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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
永禄五年(1559年)

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第二千二百三十二話・近江に戻って

Side:久遠一馬


 夏も後半に突入している。


 花火も終わり、将軍一行は近江に戻った。まあ、戻ったのは影武者であり、菊丸さんが尾張にいるけど。


 近江御所そのものは、もう完成が間近となっているとのことで、奉行衆とは完成後のことをいろいろと詰めた。上皇陛下の近江御幸と新しい御所のお披露目など、難しい政治課題があるんだよね。


 完成時期はそれらの課題次第で前後するだろう。どのみち町の造営や目賀田山の詰城、対畿内の支城の建設は、今後数年はかかる大事業だ。


 さらに観音寺城と近江御所を中心とした経済の形づくりはこれからだ。近江は昔から琵琶湖の水運などがあり栄えているが、そっちは既得権が厄介だからなぁ。


 新しい経済流通の形がいる。


 そんな最中だが、ウチでは海水浴や野営キャンプに行くなど、子供たちとの時間も大切にしていて、久遠諸島に帰省しようかと相談しているところだ。


 それと、秋を前に八風街道と千種街道の山狩りの支度も進めていて、この日も信光さんがウチに来て、この件の相談をしている。


「戦よりも厄介だな」


 ウチで下調べした現地の報告書を見た信光さんは、面倒そうな顔を隠さなかった。


 大軍など役に立たない獣道のような街道での山狩りだ。しかも一帯にいる賊は最大で数百にもなるという報告を見れば、そんな顔をしたくなるだろう。


 どこにでも馴染めない者たちはいる。豊かな尾張を目指して故郷を出たものの、尾張の治世に合わなかった流れ者や、安易に奪うことを選んだ者、中には北伊勢の一揆の時の残党なんてのもいると思われる。


 伊勢と近江の境界に限らず、織田領と他家の領境には、そんな人たちが賊になっていることが多い。


 今回の伊勢と近江の街道では、主に伊勢側から近江側に行く者が襲われる。織田領の品が高く売れるからだ。


「原因は六角方ですからね」


「ああ、致し方ないのは分かるが、己の始末も出来ぬとはな。同盟が聞いて呆れる」


 この件の最大の問題は近江、六角側にある。賊も最低限、経済活動をする場所が必要だ。塩や穀物など生きるのに必要な品を手に入れるために。また、奪った品を売るために。


 それはどこかと言われると、当然六角側なんだ。もっと言うと、地元の人が賊に加担していることも珍しくない。


 領主は手を出さないが、近隣の者たちが出稼ぎ感覚で奪う時代だからな。これは東海道や東山道でもあったことだ。


 あちらは六角側である甲賀や北近江の改革をするに従って、そういう人を減らすことで治安を回復したけど。


 あの当時と今では情勢が違う。近江御所も完成間近で経済交流の規模も違う。東海道と東山道というふたつしかない流通路を増やすのは喫緊の課題だ。


 そのため今回は治安回復にあまり時間を掛けたくない。


 ただ、現状では六角家の家中改革が進んでおらず、国人領の早急な改革は難しいというのが結論だ。家臣でもない国人たちは厳密には独立勢力であり、その国人の一族や支配下の土豪などがそれぞれ半独立したような形で存在する。


 国人が街道の正常化の意味を理解しても、末端の領民が理解して従わないと意味がない。はっきりいうとその程度の民度だということだ。


 どこの領地もそうだけど、所詮は寄り合い所帯の連合の上に立つのが国人だからね。領内には理由もなく改革に反対する寺社とかも必ずいる。


 彼らを甘やかして飴を与えて従わせる形は六角家では難しい。きりがないからね。そういう意味で、力で従える以外の選択肢は現状では難しいんだ。


 色々考えた結果、きちんと周辺の領民に新しい姿勢を示すため、一気に山狩りをして賊を排除する。そうすることで、現地の人たちに理解させないと駄目なんだ。賊は割に合わないし、関わるとどうなるか分からないと。


「六角を味方にしておかないと、日ノ本を分断してしまうことになりますよ。そのまま世代を重ねてしまえば、もっとも厄介な因縁になります」


「分かっている。ここで愚痴をこぼしておるだけだ。他では兄者にも言うておらぬわ」


 まあ、分かっていても愚痴はこぼしたいよね。しかも今回、織田家中でも戦の経験不足な者たちに経験を積ませるために派兵の支度をしているし。


 差配するのも、いろいろと大変なのが事実だ。


 正直、誰も口には出さないが、織田家中だって六角への不満がないわけじゃない。対等にしたいならば、対等に役割を負担しろというのが織田家の中ではわりとある意見だ。


 織田家全般に言えるけど、配慮疲れがあるからさ。


 北畠はその点、上手だ。領地を改革する具教さんと、蟹江で京の都に睨みを利かせる晴具さん。なんというか晴具さんがいるだけで安心するんだ。


 六角も頑張っているんだけどね。足利政権がどっちの味方なんだと疑われている現状では、六角もなにかあると畿内に味方するのではと疑う人がいて当然だ。


「家中と領内が変わり過ぎて困っているんですよね。変わるのが早いんです」


「当然であろう。今やらずしていつやるのだ? 誰もそなたほど先は見えぬ。なればこそ、今しかないと思うものだ。誰を信じる? 帝か? 将軍か? 叡山か? かの者らが隙あらば尾張から奪うのは童でも分かるわ」


 ほんと、上皇陛下の元蔵人。あの人たちの一件から、世の中の流れが変わった。余計なことしてくれたよなぁ。


 これに関しては、みんな同じ意見だと思う。東西問わず。


「まあ、わしで抑えられるうちは抑えてやる。だが、あまり期待はするな。そなたが思うよりも遥かに、西は敵だと皆が思うておるのだ。今の上様と六角を味方とするのだけで精いっぱいだわ」


 ほんと、信光さんがこうして助けてくれるのがありがたい。武闘派が対決に傾くと冗談抜きに困るんだ。


「よろしくお願いします。近江御所が出来れば、また少し変わりますから」


 なにもかも奪われる恐怖。それが一定以上の年齢の皆さんに根強くある。それもまた間違いじゃないんだよなぁ。


 なかなか難しい情勢だ。




Side:六角義賢


 戻ってきた倅にいかに声をかけるべきか。随分、悩んだ。すでに三日ほど前に戻っておるが、わしは目通りを許しておらぬ。


 廃嫡にするべきでは? 正直、今でもそう思えてならぬ。平時ならば、あやつでもよい。だが、今、六角が揺れると大乱となる。


 今以上に久遠家に甘えてよいのか? わしは久遠家に借りばかりあるのだぞ? そう思うとな。


 とはいえ、いつまでもこのままというわけにいかぬか。あやつを呼ぶように命じる。


「尾張より戻りましてございます」


 わしの前だけかもしれぬが、少しはマシな顔をするようになったか。よほど自信があったのか、己を過信しておったというのに。


「少しは人の上に立つ者のこと、理解したか?」


「はっ」


「そなたには言うておいたほうがいいか。わしはそなたを廃嫡にすることも考えた。斯波と織田と北畠が納得するならばな。されど、この件は廃嫡を考えておるだけで乱となりえること。誰にも言えず、曙殿らに打ち明けた。廃嫡を止めたのは曙殿だ。それを忘れるな。そなたが世を乱すと思えば、わしは廃嫡にする」


 驚きはないか。廃嫡も覚悟はしておったとみえる。この期に及んで己が立場を安泰だと考えるほど愚かでなかったことに心底安堵した。


 されど、近習は変えねばなるまいな。すでに元服した身故、傅役は要らぬとしても。この愚か者を増長させるだけの近習などいらぬ。


 新たな役目を与えると称して今の近習は離すか。今更、あの者らに倅を抑えろと言うても無理であろう。


 覚悟がいるのだ。六角にもわしにも倅にもな。


 二度と、かつてのようには戻らぬという覚悟がな。



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