第二千二百十八話・自然に囲まれて・その二
Side:久遠一馬
みんなで薪を拾いつつ、食べられる野草、ちょっとした時に薬の代わりになる野草なんかを教えつつ歩く。
オレもこの十年で多少は野草が分かるようになった。誰も気づいていないだろうけどね。
ちなみに野草を料理して食べることは普通にある。月に一回の雑炊の日は、いつの間にか学校でも同じくあるし、それ以外でも料理して食べるんだよね。
「これなども料理すると美味いぞ」
「うわぁ、たべてみたい!」
うん、子供たちに慣れた様子で野草のことを語る公家さんたちには、まだまだ敵わないな。学校関係者も同行しているから、当然、学校で働く公家衆も来ているんだ。
子供たちへの接し方もちゃんと学校の教師陣と同じように自立心を持たせ、自分で考えるように仕向けてくれる。
世渡りと加減が上手いのだろう。子供たちにも人気なんだよね。郷土史や各種残す資料の編纂とか、貢献度も高い。
知識や礼節も習得していて、野山を歩いた経験から生活の知恵もある。今みたいに一緒に尾張流のお祭りやイベントを楽しむので、すっかり尾張の一員といった感じだ。
そういえば近江から来ている公家衆が少し驚いていたね。あまりの馴染みっぷりに。義輝さんもいる公式の場だと白粉を塗って公家として振る舞うが、普通に織田家の皆さんと談笑したりしていたから。
近江の公家衆の面目のために言うと、彼らも別に近江でおかしな扱いを受けたり対立していたりするわけじゃない。
ただ、思った以上に尾張に馴染んでいたことに驚いたというだけだ。他の国と違うからね。ここは。
彼らのおかげで公卿公家の将来への可能性が見えている。
乱世の人はみんな凄いよ。
Side:六角義弼
当然のようにわしの側におるだけの近習と、共に釣りをしておる若武衛殿の近習。その違いに少し思うところがある。
わしの近習は分を弁えておるが、若武衛殿の近習は顔色を窺うだけの者たちではないのだ。役目を果たしつつ共に働き遊んでおる。これは斯波と織田の皆に通じるものがあるのであろうが。
自ら動く者らは見ていて羨ましくあるが、己の立場になって見ると、近習や家臣が勝手に動くとわしは苛立つ気がする。
「ふぁ~」
それと、この男。滝川慶次郎。今も若武衛殿とわしがおるというのにあくびなどしておるわ。一見すると忠義があるように見えぬが、皆に好かれておる。
下野守は、へそ曲がりと言うておったな。若武衛殿には迂闊なことは問えぬが、この男ならば軽んじねば構わぬか。
「慶次郎よ。ひとつ教えてくれ。そなたは立身出世を好まぬとか。武芸大会にも出ておらぬのであろう? なにを望んで生きておるのだ?」
「これは難しきことを問われますなぁ。某は気ままに生きることが性に合うだけのこと。所詮は甲賀の地で駆けまわっておった身でございますれば」
よう分からぬ。左様な暮らしのなにが楽しいのだ? それも知るべきことなのであろうか?
「慶次郎の言うことは半分聞いておけ。与えられた役目は、他の者に負けぬほど確とこなしておるのだ。先日とて、そうであろう? 武芸のみならず学問や商いも知り、薬師の真似事も出来、絵も上手い。こやつは人の倍は働いておるのだ」
「なんと!? そなた、左様にいろいろと働いておるのか!?」
聞いておらぬぞ。武辺者ではないのか?
「あれこれと半端に学んだだけのこと。人並には勤めを果たしてございますが」
ああ、へそ曲がりとはそういう意味か。己が功をあまり喜んでおらぬように見える。功を上げて受ける嫉妬などで困るような立場でもあるまいに。
「一馬は皆が働きやすいようにと心を砕くのじゃ。主従の形も必ずしもひとつではない」
あの男もまたよう分からぬ。わしなど遠く及ばぬことは理解するが。
「主従か」
若武衛殿の言葉には考えさせられるものがある。今でも、わしを謀っておった近習や指南役を信じる気にはなれぬ。
前に慶次郎が言うていたこともあったな。されど、そこまで配慮せねば噓偽りで塗り固めるならば、不利となれば容易く裏切るのではないのか?
「おっと、来ましたな」
誰も釣れておらぬ中、慶次郎の持つ竿が動いた。
幾度か竿が揺れるのを見ておった慶次郎は、大きく竿がしなった時を見計らい、竿を動かす。
「釣りも面白うございますぞ。心穏やかに待ち、魚の動きに合わせて釣り上げる。乱暴に引っ張るだけでは糸が切れてしまいます故にな」
此度は釣りの指南か?
「おっきい!」
「あみ! あみ!」
「けいじろうさま! こっち!」
「おお、任せろ!」
近くで暇そうに竿を垂らしておった子らが集まり、網を持ちまっておる。慶次郎はそこに見事、魚を導く如く寄せていき釣り上げた。
そういえば、子らもよく働くな。わしの近習など下野守が働いても動かず、わしの背後で立っておるだけだというのに。
「家臣や民に恐れられたいのか、それとも慕われたいのか。弾正や一馬のように拝まれたいのか。四郎殿が願うはいかな主君なのであろうな」
「あの噂はまことのことであったか」
「当人の前で拝む者は多くないがの。弾正も一馬も困る故。ただ、たまにわしまで拝まれて困ることはあるがな」
坊主よりも仏の弾正忠を信仰する。世迷い言と思うたがな。
「夢は大きく、そなたの祖父殿や弾正、一馬を超えるくらいの主君を目指すのも悪うないと思う。難儀するであろうがな」
困ったら仏の弾正忠を頼れ。祖父上の遺言だ。
祖父上が亡くなる少し前であったか。弾正殿と内匠頭殿と会うたあと、実は祖父上がわしにだけ内匠頭のことを話してくれたことがある。
わしが元服して家督を継ぐ頃には、今よりよき世が訪れておるかもしれぬ。案じるような楽しみにするような顔で、そう言うてくれたのだ。
あの時は理解出来なんだが、やはり祖父上はこの国の隆盛が見えておったのであろうな。
「若武衛殿はいかに考えておるのだ?」
そこまで思い出して気になった。若武衛殿の願う先が。己より優れておる臣下を幾人も抱えて、この者はなにを願うのだ?
「わしか? わしはそこな尾張介と一馬と共にこの国を守り、独り立ちさせることかの」
「独り立ち?」
「一馬のような男が常におるとは限らぬであろう? いつまでも一馬に頼る国では駄目だと思うのじゃ。凡将でも乱れぬ国にしたいとは思う。そのくらいじゃの」
己が治めることではないのか? 若武衛殿まで己より臣下や先々のことを考えておるのか? この国はいかになっておるのだ!?














