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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
永禄五年(1559年)

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第二千二百九話・雨の熱田・その三

Side:とある奉行衆


 昨日からの雨で花火がいかになるのかと気を揉んでおったが、明日か明後日には見られるとのこと。


 今日は熱田で祭り見物をしてゆるりとすると思えば、多少の雨も悪うない。


「聞きましたか? 熱田では町衆が銭を出すことで、各地から集まっておる貧しき民であっても花火まで滞在出来るようにしたとのこと」


「まことか!?」


「うむ、まことのようだ。織田の者も動いておったが、此度は町衆の動きが早かったと喜んでおったわ」


 山車の見物から戻ると、奉行衆、五山の僧、公家と皆がその話をしておった。


「慈悲深い仏の国という体裁と面目を守るためということか?」


「さて、いかがであろうな」


 言葉を濁したのは五山の僧だ。慈悲という本来仏道であるべきことでさえ、尾張に劣ると示されたようで素直に喜べぬのであろう。


 驚くべきは、それが町衆により成されたということだ。


 織田と久遠は商人にも厳しい。商いにまで口を出し不満が多いはずだと、京の都や近江では囁かれる。されど、この国に来ると商人が虐げられておるという様子はない。


 此度もまた、武士も寺社も商人も皆で苦難を乗り越える。その形を示したのだ。


「この国はもう、過ぎ去りし頃には戻るまいな」


 思わず呟いてしもうた言葉に、周囲の皆が閉口した。


 久遠内匠頭。あの男が示した道だ。神仏すら争うと言われる現世において、誰にも出来なんだことを成しておる。


 配慮を欠かさず、我らの都合も汲んでくれる。人のよい御仁なのだがな。


 そもそも尾張を面白うない者らも内匠頭が憎いわけではない。むしろ取り込みたいと考えておろう。


 皆が羨んでおるのだ。誰も知らぬ太平の国をな。


 頼朝公や尊氏公のように、血を流して敵となる者を討ち平らげる。それを成せる者が現れれば、尾張とて安泰のままか分からぬが。


 難しかろうな。朝廷も上様も前古河殿もその気はない。若狭管領殿ならば機があれば挙兵するやもしれぬが、味方する者は多くあるまい。


「一向衆より恐ろしき民じゃからの」


 ふと口を開いたのは、越前から来ておる公家か。確かに一揆にて国を乗っ取った加賀一向衆の恐ろしさは伝え聞く。されど、その加賀一向衆に悩まされる越前から見ても尾張は上か。


 上様の御英断であろうな。いち早く尾張をお認めになり、自ら共に歩むとお決めになられた。


 久遠の力がなくとも国がまとまり出した。


 この国はまことに生まれ変わったのじゃ。坊主でない者の仏の導きによってな。




Side:六角義弼


 若武衛殿の勧めで、わしは急遽、武衛殿の下で織田がいかに動くか学ばせていただいておるのだが……。


「うむ、大儀じゃの」


 満足げな武衛殿の顔が恐ろしゅう見える。


 矢継ぎ早に入る知らせは、雨が降ろうとも困らぬと示すには十分過ぎる。町衆も寺社も自ら動き武士を支えておるのだ。花火を見物に来た民ですら困らぬようにと差配しておる様子は、信じられぬの一言しか出てこぬ。


 わしなど、雨が降ったことで斯波と織田も天から見放されたのかと内心で喜んでおったというのに。


 この国の者は天の動きにかかわらず皆で国を盛り立てておる。


「そういえば、尾張は人質を取らぬとか……」


 ふと以前聞いた話を思い出した。形を変えて武士の子を清洲や那古野に集めておるので人質と変わらぬと言うておったのだ。


 されど、尾張に来てみると見えるものが違う。尾張で学ばねば新しき政に付いて行けぬのだ。それ故、皆が子を出す。


「人質がおろうと裏切る者は裏切るからの。もっとも弾正と内匠頭を裏切った者は、今のところおらぬがな」


 ついつい声に出してしもうたことに、武衛殿が我が子を教え導くように答えてくだされた。


「不躾なことを申しました。申し訳ございませぬ」


 失言だ。余計なことを言うていい立場ではないというのに。怒らせてはならぬ相手だ。


「いや、構わぬよ。六角家は共に歩んでおる者。わしでよければお答え致そう」


「正直、よう分からぬことばかりでございます」


 仏の弾正忠と、神仏の使者久遠一馬。臣下としてはいささか恐ろしゅうないのであろうか? とはいえ左様なことを言えば、武衛殿の器量が劣ると言うようなもの。言えるはずもない。


「案ずるな。わしも分からぬことはある。それが人というものじゃ」


 ……武衛殿が分からぬ。それをお認めになるのか? わしに??


「聞いておらぬか? わしはな、弾正忠が清洲城から救い出してくれるまでは、なにも出来なんだ程度の男ぞ。そなたの祖父殿や父殿とは違う」


 聞いておるが、かかわりがあるのか? 守護代以下主立った者が愚か過ぎて、なにも致さなんだだけでは? 争いを好まれぬお方だと聞き及ぶぞ。


「わしはの、己のすべてを懸けても弾正と一馬を信じると決めた。ただそれだけのことなのじゃ。四郎殿にも、いずれ己が信じられるものが見えるやもしれぬ。それまでは学問や武芸に励まれ、父殿の下で学ばれるがよかろう」


 分からぬ。管領の地位は望んでおられぬと聞いたが、この御仁はなにを見てなにを考えておるのだ?


 人質も取らず、家臣をただ信じる? 左様な甘い考えが通じるのか? 下剋上などいずこでもあることぞ。


 分からぬ。分からぬが、ただ、恐ろしい。




Side:久遠一馬


 凄いなぁ。とんとん拍子に話が決まって動いていく。


 オレたちが来た頃は、こっちで示して命じることで動いていたことなんだ。それが自発的に動ける体制となった。


 無論、ウチでも資金や物資の提供をするし、人を派遣して手伝っている。ただ、みんなで動いている勢いは止めたくないので控えめだ。


「こういう動きを見ていると戦が起きても大丈夫だろうね」


 戦時とは言えないが、予期せぬアクシデントでの即応性が際立った。まあ、駿河や信濃はまだ代官の力量に頼る部分も大きいが、尾張でこれが出来るとすぐに領国にも広まるだろう。


 これから訪れる東国の飢饉を前にそれが見られたのは大きな収穫だ。


「ええ、少し出来過ぎなくらいです。褒めるところしかありませんから」


 クスっと笑ったエルが冗談交じりに困ったというくらい、今回はオレたちも予想しなかったことだ。


 報告、連絡、相談。これが出来ているし、相互で信用があるから即決で動けた。いつの時代の体制だとツッコみを入れたくなるほどだ。


 清洲や津島にも頼んで、物資の確保や人の増員をしてすでに対応している。


 オレたちの仕事が減ったので、のんびりと報告を受けて助言するだけでよくなってしまった。おかげで子供たちと遊んでいられる。


 熱田の屋敷は、孤児院の子とお年寄りとか家中の女子供がたくさんいて賑やかなんだ。年長さんとかは仕事の手伝いにあっちこっち走り回っているけどね。


「縁もない尾張以外の領国の民や、旅人のために率先してお金と物資を出すなんてね」


 身分と権威至上主義みたいな時代だ。身分が違えば、同じ人間として扱われない。そんな時代にもかかわらず、みんなに花火を見せるんだと一致結束したことにはオレもまた驚いた。


 この時代の根底となる価値観が末端から変化しつつある。


「殿が今までされてきたことではございませぬか」


 意外なことに驚いていないのは資清さんだ。


 でもね。人を変えるのは難しいんだよ。数世代、下手するとそれ以上の時が要ることだ。


 上手く行き過ぎて怖いくらいだ。まあ、贅沢な悩みだろうけどね。




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