取り上げられる可能性に直ぐに気が付くだろう。


「かじゅまー! あにうえー!」


 しばし信長さんと話し込んでいると、お市ちゃんがエルや乳母さんと一緒に手を振っていた。


 どうやらお茶の用意が出来たらしい。


 まだ少し寒いが、甲板で海を見ながらの温かいお茶も悪くないね。


 潮風の香りがどこかいい感じだ。


 オレとしてはもどかしいところもあるが、この時代の人にとっては驚異的な変化なんだ。


 評定の定例化も上手く決まったし、この件も評定で少し検討してもらう必要はあるだろう。


 織田家の組織や制度も改革しないと、信秀さんとウチの負担が増えるばかりだからさ。


 過去には律令制だった頃もある。法と組織による統治や中央集権国家も完全に未知のものではない。それだけは救いだね。実際、明治維新で近代国家作りの参考にしたのが律令制だ。かつてあった大蔵省なんかは律令制そのものだ。




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書籍版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

第十巻まで発売中です。

― 新着の感想 ―
[一言] まあ、大手企業をみてから、地方の配送拠点を見に行くと、たむろうドライバーやらで蛮族ダナーって思ってしまうことはある(^-^; 人はIQが30以上違うとコミュニケーションも困難ニナルからね。で…
[一言] 「入り組んで攻められにくそうな町並み」ってのは、ある種目に見える形での安心なんだろうな。
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