第二千百九十四話・海水浴の今
Side:久遠一馬
今日は海水浴に来ている。
妻たちと子供たち、孤児院の子供たちにウチの家臣や関係者なんかと一緒だ。人数と警備の関係上、砂浜を貸し切りにしての海水浴になる。
広い砂浜が人であふれるくらいを連れての海水浴をしていると、オレも偉くなったんだなと改めて感じる。
しかし、海水浴、尾張だとすっかり定着したなぁ。
オレたちがお世話になっている砂浜は、夏場は近くの村で漁業を休んで海水浴運営をしているほどだ。
「うみだ!」
「かい、さがそ!」
歩ける子供たちは準備運動を終えると、一斉に海に駆けていった。妻たちや大人たちも一緒にね。
小さい子がそれなりにいるが、上の子たちが面倒を見つつ一緒に遊んでくれるので、大人はほんと見守るくらいでいい。
妻たちも子供たちばかりでなく自分の時間をもって楽しめるのは、身分があるからだろう。人が多いと子育ての助け合いがある。これは元の世界よりも優れているのではと感じる。
「水着もいろいろと増えたなぁ」
ふと見渡すと、男も女も昔と比較して水着のバリエーションが増えている。男性はふんどしと海パンタイプに分かれていて、女性は主にビキニとワンピースタイプに分かれている。
昔との違いは、主に水着の柄などで、多種多様なほど種類が増えたんだ。これに関しては、反物、生地のバリエーションが増えた影響だろう。
反物とか織物、ウチは正直、この時代相応の技術プラスアルファしか伝えておらず、尾張になかった織り機などを導入しただけで、デザインなどはあまり手を付けていない。
変えたのは尾張の人々だ。ウチが伝えた新しい文化や価値観を諸国から職人たちが取り入れることで、いろいろと多様化しつつある。
一番大きいのは、やはり周防衆、大内衆と呼ばれる皆さんだろう。大内義隆さんが育てた人たちが尾張で大活躍している。
ちなみに職人衆と親しい留吉君が、職人たちに頼まれてデザインした反物とか大人気だったりする。他には白磁の皿の絵も描いていたりして、幅広く活躍している。
ウチの猶子では一番のお金持ちになっているほどだ。オレの子供だから秘密を守るし、幼いころから工業村の中で手伝っていたおかげで、職人たちの考えとか要望とか理解して一緒に試行錯誤してくれると評判がいい。
少し話が逸れたが、領内では文化面の発展が著しい。
尾張だと在住の公家衆も、そんな最先端の反物で着物を仕立てて着たりしているからなぁ。あの人たち、公式の場以外だと公家と分からないくらいに溶け込んでいる。
有能でよく働いているしね。今川家からは体裁を維持するくらいの援助を今でもしているうえに、自分たちで働いていて報酬を得ていることから、京の都の公家衆が羨む生活をしている。
太田さんにお願いした郷土史、編纂の主力は彼らと寺社の僧侶や神職だ。いろいろ大変なはずだが、美濃・三河・北伊勢など、領国ごとに編纂したものがすでにいくつか完成していて評価も高い。
おかげで京の都にいる縁ある公家衆から妬まれて大変だなんて話もあるが。
もちろん芸術・技術は、京の都を筆頭に畿内はまだまだ凄い。ただ、ウチが運ぶ生糸や三河産の綿花から紡いだ綿糸を使って作られた尾張反物は、デザインや柄の種類の多さなどで優っており畿内でも欲しがる。
オレたちは交易バランスを考えて買う品がなくならないようにと配慮をしていたが、そんな配慮もそろそろ出来なくなるだろう。
まあ、西国を中心に畿内の品を欲しがる需要はある。当分、困らないと思うけどね。
「ちーち、すいかがいっぱいある!」
「すごいよ!」
ケティとの子である武典丸とリンメイとの子である武鈴丸は、共に数え年で六歳になっている。砂浜の端のほうに海水で大量に冷やしているスイカを見つけて大喜びで駆けてきた。
「あとでみんなで食べような」
「うん!」
ふたりは、みんなにスイカがあると教えるために駆けて行ってしまった。
スイカとメロン。オレたちが尾張に来た頃から牧場で生産しているものだ。近頃では尾張と近隣領国のいくつかの村でも生産している。
嗜好品だし生産に手間がかかって大変だけど、需要があるんだ。まだ、領外への持ち出し禁止に指定してある品物だけど、夏場には高級品として清洲など主要都市の市に少量並ぶくらいには生産が増えている。
ちなみに生産する村へ指導に行っているのは、牧場村の孤児院出身で元服した猶子の子たちになる。
正直、スイカとメロンなんかは、そこまで生産を増やす気がなかったんだけどね。生きるのに必要な食料の生産が優先だし。ただ、熱心な人がいて、故郷の地で育てたいと頼みに来て牧場村に通い、自ら生育法を学んだ人なんかもいるんだ。
ほんと尾張や美濃なんかだと、人の意識が違う。より豊かになろう。故郷をよくしようという意気込みが凄い。
畿内や西からくる人たちが嫌われる理由には、そんな人の意識の変化がある。
「とのさま! かいあった!!」
ああ、早くもオレの前には貝殻が置かれていく。貝殻を拾うと喜んでみせることから、子供たちが拾うと届けてくれるんだ。
「凄いな。ありがとう。助かるよ~」
「もっとさがす!!」
嬉しそうな孤児院の幼子たちがまた砂浜に駆けていく。
実は……管理している村の人が、違和感ないくらいに砂浜に貝殻を埋めているのをオレは知っているが。
何年か前は貝殻もないくらいに綺麗にしてくれていたが、子供たちが貝殻を探して見つからないことで残念がっていたのを見ていた人がいるらしく、ここ数年は探すと見つかる程度に貝殻を用意してくれている。
まあ、公に命じたことでもないし、報告がくることでもない。とはいえ、用意した貝殻がなくなるくらいに子供たちが貝殻を探して遊び喜ぶので、毎年オレたちが来る前にこっそりと貝殻を撒いてくれるんだ。
この貝殻、戻ったら子供たちにチョーク作りを見せてあげて、学校で使うと教えると本当に喜ぶんだよね。
「おっと、これは生きている貝じゃないか」
「あら、そうですね」
集まる貝殻をエルと見ていると、普通に生きている貝がいる。ここも夏場以外だと漁業をしている浜だからね。普通にあさりとかこの辺りにいる貝が生息している。
貝殻に混じった生きている貝に、なぜか微笑ましくなり笑ってしまう。
今日は思う存分、海を楽しもう。














