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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
永禄五年(1559年)

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2209/2224

第二千二百八話・雨の熱田・その二

Side:熱田の旅籠屋


 昨日から雨が降っていて、花火は見られるのかと皆が案じていたが、案の定、今日は花火が見られないらしい。


 泊り客も皆、花火を見に来た奴らだ。朝からこの世の終わりみたいな顔をしているやつもいる。


 そんな中、飛騨から来たという一家が旅支度であいさつに来た。


「一晩、お世話になりました」


 泣いている子らをなだめつつ頭を下げてくれた。


「もう一晩か二晩泊まったら花火見られるぞ」


「銭がありません。帰りの分だけで……」


 あまり豊かな村じゃないらしく、数年必死に貯めた銭で来たと昨日言うていたなぁ。生涯に一度の贅沢だと笑っていた顔が思い浮かぶ。


「ううっ……はなび……」


「おっとう、はなび……」


 無理だと分かってねえんだろうな。幼子らは。


 仕方ねえな。


「ええい、分かった! 花火まで泊まっていけ! 銭は要らねえ!!」


 そう言うと一家だけじゃなく周囲にいた奴ら皆が驚き、こっちをみている。


「えっ、いや……」


「銭のねえ奴は手伝いしろ! それで花火まで世話してやる!!」


 愚かだなと我がことながらに思う。だけどな、あんまりじゃねえか。花火は久遠様が皆にみせてやりたいと始めたんだと、ここらじゃ周知の事実だ。


 花火の費えだって久遠様の持ち出しが多いって噂だ。ここでわしらが多少無理をしても飢えるわけじゃねえ!


「はなび?」


「おう、花火を見せてやる。その代わり、今日は手伝いしろ」


「うん!」


「てつだいする!」


 親はいいのかと戸惑うが、子は素直だな。すぐに喜び、泣き顔のまま笑ってやがる。


 これでいい。銭はまた稼げばいいんだ。


 そんな、この世の終わりのように重苦しい様子だった宿の中が一変して明るく賑やかになった時、商人組合から使いが慌てた様子でやってきた。


「おいおい、ここは賑やかだな。まあいい、花火見物の奴らは数日留め置け。銭と飯は商人組合でなんとかする。久遠様のご家中のお方に聞いたら雨さえ止めば花火は打ち上げるんだと」


「ああ、わかった」


「貧しくても追い出すなよ? 熱田者の面目に懸けて花火は見せてやるんだからな。どうしても人が多くて駄目ならすぐに知らせを寄越せ、代わりの宿をなんとかする」


 考えることは皆同じか。思わず苦笑いが出ちまう。


 だけど、よかった。これで皆が花火を見られる。




side:久遠一馬


 祭りは雨にもかかわらず賑わっている。露店や屋台は残念ながらほとんど休んでいるが、山車の見物人は多いらしい。


 ただ、オレは熱田神社に来ている。ここでは祭り関係者が集まり、花火の延期に関わる臨時の評定が行なわれているんだ。


「花火の打ち上げは懸念ありません。花火玉は多めに運んでいます」


 オレから報告すると皆さん安堵した。花火玉自体、今でもウチでしか作っていないからね。無理ですと言えば大変なことになっただろう。義輝さんがいる今回の花火大会は中止だけはあり得ない。


「厄介なのは見物人をいかがするかだな。銭が足りず帰る者が出るぞ。数年かけて貯めた銭で来た者もおるのだ。見ずに帰すのはあまりに哀れだ」


 信康さんの言葉に皆が考え始めた。領内と諸国から集まっている観光客の大半は花火がメインだ。インターネットもSNSもない時代だと、日程の変更を周知徹底するのすら苦労する。


 そのうえ観光客の大半はお金に余裕があまりない領民になる。彼らに花火を見せるためにみんなが悩んでいるんだ。


 頼もしいなぁ。尾張と近隣の領内統治は、オレたちがいなくても困らなくなりつつある。


「宿を営む者に花火まで、銭がなくともこのまま泊めるように命じてはいかがだ? 一日や二日多く泊めたとて困るまい」


「まてまて、花火がなくとも熱田の宿は多くの人が来る。馴染みの者は受け入れねば困るところも出よう。それに一年で一番儲けがある時。儲けを捨てろと命じるのはやりすぎだ」


 こういう議論は聞いていて勉強になる。皆さんがどう思っているのか、知ることが出来るからね。時々ハッとすることだってあるんだ。


「ゲルを使うしかないのでは? 御家なら銭を取らずとも困るまい。清洲や那古野にはまだあろう? あとは飯か」


 熱田と近隣はどこも満員だ。近隣の村や寺社の敷地にゲルを追加で用意することが決まった。織田家とウチはまだ予備に保管してあるものがあるからね。


 万の兵を派兵するのに必要な物資としてゲルの用意もしてある。


 費用は織田家のゲルは無料とするしかない。寺社や旅籠に対して追加で泊まるお金のない観光客を織田家のゲルに案内するように命じてもらうべきか。


「寺社は頼めば手伝いをさせて泊めてくれると思うが?」


「ああ、余裕があるところには頼んでもよかろう」


 生涯に一度の贅沢として花火見物に来る人も多いんだ。なんとしても彼らに花火を見せてやりたい。


 そんな思いで活発になる評定だが、ヘルミーナが姿を見せると話し声が止まった。


「商人組合より火急の報告と嘆願を持参致しました」


 熱田商人組合からだ。花火の見物の人たちを数日泊めることを前提にした物資や資金の提供を商人組合としてする。その代わり祭り開催期間を延長してほしいらしい。


 雨で今日は露店や屋台が出ていないから、商人組合としてはあまり売り上げがないんだよね。花火に合わせて期間延長で利益を得られるなら商人組合でも支援するか。


 動きが早いなぁ。商人組合。しかもいい嘆願だ。こういう民間の動きがあると行政はやりやすい。


「内匠頭殿、いかがする?」


「こちらとしては構いません。あとは熱田神社次第かと」


「こちらも一切承知いたしました」


 大宮司である千秋さんは神事の支度などで忙しく、息子の季忠さんが評定に出ているが、彼も即決したことですぐに商人組合の動きを組み込んだ方針に変えるべく議論が再開される。


 明日明後日に来る予定の馴染みの人を受け入れるために、予定外に滞在を伸ばす人は織田家のゲルで受け入れる。ただ、商人組合が物資と資金を旅籠と寺社に提供することで人を動かすのは最低限で済むだろう。


「此度は上様もおられる。皆で国を盛り立てる我らの力をお見せしなくてはならぬ。心してかかれ!」


「ははっ!」


 最後に信康さんが言葉を掛けると、皆さんの表情が変わる。


 ここで領民を切り捨てるような方針を取ると、諸国に織田も結局は同じだとみられるだろう。信康さんはそれを懸念している。


 この人がいるおかげで、オレは今でも総奉行で済んでいるんだよね。さもなくば、オレが織田一族のまとめ役も担う必要があったかもしれない。




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