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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
天文16年(1547年)

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第四十三話・三河と絵画

side・今川義元


「織田は安祥城を改築しておるのか」


「領民には報酬として米や雑穀に銭まで配っており、領民は飢えなくて済むと喜んでおります」


「奴は器用であったな」


「はっ」


 尾張の虎と言われ華々しい戦の勝利に目を奪われがちだが、さすがは器用の仁と言われておる男でもあるか。


 城を改築するならば領民を動員して賦役にすればよいが、それでは領内に不満が出る。まして織田は元々三河の者ではなく、あの辺りは戦続きで荒れておるしの。


 飢えを凌げるだけの僅かな米や雑穀でも、領民は涙を流して喜ぶであろう。


 戦を仕掛けることもなく松平を圧迫しおるとは。


「松平はどうしておる?」


「不満をぶちまけておりますな。他にできることも有りませぬ故に」


「虎の半分でも頭を使えれば、三河くらいは取り戻せるかもしれぬというのに。どうしようもない男だ」


 虎は本当に銭の使い方が上手い。見習いたいくらいだ。


 問題は松平か。誇りだけは一人前とは。本当に使えぬ連中だ。


「金色酒か。まさに信秀には金を生み出す酒よの」


「他にも鮭・椎茸・砂糖・胡椒・絹織物・綿織物。様々な物が駿河に入ってきております。駿河の商人はこれらを領内や関東に売る者もおりますれば、大きな利になっております」


「虎はこちらにも利を与えておるのか?」


「恐らくは。織田と今川双方の利になると思われまする」


「怖い男だ。奪うのではなく与えることで大きくなる気か」


 少し前に駿府にも入ってきた金色に澄んだ甘い酒は、たちまち駿府の者たちを虜にした。あれを飲めば濁り酒など飲めたものではない。


 それに酒だけではない。貴重な物に高価な織物が堺より安く入ってくる。


 並の者ならば高く売るであろうに。わざわざ敵である今川の利になるように売るとは。


「荷はほとんど久遠の南蛮船が運んできております。伊勢の水軍衆も当初は税を取ろうと、小競り合いをしていたようですが。久遠が織田に従ったことと、伊勢にも品物を売っていることで、現在ではほぼ手を出しておりませぬ」


「どのみち南蛮船の砲には敵わぬのであろう?」


「それもあると思われまする」


 伊勢湾の中心が伊勢から尾張に移るのは時間の問題か。


 こちらが三河を抑えても南蛮船を止めぬ限りは、伊勢湾の交易は織田の手中であろう。


 強欲な伊勢の水軍のことだ。強引にでも銭を取ろうとしたのであろうが、南蛮船には勝てぬうえに品物で懐柔されたか。


 数を揃えれば勝てるのやもしれぬが、機嫌を損ねて品物を売らなくなれば困るうえに沈めてしまえば終わりだ。


「困ったの」


「今は三河を取り込みつつ、時勢を見極めるべきかと思いまする」


「待てば虎が大きくなるだけではないか? こうなると竹千代を取られたのは痛いの」


「すべては三河の問題です。今川家の問題ではありませぬ」


「ふふふ。素直にワシに臣従しておれば良かったものを」


 問題は今川だ。織田は那古野を奪ったが、ワシが家督を継ぐ前の話。松平のために今すぐ織田を叩いてやる理由もない。


「しかし、こうなると久遠とやらが欲しいの」


「最近は人も配したようで隙は無くなりました。ですが文を送るくらいならできるでしょう」


「そうじゃの。釣れなくても織田に不和の種を蒔ければ、儲けものであろう」


「では、そのように」


 それにしても虎は手強いの。いやそれは北条も武田も同じか。阿呆は三河だけだ。上手くいかぬものじゃな。




side・久遠一馬


「これは……凄いな。南蛮の絵か?」


「うふふ。そうよ」


 今日は那古野の屋敷で、ウチの家臣と信長さんの小姓のみんなの訓練の日だ。


 ただそんな訓練してる野郎たちとは別に、メルティが絵を描いてるのを信長さんが興味深げに見てるよ。


 カンバスに油絵の具を使った写実的な油絵だ。ちなみにモデルは紅葉をしてる木の下でお昼寝するロボ。


 メルティの趣味なんだよね。油絵って。


「絵師なのか?」


「ううん。ただの素人の趣味よ」


「こんな絵、初めて見た」


「南蛮って凄いな」


 騒ぎを聞き付けて訓練してたみんなも集まってくるけど、まるでその場面を切り取ったようなメルティの絵に、誰もが見入ってる。


 この時代に西洋絵画なんてないからなぁ。東洋的な絵とは別物だよね。


「オレにも一枚描いてくれぬか?」


「素人よ。人様に差し上げる物じゃないんだけど」


「構わぬ」


「そこまで言うなら、仕方ないわね。いいわよ」


 新しい物好きな信長さん。さっそく欲しがったけど、下手にあげると未来に残っちゃいそうだな。


 絵自体は上手いよ。素人目で見る限りだと。ただ未来に残ると思うと、少しいいのかなって思う。今更かな。


 日本初の西洋絵画は、ロボのお昼寝の絵になるのかもしれない。


「ほう。これは見事な物ですな」


「そうですか?」


「絵師は居りますが、このような絵は某も初めて見ましたな」


 ちょうどおやつの時間なので、抹茶とカステラでのんびりしてると政秀さんが来た。


 文化人の政秀さんも驚くほどだとは。世の中が平和になったら、メルティを先生にして西洋絵画でも普及させてみるか?


「是非殿の肖像画を描いていただけぬか?」


「若様にも話したけど素人よ。恐れ多いわ」


「構いませぬ。これほど素晴らしい絵なれば、必ずや殿もお喜びになるでしょう」


 うーん。なんかその前に話題になって、絵を欲しがる人増えそうな予感。


 文化面のことは正直あんまり考えてなかったけど、先日のブーメランといい文化とか娯楽方面も考えてみるべきか?


 文化とか娯楽を通じた交流とか情報伝達とか、馬鹿にできないんだよね。


 考えてみればこの時代の情報伝達って、坊主とか一部の勢力が握ってるんだよね。


 全国に繋がりがあるのが宗教だけだし、知識があるのも宗教が中心だ。


 必要だな。領民に的確な情報を伝えるシステムが。


 一向衆とかが、いかに好き勝手してるか人々は知らないんだから。


 キリスト教と南蛮人の対策にもなるだろうしね。


 エルに相談して考えてもらおう。




――――――――――――――――――

 『木陰と犬』


 日本初の西洋絵画として知られる一枚である。


 作者は久遠メルティ。


 戦国期に活躍した武将である久遠一馬の妻の一人。


 久遠家に当時多数居たとされる西洋人の一人であり、聡明な人物だと信秀・信長など多くの武将が認めた女性である。


 彼女が描いた絵画は当時の人々を魅了し、後に絵画にて歴史に影響を与えたと言われるほど。


 場所は津島か那古野にあった久遠邸だと思われ、描かれている犬は久遠家で飼っていた犬でロボという名である。


 命名の理由は定かではないが、スペイン語の狼という意味のloboから取ったのではという説が有力視される。


 ただ久遠家の西洋人は、その出身や遙々極東まで流れていった経緯が定かではないので諸説ある。


 この絵画自体は織田宗家が信秀公肖像画などと一緒に代々家宝として受け継いでおり、後に久遠メルティ記念美術館の目玉として現在に至る。



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