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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
永禄五年(1559年)

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2208/2225

第二千二百七話・雨の熱田

Side:久遠一馬


 ウチではここ数日、義弼君の様子が密かに話題となっているものの、とりあえず問題行動はなくなった。


 先日の騒動の前は同盟相手である六角家のトップとして振る舞っていたが、あれ以来大人しくなり謙虚になったと報告を受けた。


 本人は舐められるのを嫌って対等に振る舞っていたのだと思うが、はっきり言うと逆効果だった。若いから虚勢を張っているんだと温かい目で見られることはあったけどね。


 ただまあ、どちらかというと恐れから大人しくなった形で、価値観がそこまで変わったわけではないと思うが。


 こればかりは時間をかけて教育していくしかないだろう。元の世界であったような心を折るような圧迫研修は個人的に好ましいと思えない。


 さて、オレは昨日から熱田の屋敷にいる。そう、熱田祭りと花火の打ち上げがあるんだ。ただし……。


「ちーち、あめ……」


「はなびは?」


 子供たちが泣きそうな顔で外を見ているように、昨日から雨が降ったりやんだりしている。


「花火は明日か明後日かなぁ」


 今まで花火が延期になったことはないが、今日は延期だな。まあ、直前でいきなり降られるよりは前の日から雨が降っての延期のほうがいい。


「ざんねん」


「おいのりする!」


 子供たちばかりじゃない。みんながっかりしているだろう。そういう意味では花火の中止はこの時代ではあり得ない。


 熱田祭りの神事は予定通り行われるので、祭り自体は延期ではない。奉納花火が延期というだけだ。


 今年は義輝さんたちもいるしね。なるべく天気のいい時にやりたい。


 そんなわけで花火のない熱田祭りとなったが、雨にもかかわらず朝から賑わいが聞こえてくる。


 熱田も十年前と比べると町が大幅に拡大しているし、宿となる旅籠も増えた。あと織田家でも熱田近郊に新しい屋敷を建てたので、今年はそちらも使っている。


 熱田神社内にも上皇陛下をお迎えする際に宿泊も出来る建屋を造ってあるが、毎年花火をするとなると足りないので織田家で建設したんだ。


 まあ、それでも花火見物の領民が宿泊する場所が足りなく、ゲルを用いた臨時の旅籠を用意して領民に格安で提供しているけどね。




 朝食も終えて、花火延期の知らせを各地に出し、関係各位からの報告を受ける。そんな中、望月さんが気になる報告をしてくれた。


「まあ、見物に来るだけなら拒否もしないけどね」


 伊勢神宮でも身分が高い神職たちが、今年も来ているとのことだ。ただ、今年は織田家で招いておらず自腹で来ているとのこと。


「誰ぞから声が掛かるのを待っておると思われまする」


 義輝さんもいるしなぁ。奉行衆や警護衆や従う公家とかも来ている。慶事だからと声がかかり招かれ許されるのを期待したか。


「誰かが仲介するならあり得るだろうね」


「誰も仲介致さぬかと……」


 望月さんには否定されたけど、誰かが仲介をすればというのは事実だ。


 とはいえ、仲介しそうな人は見当たらないけど。


 奉行衆とは、伊勢神宮が正式に訴えるまで関与しないということで話は付いている。近江以外にも越前からも恒例となっている公家衆が来ているし、寺社の関係者も公式非公式問わず来ている。


 織田家では望めば相手の身分や立場に合わせて担当者が会っているが、寺社の関係者も誰も神宮のことは口にしていない。


「まあ、花火を楽しむだけなら構わないよ。好きにさせたらいい」


 他には熊野三社からも見物に来ている人がいるらしいしね。こちらになにも求めないなら好きにしていい。


 根絶やしにするわけにいかないしね。




Side:千秋季光


 年に一度のこの日に雨とは……。我らの徳が足りなんだのであろうか? 皆も落胆しておるわ。


 ただ、いつもと変わらぬ者もおる。桔梗殿と奥方衆が数人手伝いに来てくれたが、かの者らは特に落胆しておらぬらしい。


「あらあら、せっかくの祭りだというのに熱田の神職ともあろう方々が、左様な顔をしては駄目ですわ」


「我らに落ち度があったのかと思うとな……」


 それなりに長い付き合いとなった桔梗殿故に本音を言える。本音を言うたところで軽んじることもないしな。


「以前にお話し致しましたが、人は天には勝てませんわ。雨風が吹き荒れようとも必ず晴れる時がくる。私たちはそれを海にて学んでおります」


 桔梗殿の言葉に皆が固まった。


 我らはいつの間にか傲慢になっておったのかもしれぬと察したのであろう。尾張も熱田も上手くいっておったからな。


 天も我らの行く先を妨げぬと勝手に思うておった。


 されど久遠家は違う。今も海で生きておるのだ。いかに徳を積んだとて雨は降るし風も吹き荒れる。それを教えられておったではないか。


「ご案じになられずとも、日を変えて必ず熱田で花火は上げます」


 珠算しゅざん殿に確とそう言われると安堵する。名をリースルというが、銀行と呼ぶ織田家の銭にまつわる役目の差配と算術においては右に出る者はおらぬ。


 珠算殿は、幼子ばかりではない。名のある武士や商人や職人相手に算術を教えておるのだ。そろばんを使う腕前は凄まじく、僧侶や神人も教えを請いに出向くこともある。


 昔と違い、久遠殿や奥方衆に教えを請うても、なんの恥とも思わぬようになったからな。遠い本山よりも身近な久遠家に頭を下げて、礼金を払うほうがいいと言う坊主すら珍しゅうない。


 表立って口にすると本山に聞かれて面倒になる故、口外する者はあまりおらぬがな。


「では、我らは役目を果たしましょうぞ」


 内匠頭殿と奥方衆は、天に祈りはしても求めはせぬ。人が天になにかを求めることを良しとしておらぬからな。


 皮肉なことだが、国を豊かにして万人を救う内匠頭殿の敵となるのは寺社が多い。なんと嘆かわしいことか。


 神宮のように従わずとも邪魔をしなければいいと皆で助けておったところが、夜殿と明け殿を軽んじたことで寺社はさらに信を失うた。


 されど我らは、熱田のみならず、寺社を守るために祈り神事を続けていかねばならぬ。人々の心の拠り所となる寺社を残すためにな。


 それは他ならぬ内匠頭殿と久遠家のためでもある。


 寺社が滅べば人々は内匠頭殿に寺社の代わりを求めるはずだ。当人が望むのならば、それもまたいい。されど、内匠頭殿も奥方衆も望んでおらぬからな。


 受けた恩は決して忘れぬ。


 わしは内匠頭殿が人として生き、子々孫々もまた人として生まれることが許されるようにするつもりだ。


 誰にも言うつもりはないがな。


 それが、熱田の大宮司を務めるわしの定めだ。




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