第二千百十九話・締め日
Side:セレス
年末年始も迫り、恒例となった警備兵の臨時増員などを差配しています。正月くらいは皆を休ませたいのですが、賊や間者は正月であろうと関係ありません。
年末年始は賦役が休みになることもあり、稼ぎたいからと志願する者が多く、尾張や美濃三河などでは、祭り期間や年末年始には必ず臨時警備兵となる者もいます。
地域住民とのコミュニケーションもしっかり取れていますし、尾張などではここ数年は年末年始も多きな問題は起きておりません。
「セレス、寺社へ派遣する警備兵は決まったのでござるか?」
「今年は一段と要請が多いのです」
一息入れようとしているとすずとチェリーに問われ、そちらの書類をふたりに手渡します。
寺社に関しては自衛程度の武装は今も認めており、敷地内の警備については各自で行っています。ただ、近年では出家せずとも生きるのに困らないこともあり寺社では人手不足となっていて、警備に手が回らないところ増えています。
そのため年末年始には警備兵を求めるところがありますからね。
私たちの始めた初詣が広まったこともあり、年始には寺社を参拝する者がそれなりに多いのです。参拝者の相手をしつつ警備もするのは大変ですから。
「寺社の人手不足は一部で深刻ですね」
俸禄を与えているのですから、本来は敷地内の自衛は自分たちでするはずだったのですけどね。これもまた仕方ないことでしょう。
特に尾張の寺社では戒律を守ろうという動きが強まっており、寺社での暮らしが窮屈に感じる者も珍しくありません。文字の読み書きが出来ると仕事の幅が広がり、少しでも伝手があると還俗して働いたほうが楽ですからね。
それなりの家に生まれ寺社に入った者であっても、実家と相談して還俗し、警備兵や文官、武官として働いている者は多いです。
所領がなくなり織田家に仕える形で働けるようになったことで、兄弟や一族を過剰に警戒する必要もなくなりましたから。むしろ一族の立場と名を上げるために、寺社から呼び戻して働かせているところすらあります。
「まあ、仕方ないことです。皆で支えていかねば」
寺社の整理は一部で議論が始まっていますが、すぐに始めるのは時期尚早です。そのまま公民館などとして地域の拠点としてもいいのですが、やはり末端で村々を支えていた寺社は残すところは残していく必要があります。
「がってん承知の助なのでござる」
「いざ、我らも参らん」
妙に芝居がかった言葉を残して、ふたりは寺社奉行のところに行ったようです。新しい紙芝居のネタでしょうか? 時代も地域も関係ないネタを持ち込んでいるおかげで、元の世界の歴史を知る身としては支離滅裂な物語も多いのですが。
ただ、評判がいいのですよね。
Side:久遠一馬
ちゃんと頑張っているところには、餅とお酒くらいは買えるように手配してある。織田領だと、なにかにつけて価格を上げて儲けようとする行為を規制しているんだ。
まあ、同盟国や友好国以外の他国相手に儲けるなら特に規制していないけど。
「うーん、思った以上に売れているね。蟹江の蔵にある品も領内に流していいか」
今年は、庶民にはあまり手が出ないような高価な品が予想以上に売れている。鮭・昆布・数の子・鯨肉・香辛料などなど。
領内の物価と物流は、基本織田家で統制したものだ。貨幣価値と物価統制。これだけでも時代を超越したチートみたいなものなんだけどね。正直、シルバーンのバックアップがないとエルたちでも苦労するだろう。
現状も足りなくて困っているほどではないけど、もう少し領内に流通させたほうがいいな。北畠領にも多めに流したから、そこまで在庫があるわけじゃないけど。すでに領外との商いは、年内分は終えているので蔵を空にしても問題ないし。
「まーま、まって~」
「こっちだよ~!」
屋敷は賑やかだ。すでに妻たちが全員集まっていることもあって、子供たちと遊ぶ声などが聞こえる。
「ほら、たかいたかい!」
「あ~う~!?」
楽しそうだなぁ。一緒に遊びたいけど、今日は今年の締めになるからさすがに後回しにするわけにもいかない。
そのまま仕事を頑張っていると、お市ちゃんが顔を見せた。
「一馬殿、お昼でございます」
もう学校も休みだからなぁ。お市ちゃんは、ここ数日ウチで妻や子供たちと遊んだり、孤児院で年越しの支度を手伝い行ったりしている。
「すぐに参りますよ」
お市ちゃんと乳母さん、家族と家臣以外で一番ウチにいるからね。勝手知ったる他人の家だ。どこになにがあるかとか、下手するとオレより詳しい。
「ライラよ。分かる? ラ・イ・ラ」
「あーい!」
昼食のために広間に行くと、妻のひとりであるライラがそろそろ言葉を発する歳の帆乃香を相手に名前を覚えさせようとしていた。
彼女は技能型アンドロイドで、設定年齢は二十四歳だったため現在は三十五歳になる。エジプト系美女をモデルにした細身の女性で、僅かにウエーブのかかったホワイトグレーの髪とグレーの瞳をしている。
専門は化学全般だ。この時代では化学に繋がる学問を学校で教えたり、無機化学、主に金属精製などで職人衆に助言するなどしている妻になる。
「ふぎゃぁ! ふぎゃぁ!」
「ああ、どうしたんだ。シャラ」
相変わらずだなと思いつつ子供たちと触れ合うと、スヤスヤと眠っていたライラとの娘であるシャラが泣いてしまった。シャラはカメリアに続き島で生まれた娘になる。生後三か月だ。
うーん、どうやらお腹が空いたみたいだ。そのままライラにバトンタッチすると、シャラは美味しそうにお乳を飲んでいる。
食事時は子供たちと触れあう時間だ。一緒に食べるのはもちろんだけど、子供たちにご飯を食べさせることもする。
普段は島にいるカメリアは会うたびに大きくなっている。なるべく会ったときは世話をしたり遊んであげたりしているんだよね。今日もご飯を食べさせてあげよう。
早いもので生後一歳を過ぎているので、離乳食を食べているんだ。
「カメリア、おいしい?」
「あい!」
ご機嫌で良かった。口元にスプーンで離乳食を運ぶと、美味しそうにもぐもぐと食べてくれた。
「ちーち、あのね!」
ああ、輝がどうしても話したいことがあると騒ぎ出した。
「うん、聞いているから。だから落ち着いて食べような」
もちろん他の子たちの話も聞いてあげないといけないんだ。まあ、妻たちとか侍女さんたちもいるから、そこまで大変じゃないけどね。
あと半日。それが終わると年末年始の休みだ。頑張ろう。
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『改』は言葉、書き方、長期連載による齟齬などを微修正したものに、オマケ程度の加筆があるものです。
なお、『書籍版』の加筆修正とは別物であり、書籍版の内容とは違います。














