第二千二百十九話・自然に囲まれて・その三
Side:久遠一馬
今日の夕食はカレーライスと豚汁だ。みんなで作って一緒に食べるとなると、カレーと豚汁が一番なんだよね。カレーは天竺料理として尾張では人気だ。
昔は一緒に遊んでいたお市ちゃんが、今では小さい子の指導をして手伝っている光景は年月が過ぎる早さを感じさせる。
義弼君に関しては、まだまだかなという感じだ。雰囲気が違う。彼がいるせいで子供たちが義信君と彼に近寄らないんだ。子供の感性って凄いよね。
「ちーち、はい!」
「ありがとう、希美」
オレと妻たちは子供たちと一緒だ。実の子も孤児院の子も家臣の子も入り混じって周りは賑やかだ。
ちらりと視線を向けると、義弼君がオレたちを不思議そうに見ているのが分かる。
人を従え、オレが国を治めるんだ。そんな気概があるのはいいことだと思う。根が庶民なオレとは住む世界が違うのは確かだ。
「いただきます!」
みんなで食事の挨拶をして頂く。義弼君と近習だけは迷いつつやっていない。生まれ育った価値観と教えられた礼儀作法と違うからね。これは別に真似しなくてもいい。
ただ、賢いとは言えないけどね。
「うわぁ! おいちい!」
「うん! おいちい!」
小さい子たちは遠慮しないで頬張っている。騒いで立ち上がったりする子もいて、注意されていたりするけどね。
みんなで食べられるように甘口のカレーだ。
余談だが、カレーに関しては要望がいろいろと出るようになりつつあり、清洲城の食堂だと日替わりで辛口のカレーも出していたりする。和風の味付けになったり、シーフードカレーになったりとバリエーションは増えている。
ほくほくの馬鈴薯と人参と玉ねぎの入ったオーソドックスなカレーライス。正直、まだまだ高級料理だ。
大人はもうちょっと辛さが欲しいだろうね。でも野菜と肉の味がきちんと分かるくらいに美味しい。
「ごちそうさまでした!」
後片付けもみんなでする。というか自分の食器は自分で洗うんだ。夏だし水も冷たくないからね。
「とのさま! あらった!」
「うん、よく出来たね」
子供たちはひとつひとつ報告に来てくれる。これ、大人を見て学んだらしいんだよね。褒めてもらいたいというのもあるみたいだけど。
このあとはキャンプファイヤーだ。焚火を囲んで夜を楽しむ。もちろん、今年も手持ち花火を持参している。
正直ね。今日の記憶を忘れるくらい、この子たちはこれから長い時を生きるだろう。それでも今日過ごした経験は決して消えない。
野営キャンプでなくてもいい。大人から子供へと受け継がれるひとつとして共に過ごす時間は残ってほしいね。
Side:六角義弼
この男こそ、まことの神仏の化身ではないのか? 権威でも力でもない、ありのままの己で人々を平伏させ祈らせる。
幾人もの坊主や神職にも会うたことはあるが、この男ほど神仏に近き者はおらなんだ。皆、出家しておるにもかかわらず俗世の血筋と家柄を押し出し、着飾ることで人に頭を下げさせておるのだ。
わしは仏罰でも下されるのではあるまいか? そう恐れておると、内匠頭の奥方らがなにかを配り出した。
「さあさあ、皆の衆。メロンでござる!」
「今年のメロンは美味しいのですよ~」
めろん? 聞いたことがあるような? ないような?
「四郎殿の分でござる」
「落としたら駄目なのですよ?」
「ああ、頂戴致す」
こやつらは、確か……刀殿と忍殿か。そこらの童と同じようにわしと近習にめろんとやらを配った。
「外に出しておらぬ瓜でございますな。その味に欲する者も多いと聞き及びまするが……」
ああ、思い出した。昔、尾張に来た時に一度だけ食うた、あれか!
あの童らに食わせるのか!? 売るなり献上するなりすれば、いかほどの利になり褒美が得られるか分からぬ品であろう!?
「育てるのが大変なのですよ、これ。それに、こういうことを言えばお叱りを受けるかもしれませんが、あれが欲しいこれが欲しいというのは多いんです。酒などはなるべくお譲りしていますけどね。これは私たちが食べるために作っていますから」
この男に声を掛けられると、祖父上に叱られた時を思い出す。悪いことなどしておらぬのに恐ろしゅうなる。ただ、聞いてみたいことが……。
「四郎殿いかがしましたか?」
やはりこの男はわしの心が読めるのか?
「いや、それほどあれこれと欲する者が多いのかと気になっての。すまぬ」
「多いですよ。寺社も武士も公卿や公家もね。名のあるところは、一度はなにかしらの品を欲して尾張に書状なり使者なり寄越しています。すべてに答えていたら私たちの国の者が困りますから。大半は守護様や大殿と話して断っていますね」
左様なこともあるのか。仏の化身の如き男とはいえ、その苦労は察するに余りある。世には身分があっても愚か者ばかりじゃからの。
「近頃は北畠家や管領代殿も助けてくれていますからね。楽になりました」
父上? 初耳じゃぞ。
「四郎殿のことを頼まれるくらいに互いに助け合っているのですよ。私たちは。さあ、召し上がってください。こればっかりは尾張でもなかなか食べられませんから」
内匠頭の話を聞きつつ、勧められるままにめろんを頂く。
「……甘い」
内匠頭の周囲にいる子らが嬉しそうに食うておるのが見える。思えば、子らが左様に笑う様子を、わしは尾張でしか見たことがない。
近習でさえも、わしを前にしてかように笑うことなどなかった。
「とのさま! はなびまだ~」
「そんなに焦らないで。みんな食べ終わったらやろう」
何故、こやつの周りは、皆が笑う。大人も子も主筋の者も家臣もすべて。
武威や力で負ける気はない。わしとて武芸や兵法は学んでおるのだ。されど、こればかりは真似出来るとは思えぬ。
「さて、花火にしましょうか。四郎殿も近習の方々も、花火を人に向けては駄目ですよ」
こやつは何故、わしと近習にまで慈悲の笑みを見せるのだ? 己の養う童ではないのだぞ!?
手持ち花火とやらに火を付けると、見事な花火が咲き誇った。夜空に見る花火もいいが、これもよいの。
「前の管領代殿にも見ていただきたかったですね」
祖父上……。
祖父上、この男なのでございますか? 祖父上が見ておられた良き世をつくりし者は。
当然のように次々と珍しき品を出し、皆を喜ばせる。とても武士には思えぬな。














