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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
永禄四年(1558年)

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第二千九十一話・北の地にて

書籍版、戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

9巻、6月20日発売しています!

書籍版限定の書下ろしエピソードを随所に入れていて、より広い世界観となるようにか書きました。

どうか、よろしくお願いいたします。


Side:楠木正忠


 まさか、官位とはな。


 朝廷とは、つくづく臣下の者のことなど考えておらぬのだと改めて理解した。わしや一族がいかほど苦しみ生きておったか。理解しようともしておらぬではないか。


「相手をお願いしていいかしら?」


 庭でひとり鍛練をしつつ悩んでおると、知子様から思いもせぬお声がけがあった。


「はっ、某でよければ……」


 久遠流は尾張で少々教えを受けたが、武芸に至っても久遠家は日ノ本と違う故面白くあった。正直、もう少し若ければ、本気で極めたいとすら思うたほどだ。


 竹刀もあるが、此度は木刀での手合わせ。互いに言葉を発することなく、しばし戦いに興じる。


 相も変わらずお強い。四人のお方様がたでもっともお強いのだ。わしでは本気になられると勝てぬほど。


「牛頭馬頭殿と手合わせするといいのよね。生きた戦いが出来る」


 熱くなる前に止めたというべきかもしれぬな。幾度か手合わせをして、しばし休息とする。よき気晴らしになられたのだろう。晴れやかなお顔のお方様に安堵する。


「官位の件、悩んでいるの?」


「はっ、かつてならば喜んで受けておりましょう。されど、政を学ぶといろいろと考えてしまいまする」


 権威を得て力を蓄え、家と領地を守る。それのみでいいならば受けるべきだ。されど、わしの立場はもうそれほど軽うない。


「案じているのは南朝方のことかしら?」


 お方様にはお見通しということか。足利家と北畠家の婚礼があるというのに、南朝方であったわしが朝廷から単独で官位を得る。この後に起こりうることを読み切れぬのだ。


 ないとは思うが、もとは北朝方である斯波家中において、我ら南朝方の者たちを揺さぶるつもりなのではと案じておる。


 朝廷にとって斯波と織田がいかな存在か、理解しておるつもりじゃからの。足利と北畠を揺さぶり、織田家中も揺さぶる。左様な懸念が消えぬ。


「いかが思われまするか?」


「朝廷も一枚岩じゃないのよね。こちらの家中を乱そうと思う者もいるかもしれない。ただ、本筋は素直に怖いのよ。牛頭馬頭殿が。斯波と織田と久遠、ここに南朝方の牛頭馬頭殿が名を上げて、奥羽から東国を平定するかもしれない。もし牛頭馬頭殿が恨んでいたらどうなる?」


 それは分かる。ただ、それだけで官位を与えるというのか? なんと愚かな。その場しのぎで官位を与えて乱となれば、いかにする気だ?


「朝廷も所詮は人ということでございますか」


「そうよ。臣下だと言いつつ信じていないのよ。武士を。それ故に報復を恐れているわ。哀れよね」


 確かに哀れかもしれぬ。長き年月を重ねるうちに力を失うたばかりか、東国には譲位外しで恨まれ、報復に兵を挙げるのではと恐れ官位を与えるか。


「正直、言うわね。牛頭馬頭殿の官位はそれなりに影響があるけど、本当にどっちでもいいのよ。どちらにしても清洲でちゃんと対応するわ。だから信じてほしい。他でもない同じ道を歩む者たちを」


「お方様……」


 確かに信じるは朝廷ではなく武衛様や大殿、内匠頭殿なのかもしれぬな。


「ありがとうございまする」


 なれば、わしの答えはおのずと出るな。




Side:伊勢神宮の神官


「仁科三社と仁科家が織田の代官を怒らせただと!?」


 尾張の寺社奉行殿からもたらされた知らせに思わず声を荒げてしもうた。仁科といえば信濃、代官は確か……。


「久遠だ……」


 誰かの声に皆の顔色が悪うなる。よりにもよって久遠の治める地で騒動を起こすなど、仁科はなにを考えておるのだ!


 その気になれば、神宮とていかになるか分からぬ相手ぞ。内匠頭殿は穏やかで、常に他者を思いやる慈悲深き男だ。されど、怒らせると止める者がおらぬと聞く。


 三河本證寺、伊勢無量寿院と、追い詰めたのは他ならぬ久遠なのだ。


「すっ、すぐに謝罪に出向かねば!」


「まて! 仁科はいかがする!?」


 北畠はあてにならぬ。いや、織田と神宮が争えば、織田に味方するは明白。慌てて動こうとする者もおるが、謝罪するならば仁科の処遇を決めておかねばならぬ。


「いかがもなにもあるか! 織田の好きにさせればいいではないか! 神社さえ残れば、愚か者どもがいずことも知らぬ地へと追放されようと構わぬ!」


 確かにそうかもしれぬ。半ば正気を失ったような男の話にそれもそうだと思う。我らとすると神社さえ残れば、あとはいかようでもいい。


「落ち着け。それでも構わぬが、仏の弾正忠と久遠に手を汚させると、我らが頼りにならぬと思われるぞ。始末くらいはこちらでするべきではないのか? 形としては主従の解消なのだろう?」


 慌てふためく者がいる一方で、覚悟を決めたように考え始めた者もおる。その者の言葉に皆も落ち着き始めた。


「確かに……。愚か者を我らで引き取るか?」


「構わぬが、それをやるならば熊野にも話を通さねばならぬぞ。面白うないが、ここで我らと熊野が始末で争えば、それこそ仁科と同じと思われる」


 ちっ、熊野か。関わりたくもないが、致し方ない。


「銭もいるな。詫びにいかほどいるのだ? 本證寺が滅んだ際、石山は事を収めるために織田に五千貫も出しておる」


 伊勢と志摩の神宮領を織田が制する際に、口を出さぬという条件で寄進を毎年受け取っておる。故にそれなりの銭はあるが……。それでも五千貫か。とはいえ、背に腹は代えられぬか。


「神宮の所領を返す故、縁を切ると言われると我らも終わる。五千だろうと一万だろうと出さねばならぬ」


 仁科如きはいかようでもいいが、最早、神宮とて安泰ではないのだ。警固固関の儀。あれが東国で騒がれて以降、世の流れが変わりつつある。


 朝廷の始祖を祀る神宮が、東国において疎まれる日がくるかもしれぬ。


 まずは、尾張の様子と織田の動きを探らねば。


 おのれ、仁科め。あとで覚えておれよ。




Side:久遠一馬


 仁科の騒動は早くも織田領で広まりつつある。かわら版で知らせたしね。また寺社か。領民はそう思ったみたいで特に騒いではいないけど。


 当然、関係する者たちによる調整や話し合いが早くも始まっていて、オレは商務奉行としての方針を決めないといけない。湊屋さんと打ち合わせをしている。


「商いの値は、独立後に改めて話し合い決めるということでよろしいのではないかと」


 信濃、塩などは利益なしどころか地域によっては採算度外視で流通させている。湊屋さんに意見を聞くも、もともと越後方面から塩が入っていた地域なので無理に配慮しなくても生きていける。当面は放置でいいと進言された。


「それでいいね。どのみち領内の商人で喜んで商いする者はいないだろうし」


 エルたちとも相談してあるが、どうせ該当地域から領民が逃げ出す。特に食えないような者は。賦役も、すでに仁科と三社の元領地の領民の参加は止めているんだ。


 あくまでも円満解消という建前だが、誰一人そう思わない。ここまでくると嫌味に聞こえるのはオレだけではないはずだ。


「殿、越後はこれを好機と信濃に介入致しまするか?」


 湊屋さんの懸念は越後か。確かに経済的には越後の経済圏だったんだよね。信濃。


「介入はしないだろうね。商いなら様子を見てするだろうけど。里見の先例もあってこちらが黙認するから」


 中信濃の仁科ではなく、北信濃ならば出てきたかもしれない。まとまりがない越後の内情に引きずられるように、一戦交えてと考えてもおかしくはないんだ。


 長尾景虎、賛否両論ある人物だが、彼の価値観、思考、動き。どれもこの時代の一般的な地方武将と同じだ。


 有能なことは確かだけど、越後長尾家にいては脅威にはなりえない。ある意味、越後の国と人、それと居候の関東管領上杉が彼の足枷なんだ。


 史実のゲームや戦記物のように越後から天下統一なんてのは、この時代のやり方ではまず無理だろう。豊臣政権の末期のように、全国規模で同じ情勢が動いている時代ならまた話は別だが。


 まあ、そもそも越後が色気を出すほど仁科も三社も持たないと思うけどね。





メインでの活動はカクヨムです。

もし、私を助けていただける方は、そちらも、どうかよろしくお願いします。

カクヨムにて『オリジナル版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』と『改・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』があります。

『オリジナル版』は、2330話まで、先行配信しております。

『改』は言葉、書き方、長期連載による齟齬などを微修正したものに、オマケ程度の加筆があるものです。

なお、『書籍版』の加筆修正とは別物であり、書籍版の内容とは違います。



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書籍版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

第十巻まで発売中です。

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