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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
永禄四年(1558年)

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第二千八十九話・初冬の懸案

書籍版、戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

9巻、6月20日発売しています。

書籍版限定の書下ろしエピソードを随所に入れていて、より広い世界観となるようにか書きました。

どうか、よろしくお願いいたします。

Side:小笠原信定


 仁科修理亮盛康が、謝罪に出向いて参ったが遅い。遅すぎる。


 下人が騒ぎを起こしたとしか思わず、捨て置いておったようだな。織田の政は知らせておったというのに。分国法に背いたこと、お方様の下命に背いたこと。庇いきれぬわ。


「この度は申し訳ございませぬ」


 あまり悪いと思うておる顔でないの。下人などいかようでもいい。それも間違いではないが、織田では通じぬこと。


「すでにお方様の耳に入った。わしではもうなにも言えぬ。お方様に直に申し上げるがいい」


 兄上は織田に臣従して以降、変わられた。当人が変わろうとされたのか分からぬが、織田と久遠を学ぶことでかつてと様変わりした。


 大事なのは小笠原家を守ることであって、国人衆や信濃など捨ててもよいとな。それが兄上の本音だ。兄上は信濃を捨てたのだ。わしに対してもいずれは尾張に来て、礼法指南を手伝わぬかと言うておったほどだからな。


 お方様がたの下ならば勤めてもよいが、他の者が代官としてくるならば、信濃などもうこだわるなということだ。


「お待ちを、それはあまりにご無体な……」


「分からんのか? 誰も仁科や三社の臣従など望んでおらなんだのだ。わしも兄上も、織田もな。ただ、離縁したとはいえ兄上の奥方殿の嘆願もあり一度は許すことにしただけ。それを思いあがって己らで始末も負えぬほど争い、死人が出るほど騒ぎを起こして許されると思うのか?」


 口を出したとて恨まれるだけ。誰もがそう思い捨て置いたことで、己らに手を出せぬと勘違いをしたのか。はたまたただ愚かなだけか。醜い争いを止めぬまま時が過ぎた。


 さらに大殿の逆鱗に触れた諏訪をお方様が召し出されたことで、勝手をして逆鱗に触れたとていずれ許されると甘く見たのであろう。もっとも、わしを筆頭に大殿とお方様がたを知る者は決して甘く見ぬが。


 確かに諏訪は愚かな行為を重ねたが、それでも竺渓斎殿は辛抱強く愚か者どもを抑えておったのだ。それ故、一度使うてみようとなされた。


 そもそも織田は寺社というだけで信じることはなく、諏訪であっても愚かなままであれば二度と許されなんだろう。


「もう下がれ。己の始末は己で付けよ。戦は許されぬが、それが武士としてのあるべき姿であろう」


 己の価値をいかほど高く思うておるのか不満げな顔を隠しもせず憮然としておったが、今一度、下がれと強く命じると、わしが助けになることはないと悟ったのか下がった。次はいずこに泣きつくのやら。三社と縁がある伊勢の神宮か?


「皆も肝に銘じておけ。織田家では無用な争いで死人が出ると御家の一大事となる。家督争いであってもな」


 もともと仁科は小笠原家中でも疎まれておった。お方様がたの怒りに触れるようなことは家中の皆が知っているはずなのだが、仁科には伝わっておらなんだのであろうな。


 哀れに思うところもある。されど、裏切りも功もすべて己が家で背負うべきもの。兄上を裏切ったことも武田が信濃を制してしまえば功となったであろう。だが、現実は裏切りとして背負うべきものとなった。


 すべては仁科が背負うべきもの、わしとしてはお方様の決定に異を唱える気などない。




Side:仁科神明宮の者


 端の愚か者が、仁科家の者と揉めて双方に死人が出たとは……。つくづく愚か者は使えぬの。


 当初はようあることと呆れておっただけだが、警備兵が詮議をしたと知らせが届いたことで慌てて代官殿に弁明の使者を遣わした。


 その使者が戻ったのだが、様子がおかしい。


「……手切れでございます」


「おお、仁科との手切れをお認めいただけたか!」


 震えるような使者の言葉に皆が喜びの声を上げた。ようやく裁定を下してくだされたのか。そもそも仁科三社は仁科家の私有するものではないのだ。当然のことだ。


「いえ、喧嘩両成敗として、仁科家、仁科三社、共に、織田家からの手切れとなってございます。刃傷沙汰禁止の分国法に背き、騒ぎを起こさず双方が納得のいく形で仁科三社の処遇を決めろとの下命を守らぬことで罰を与えるところなれど、その立場を(おもんばか)って所領は返す。以後は勝手にしろということでございます」


 しんと静まり返った。なにを言うておるのだ? そんな顔をしておる者もおる。


「絶縁か?」


「はっ、そう受け取ってよいかと。近日中にこちらの元寺領へその旨知らせが届くとのこと」


 ありえぬ。我らは神宮に連なる身ぞ。そこらの寺社とわけが違う。


 ありえぬ。


「……すぐに神宮に仲介を頼む使者を出せ!」


「いや、それでは遅い。我らが自ら弁明に行かねばならぬ。誰ぞ、清洲に行け。我は代官殿に弁明に行く」


 諏訪神社も要らぬと言われたとのことだが、あちらは嘆願して臣従は許されておる。また一度臣従したところが放逐されたという話もあまり聞かぬ。


 まさか、かようなことになるとは……。




Side:久遠一馬


 伝書鳩で信濃から緊急連絡が届いた。信秀さんの耳に入れる前に関係者に教えておく必要がある。


 小笠原長時さんと寺社奉行の堀田さんと千秋さんだ。


 清洲城にあるオレの私室に三人を呼んで、事の次第を説明するが、皆さん険しい表情のまま静かに聞いている。


 実は、この手の問題の仲裁は代官や領主や有力者がする場合が多いんだよね。この時代。ただ、織田は寺社や国人を厚遇も重用もしないために捨て置くことが割とある。


 言い方は良くないが、騒いで権利や立場を主張して認めろとごねる勢力が多いんだ。


 とはいえ、織田からすると国人や寺社ありきの統治なんてしていないし、むしろ勝手なことをして邪魔になることだってある。寺社に関しても、学問を教え医療を施す場所として使っているものの、厳密にいえば、それは各地の城でもいいわけで。


 配慮として、生きる場と社会の一員になれるように仕事を割り振っているのに、頭を下げて厚遇しないと不満だという勢力は新領地の定番となっている。


 仁科三社も扱いの悪さに不満があったと聞いている。彼らはその原因を仁科家にあると考えたみたいで、決別のために動いていた。


 ところが織田家も仁科を家臣とした小笠原家も、仁科三社にそれほど価値を見出しておらず、放置していたことでさらに内部で不満と憤りを募らせていたようなんだ。


 双方の上層部は騒がず陰で密かに動いていたが、末端は上が甘いからだと、今度は上層部にまで不満を持ち始めた。


 そんな中、当然ながら同じ地域であることから末端同士は顔を合わせることがよくある。喧嘩やいさかいが絶えず、地域住民から嘆願があり警備兵が巡回をするなどして対応していたものの、些細な原因から争いとなり死人が出た。


 本来なら罰を与えつつ原因の仲裁をしてやるのが筋ではあるんだけど、自分たちで解決出来ない仁科も仁科三社も要らないとウルザたちが割り切った。


 まあ、よくある寺社との問題のひとつというべきかね。今回のように臣従後に騒ぐ寺社もあるんだ。駿河でも反織田の行動をした寺社があったしね。


 今回はそれなりに歴史がある仁科三社だったことで規模が大きいけど。


「私はウルザたちの裁定がすべてです。なにがあろうと守ってやらねばなりません。仲介なりなさるなら皆様方でお願いします」


 ちなみに少し面倒になりそうな一件だけど、実はウチとしての対応はシンプルなんだよね。ウルザたちの決めたことをオレは守る立場になるだけだ。


 ウルザたちの裁定を覆すような動きは基本しない。そんなことをすると今後、ウルザたちが困ることになるし。


 まあ、そんなことしなくても信秀さんも義統さんも分かっているだろうけど。


「……と言われましてもな。以前、夜殿たちと話したが、当家としては仁科など要らぬのが本音。喧嘩両成敗でいいのでは?」


 オレの言葉に堀田さんと千秋さんはまた寺社の問題かとため息をもらしたが、小笠原さんはオレ以上にドライな反応だ。


「領内での刃傷沙汰を禁じた分国法も守っておらぬ。喧嘩をするなら殴り合いでもすればいいものを。仁科三社も挨拶を受けた際に、織田で厚遇されたくば織田の流儀で相応に働けと言うたのだがな。自ら動くことはなかった」


「寺社は頼んだことしかしませんしね。あちらは諏訪神社の一件もあってウルザたちは寺社を頼りにしておりませんでしたから」


 小笠原さん、尾張の文化や形式をよく学んで、礼法として上手く最低限の形にしている人なんだけどなぁ。信濃の諸勢力に対しては冷たい。


 実は、こんな人。織田家で増えているんだけど。金の切れ目が縁の切れ目という具合に、寺社との縁がメリットにならない場合は簡単に切り捨てる。


 あと、寺社の相続、これもよく揉めるんだよねぇ。利権だから。ただ、面倒だから利権がない人は誰も関わりたがらない。


 この件は寺社奉行から評定に上げてもらおう。




メインでの活動はカクヨムです。

もし、私を助けていただける方は、そちらも、どうかよろしくお願いします。

カクヨムにて『オリジナル版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』と『改・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』があります。

『オリジナル版』は、2327話まで、先行配信しております。

『改』は言葉、書き方、長期連載による齟齬などを微修正したものに、オマケ程度の加筆があるものです。

なお、『書籍版』の加筆修正とは別物であり、書籍版の内容とは違います。



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書籍版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

第十巻まで発売中です。

― 新着の感想 ―
[一言] 騒いで権利や立場を主張して認めろとごねる勢力 →なんかこう……最近のニュースでよくみる外国人やらと似たような感じがしますねぇ
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