第二千二百三十三話・体制の違い
Side:蒲生定秀
尾張より近江に戻った。若殿のことで気が休まらぬ日々であった故に安堵致した。
されど……、倅の報告に戻らねばよかったかと思うてしまう。
よりにもよって。山狩りの支度をしていたことが街道付近一帯の村に漏れたのだ。
「誰が漏らしたか、確と詮議しろ! 家中であった場合、わしとそなたの首すら危ういぞ!!」
山狩りの一件が賊に漏れたことで、領内を含め、八風街道と千種街道で盗みを働いていた近隣の村や、賊どもと繋がる寺社が慌て始めた。
「素直に話すとは思えませぬ。兵を上げて問わねば……」
「それでよい。最早、愚か者に配慮をしておる時ではない!」
すぐに御屋形様のお耳に入れねばならぬ。織田方も支度しており、山狩りの期日が迫っておるのだぞ。
山狩りのことは端の者まで知らせておらぬ。相応の身分がある武士しか知らぬはず。誰が漏らしたのだ!!
「騒いだ村も愚かとしか思えぬ。騒がねば賊を討伐し、賊と通じておった村などは軽い罰で済んだものを。これで許すのが難しゅうなった」
顔を青くした倅が去ると、わしはすぐに観音寺城に登城せねばならぬ。
もう若くないのだがな。それでも馬を駆けて観音寺城下に来た。すぐに御屋形様にと思うたが先に曙殿の耳に入れることにした。
今の六角と織田の力の差を考慮すると、後回しにするわけにいかぬ。
「申し訳ございませぬ」
仔細を話し、深々と頭を下げた。下手をすれば上様のお怒りを買い同盟すら危うくなる。わしの首で済むか?
「いいわよ。逃げ出せる者は逃げても。山狩りは申し合わせの通りにしましょう。あそこを使えるようにするのが目的だから。賊が消えるならそれでいいわ」
相も変わらず、情け深いか。それとも有象無象のことなどいかようでもいいということか?
「挙兵が漏れた失態はいかになりましょう?」
「それは清洲と管領代殿で話すことなのよね。とはいえ、それだと困るか。どこから漏れたか分かっているの?」
「いえ、倅に詮議させておりまするが……」
「六角家中か、上様の配下か、私たち織田方か。寺社や保内商人の線も捨てられないわ。それにね、ここしばらく六角家中で戦支度をしていたのは周知の事実。商いの流れで分かるのよ。集めた兵糧や武具などでどの程度の戦になるか。山狩りの規模だと遠征がないと分かるわ。勘のいい者なら、そこから山狩りまで見抜く。漏らした者の特定は難しいでしょうね」
であろうな。されど、これでまた六角は斯波と織田に借りが増える。
「まあ、誰かが腹を切って終わる話じゃないわ。同盟は揺るがないはずよ。今回は賊がいなくなるならば悪くはない。今後のことは六角家中で話し合ってもらわないといけないけど……。奉行衆もそうだけど、外にあれこれと漏れると言えないことが出るわ。これが戦だったらと思えばご理解はいただけるはず。それだけのことよ」
なんとも難しい世となったものよな。土地を治める者を従えることで国を成り立たせる政では織田には遠く及ばぬ。
六角とて、まことの家臣は多くない。厳密には、我ら宿老を筆頭に国人衆の多くは六角に従うだけの余所者。勝手に動き、勝手に内情を漏らしたとて処罰すら難しい。なにより処罰したとて、今後も同じようなことが起きるはずだ。
「織田は、いかがしたのでございますか? 対価は必ずお届け致しまする。お教え願いたい」
「最初の頃は漏れるのを承知で動いていたわね。今回のように漏れても構わないこともあるのよ。伊勢守家が臣従する際も、そんなことがあったわ。戦支度に見せかけて金色砲を清洲城に入れたことで、情勢を動かした。あと本證寺の時も漏れるのを前提だったわね」
やはり、楽な道などないか。
所領を守り面目を守り、今までのように生きたいという者らに甘い顔をしておることが間違いと言えよう。
未だに所領を維持しておる、わしもまた同罪だがな。
Side:久遠一馬
そろそろ今日の仕事も終わろうという頃、寺社奉行の千秋さんが訪ねてきた。また仁科の件か、神宮の件でなにかあったかな?
「実はお願いの儀がございまして……」
相変わらず、よくあることなんだよね。あれこれ頼まれるの。
「学校にある遊具というものを、寺社に作るお許しを頂きたいと嘆願が上がっております」
ん? 遊具? ああ、あれか。滑り台とか鉄棒とか。ギーゼラと職人衆が学校の校庭に作って子供たちが遊んでいるやつか。
「私としてはいいと思いますが、職人衆に話を通しておきますね」
尾張では権利関係がほんとしっかりしてきたなぁ。主にウチの知恵と技術に関してだけど。余所者にウチの知恵と言われるものを漏らして死罪になった者もいるし、勝手に本山に情報を流して尾張を追放された寺社の関係者も結構いた。のちにそこの本山から、謝罪と和解金を得ている。
正直、漏れたのは漏れても構わない程度のものだったんだけどね。織田家の皆さんが権利に対する意識が高まったことで、厳しいんだ。
織田家としては特に寺社に対する知識、技術の伝授は今でも厳しい。津島と熱田くらいならばいいが、他の寺社はそこまで信頼がないというか、どうしても外に漏れるんだ。
遊具くらいなら構わないんだけどね。あれも漏れてもいいものだから。ただほんと、領内での評判が落ちるんだ。勝手に真似すると。
偽物を作って評判が地に落ちた、堺のように言われることもある。結果として、領内でウチの技を勝手に使う人はほぼいない。
「子供たちが遊べるものはあっていいですからね。ただ、ちゃんと作らないと危ないですから。そこは職人衆ときちんと話してください」
「無論でございます。いつも申し訳ない」
まあ、千秋さんを筆頭に、まともな寺社は知恵や技術を勝手に真似して自分のものにすることはない。寺社も自分たちの知恵や技術を守る集団だからね。
とはいえ、悲しいかな。やった者勝ちで、なにが悪いと開き直る寺社もそれなりにいた。結果として、今では名を落として地域への影響力さえ失ったところもあるほどだ。
遊具も評判いいんだよな。どこかに大人が遊具で遊べる公園でも作ろうかなぁ。遊園地みたいに。観光客が遊べるところ、もっとあってもいいんだよね。
清州と蟹江に作っている公園には遊具を少しずつ設置しているんだけど、あれ子供用だしねぇ。
うん、いいかも。少しみんなで考えてみよう。














