第二千二百二十一話・尾張での六角家
戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。11巻。
3月19日発売します。
よろしくお願いいたします。
Side:蒲生定秀
今日は若殿とは別で、役目をこなしておる。
六角と織田の間では話さねばならぬこと。決めねばならぬことが山ほどあるのだ。
「では、賊狩りは蒲生殿が戻り次第ということに致しましょう。秋までには終えたいものですな」
「東海道で困ることはないが、行き来する人は年々増えておるからの」
千種街道と八風街道の件について、ようやく話がまとまった。あの一帯に巣くう賊狩りをすることは決まっておったが、日時やその後の扱いについては詰める話があったのだ。
もっとも、織田方はこちらを待っていただけで、その気になればいつでも賊狩りをやれたようだがな。
こちらも賊狩りだけならばもう少し早くやれたのだが、初陣が済んでおらぬ者の初陣にしたいという者などもおり、六角家中で話をまとめるのに苦労したのだ。
幸いなことは叡山や保内商人らが大人しいことか。かつては伊勢や尾張との商いを思いのままにしておった者らも、商いではすでに久遠に勝てぬ。
「畿内などいかようでもいいが、上様と近江は皆で守り盛り立てねば」
「三好は悪うないがな。あちらはいろいろと面倒ばかりだ」
織田方の文官も安堵した様子だが、さらりと出た言葉に背筋が冷たくなる。織田方は畿内の朝廷や寺社などを信じておらぬようになりつつあると、何気ない言葉で改めて教えられたからだ。
「そう言うていただけると、こちらとしてもありがたい」
「なあに、六角がおらねば我らも困る。お互い様だ」
「近江が敵になると厄介どころではないからな。六角のおかげで北近江もだいぶ落ち着いたと聞く。今の形が一番よかろう」
力の差を思うと従属に近いものがあるはずだがな。織田方は左様な素振りを見せぬ。まあ、尾張が余所と違うのは今更か。
形式としては武衛様、弾正殿、その下に織田一族がおり、その中に内匠頭殿がおるのは今も同じ。されど、あの御仁を形式のままに見る者は誰もおらぬ。
とはいえ当人が今の形を気に入っておるらしく、序列を変えるという話がないらしいがな。
「かたじけない」
「内匠頭殿も喜ばれよう。近江と尾張の商いに、あそこが使えればと何度か口にされていた」
「ああ、六角と織田で同じ商いが出来れば双方に大きな利となる」
内匠頭殿か。放っておくとあの御仁と久遠が骨を折ることで物事を進めようとされる。立派と褒めるのは容易いが、それではいかんはずだ。
近江でも曙殿らが同じことをする時がある。なるべく我らが矢面に立ち、曙殿らが恨まれぬようにと動いておるが。
まあそれはよいか。上様の御所も遠からず落成する。その前に八風街道と千種街道の目途が立ってよかった。
Side:織田信長
六角四郎殿はすっかり大人しゅうなったな。守護様と親父と対等であるという顔をしていた頃が嘘のようだ。
今日は若武衛殿に連れられてオレの役目を見分にきた。
「なんという書状の数じゃ……」
積み上げてある書状に四郎殿が驚きまさかと言いたげな顔をした。
「尾張で一二を争うほど忙しいからの。尾張介は」
「一番はかずのところでございましょう」
「いや、一馬のところは働く者が多いからの。ひとりの役目として見ると、そなたが一番やもしれぬ」
若武衛様は皆の働きをよく見ておられる。確かに仕事は久遠家か、オレと家老衆に集まるが、かずのところは人が多い。昔はエルたちが働いておったことも、今では家臣や女衆が代わりを務めることも多いのだ。
それ故、年々忙しゅうなる中、あそこだけ余裕があるように見える。
「左様なのか」
「後学のために教えておくが、忙しいと言いたげに働く者ばかり認めるのは危ういぞ。慶次郎もそうだしの」
四郎殿の近習が若武衛様の言葉に僅かにいかんとも言えぬ顔をした。おそらく四郎殿の周囲は常に四郎殿の機嫌を窺い、役目で苦労しているという様子で振る舞っておるのだろう。
「されど、並みの者が内匠頭殿の真似など出来るのか?」
何気ない言葉。その一言に四郎殿が大人しゅうなったわけを悟った。ひとつ理解したと褒めるべきか? いや……。
「四郎殿、かずもまた我らと同じ人でございます。悩むこともあれば怒ることもある」
言わずにはおられなんだ。よう知らぬ者が尾張を知ると、親父やかずが人並外れた者だからと、己が力量不足を理解せずに終わることがあるのだ。
「堺や里見のことであろう?」
「違いまする。堺は確かに怒ることをしており今も許しておりませぬが、かずは一度だけ自らの怒りで人を斬ったことがございます」
本音では堺にはそこまで怒っておるまいな。左様な男だ。とはいえ、それを言うわけにもいかぬ。守護様の名で絶縁した相手を許しているとは言えぬのだ。
「人を……あの仏のような御仁が?」
「昔、目の前で市井の幼子を斬ろうとした愚か者がおりました。そやつをかずは問答無用で斬り捨ててございます」
信じられぬ。左様な顔をしておるわ。先日の野営でもかずを見て怯えておったからな。大方、己の理解が及ばぬ神仏に近い男とでも思ったのだろう。
故に教えておかねばならぬ。
「ああ、左様なこともあったの」
若武衛様は昔を懐かしむように笑みをこぼされた。穏やかな男だからな。オレも本気で怒ったかずを見たのはあの時くらいだ。
「市井の幼子か……」
「現世に神仏などおりませぬ。我が父もかずもただの人。斯波家の同盟者として尾張におられるならば、それだけはご理解賜るようお願い申し上げる」
なにかといえば神仏としてしまい、親父やかずは別格なのだと己を慰める。それも致し方ないのであろうが、同盟者までが左様なことでは困る。
「神仏に祈る如く、弾正や一馬を頼るだけでは駄目だということじゃ。それは、そなたの父御も理解しておること。共に歩む者でなくばならぬのじゃ。さらに、そなたに見せておるモノや教えた久遠の知恵は、久遠家家伝の大切なもの。信のおけぬ者には見せておらぬし、六角といえども本来ならばそれに見合う対価を求めるところじゃ。それは忘れんでほしい」
オレの言いたいことの大半を若武衛様が言われてしまったな。オレもまだまだか。
かずは理解せずとも困らぬようにするのかもしれぬがな。この先、四郎殿は畿内との矢面に立つ立場になるかもしれぬのだ。
権威だの仏だのという言葉に惑わされるようでは困る。
覚悟がいるのだ。武士としての覚悟がな。














