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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
永禄五年(1559年)

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第二千二百二十四話・祭りを待ちわびて

Side:久遠一馬


 津島天王祭も間近に迫り、尾張では準備が進んでいる。


 祭りで人気のウチの屋台もそれは同じで、商品や食材が足りなくないようにと事前に津島に運ぶが、人の移動が始まると街道が混雑するので、今もあれこれと送っているんだ。


 まあ、最近は仕事が増えたので、そういう準備から孤児院のみんながやってくれるから助かっているけどね。


 ちょっと時間があったのでオレも手伝っていると、菊丸さんが尼僧様を連れて孤児院にやって来た。なんでも絵師のおみねちゃんに会いに来たらしい。


「また、上達しましたね」


「はい! 懸命に描きました!」


 おみねちゃんはニコニコと嬉しそうだ。優しくて絵を褒めてくれた尼僧様だとみんなに言っていたからなぁ。


 ただ、留吉君は少し表情が硬い。それなり以上の身分だと察しているんだろう。留吉君、もともと頭も悪くないし、人間観察というか周りをよく見ているから勘がいいんだ。


「今はどんな絵を描いていたのですか?」


「今日はお祭りで売る絵を刷っていました!」


 同じ人間と思ってはいけないほどの違いがあるはずなんだけど、双方とも楽しそうなんだよなぁ。なにより菊丸さんが嬉しそうなんだ。そんなふたりを見て。


「絵を刷るとは……」


 世間話からおみねちゃんが今やっている版画絵の制作について話すと、尼僧様はピンと来ないらしく首を傾げた。


「ああ、お見せしたらいいよ。尼僧様なら見ればわかるだろうし」


 木版画自体、珍しいものじゃない。古くから寺社では書物などを作る際に使っている技だ。もっとも庶民向けの多色刷りの絵を刷っているのはウチだけになるが。


「これは……」


 雪村さんが子供たちと一緒に複数の版画絵を刷っている場所にくると、尼僧様が驚かれた。


「これならば……、多くの者が絵を手に入れることが出来ますね」


 さすがだ。一目見ただけで版画絵の意義を理解された。なんというか、一言では言えない思いがある気がする。


 僧侶や公家などの知識人が驚くことのひとつは、芸術が庶民に広がりつつあることだからなぁ。


 尾張では、ウチを真似て版画絵を売っている絵師は割と多い。ほとんどは黒一色のものだが、それでも人により味わいがいろいろあって人気なんだ。


 あと芸術関係で言えば、木彫りの小物も多い。仏像からウチが作らせてから広まった動物や、清洲城や恵比寿船もある。


 ウチの関係だと山の村にプロの彫師並に上手い人がいて、役目を変更して今では牧場村で木彫りを作っている人なんかもいる。


「どれも、よき絵ですね」


 尼僧様、本当に絵が好きなんだなぁ。子供たちの作業を覗き込みつつ、楽しげに絵を見ている。


 ちなみに雪村さんの伝手で尾張に滞在している絵師が孤児院には数人いるが、そんな絵師の皆さんも少し緊張気味だ。そこらの尼寺の尼僧でないのはやはり分かるしね。


「お好きな絵は差し上げますよ。多く刷るので一点物ではございませんが」


「では……、これとこれをお願いします」


「私が描いたものです!!」


 ちょっと気になったので尼僧様に版画絵を贈ろうと声を掛けるが、選んだのはおみねちゃんの絵だった。名前は判子を後で押すのでまだ記してないんだけど、本当に好みなんだろうなぁ。


「ふふふ、あとで他の絵も見せてくださいね」


「はい!」


 人の関係って、面白いなぁ。なんかオレまで嬉しくなるよ。




Side:マリア


 祭りまでまだ三日あるというのに、津島はもう祭り期間と同じように賑わっています。


 旅籠、寺社、料理屋、遊女屋など、あちこちから金色酒や調味料などウチの商品の注文が入ります。やはり尾張といえば金色酒。それを楽しみに来る者も多いですから。


 昔は下民に与える酒があるならば寄越せと騒ぐ者もいましたが、今は少なくとも尾張では見かけなくなりました。


 テレサが産休に入っていることで私とリンメイと短期滞在中のアンドロイドで祭りの支度をしていると、津島の町衆でも最年長の商人が姿を見せました。


「いかがでございましょうか? なにかあれば、なんなりと申し付けくだされ」


 すでに隠居しているものの、こうして津島中の商家を回って愚痴を聞いたり困りごとを解決していたりする人よ。


「今のところ上手くいっているわね。他はどうかしら?」


「皆、憂いなく商いに励めることに感謝して勤めておりまする」


 目の前の商人を見て、私は人の老化というものを考えさせられる。彼は私たちが来た頃から年寄りとして扱われていたし、見た目もそうだった。


 ただ、この十年、老いの気配を感じないほどにイキイキとしているわ。


「津島はいずれ、川湊としての役目を終える日がくるわ。いつになるか分からないけど。その時のためにも町を育てましょう」


「心得ております。某はその日を見られぬと思いまするが……」


 津島の商人や職人はすでに新しい時代を見据えている。いえ、河川湊に依存しない体制が構築されつつある。


 私たちが最初に水車小屋を設置したこともあって、尾張で製粉商人が多いのは津島であり、尾張産と久遠産の反物を扱う反物商人も多い。


「今年は本領から運んだ鯨肉が多くあるわ。安く融通するから花火見物に来た者たちに食べさせてあげて」


「はっ、畏まりましてございます」


 毎年のように見物に来る者たちを意識して、料理も同じものにならないようにと工夫している。今年の目玉は鯨肉ね。


 旅先で食べる料理は旅の楽しみのひとつ。また、それを思い出して来てくれることもあるし、食材が欲しいと言ってくれることもある。


 尾張のもてなしは日ノ本一と皆が自負するくらいにはなりつつあるわ。


「そうそう、テレサがカステラを焼いたの。持って帰って」


「それはなんと畏れ多い」


「いいのよ。今日は来客が多いから、あまりたくさんはあげられないけど」


「皆が楽しみにしておりますからなぁ」


 司令がこの地に来て以降、私たちは地域の人たちとの交流を重んじてきた。いろいろ新しいことを命じるなり頼むなりすることも多いけど、事あるごとに贈り物をしているし、訪ねてきた者に土産を持たせることもある。


 そうそう、今では津島にもウチが出している菓子屋があるのよ。清洲の日輪堂の経験を生かして、年配の者たちの仕事として店を出して人気となっているわ。


 十年前は、金平糖ひとつぶだけでも貴重であげると大騒ぎになっていたけど、今では子供たちが買えるくらいになっている。無論、完全な赤字だけど。町衆もみんな、それは承知のことで、子供相手の安価な売り物を転売など悪用する者はいない。


 むしろ商人たちがその分働いて私たちを助けてくれているわ。


 この町はもう、堺にだって負けない。





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