第二千七十七話・第十一回武芸大会・その十三
書籍版、戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。
9巻、6月20日発売になります。
書籍版限定の書下ろしエピソードを随所に入れていて、より広い世界観となるように書きました。
どうか、よろしくお願いいたします。
活動報告に新キャラのイラストがあります。良かったらどうぞ。
Side:愛洲宗通
「今巴殿に初見で勝つのは無理であろうな」
わしと柳生殿やこの場におる奥平殿の力の差はさほどないが、あのお方と塚原殿は格が違う。
鍛練では敗れることもあるが、戦場において今巴殿は無敗と言えよう。同じ相手と二度戦うなどまずありえぬからな。
久遠流の極意、無拍子。教わったとて軽々に出来るわざでもなければ、天賦の才だけで出来るものでもない。
左様なことをつらつらと思案しておると、奥平殿と目が合った。
「我らの試合を先にしてほしかったな。あの後にやるのは荷が重い」
困ったように笑う奥平殿に少し安堵した。あとひとつと思うと欲が出て気負うてしまう。昨年、決勝を戦った真柄殿がそうこぼしておったからな。
奥平殿とは、生まれも立場も境遇も違う。ただ、幾度もこの大会に挑むという意味では同じ同志だ。願わくはすべての力を出し尽くした試合がしたい。
「両者よいな? 始め!」
数多の試合が終わり、武芸大会最後の試合だ。十重二十重と人が集まり、ただ、わしと奥平殿だけを見ておる。
熱くなりそうな己の心を落ち着かせ、木刀を握る。
「いざ、参る!」
ほぼ同じ呼吸で動き出す。日頃から共に鍛練をする相手なだけに、遠慮する必要もない。始めから遠慮なく攻める。
だが……、奥平殿もまたこちらの攻めを察して攻めてくる。
にしてもこの男、日頃は大人しいというのに戦いとなると人が変わる。動きに鋭さがあるのだ。
柳生殿は常に冷静に戦うが、奥平殿は心の高ぶりにより力量が変わるような感じさえある。
無論、わしにとって楽しいのは変わらぬがな。
Side:吉岡直光
「双方共に、いい攻めをしておるな」
尾張に来た弟子らと決勝の場を見ておるが、つい先日まであの場に立っていたと思えぬほど遠いものに感じる。
悔しい。あの場に立っておらぬことが。
もう一度……、そう思うところは今もあるが、吉岡家をこのまま京の都で染物業と道場で終えるわけにはいかぬ。
上様は京の都にお戻りになられることはないようにお見受けする。ならば、これが仕官する数少ない機会となろう。
それに京の都は駄目かもしれぬからな。抜け出すならば今のうちだ。
朝廷も寺社も、なにかにつけて尾張を羨み、時には妬みもする。都の町衆が上手くやろうと自ら折れておることで相応に尾張の荷は手に入るが、尾張者は上洛を好まぬので都の者らが尾張に出向き買い付けねばならぬ。
無論、尾張は相応に配慮した値で売ってくれるが、都に持ち帰る頃には無数にある関所のせいで高値となり、町衆であってもおいそれとは手が出せぬ品になっておる。
ただでさえ上様がおられぬことで都に上がる者が減り、近江に行く者が増えているというのに。
都に上がるは畏れ多い故、我らは近江と尾張に行くことにした。これは旧知の者が都に来ぬわけを問うと寄越した文に書かれておったものだ。
公家や寺社はいずれ尾張も乱れるとそれを待っておるらしいが……、あり得ぬと思うからな。わしは。
武芸大会には出たいが、吉岡一門を今の都に置いておくわけにいかぬ。騒ぎを起こせば巻き込まれてしまうかもしれぬからな。
織田に降った地が羨ましい。
Side:奥平定国
戦える。五分に。なんと嬉しきことか。
わしは天下無双の武芸者になれるなどとは思うておらぬ。されど、天下無双の武芸者に挑める者ではあり続けたい。
愛洲殿と柳生殿、そして今巴殿や塚原殿へと……。
動く。動けるのだ。本気の愛洲殿相手に。この喜びを見ておる者らに伝えられぬのが残念でならぬわ!
「はあ……はあ……はあ……」
呼吸が乱れる。あまりいいことではないが、今はこの乱れも心地よいくらいだ。
「楽しいな」
「ああ、楽しくて仕方ないわ」
わしの呼吸が落ち着くのを待っておられた愛洲殿の言葉に同意する。来いと目が本気になったのを見て、わしは再び仕掛ける。
陰流と兵法者の実情すら教えてくれた恩師と言える御仁だ。
陰流ほどの流派であっても詰まらぬ内輪の争いをしておったと聞き、驚き落胆したものだ。ただ、それが人の常であると言い、望まぬならば己の力量で生きてみればいいとも教えを受けた。
「教えを受けた恩。ここで返しまする」
多くを狙うは悪手だな。わしには今巴殿のような真似はまだ出来ぬ。ならば、読まれるのを覚悟で全力を出してぶつかるのみ。
強く握った木刀を打ち込む。刀と違い折れる懸念はあまりない。故に少々乱暴に扱っても困ることはない。
願わくは久遠流に持ち込みたい。刀で愛洲殿を上回るはわしでは難しいのだ。
小手先の動きや目線で惑わしそうとするも、通じる相手ではないか。ならば攻め続けねばならぬ、愛洲殿に余裕を与えればわしでは対処出来ぬ。
ふと妻と倅のいる場が目に入った。
見ておるであろうか? わしの姿を。
二度と……、二度とこの最後の場には立てぬかもしれぬ。いや、立てずともよい。倅がわしの姿を覚えていてくれたら……。
半端なままは好まぬ。渾身の一太刀で決める!
愛洲殿はわしの覚悟を悟ったのか、自らの木刀で受けた。若干受け流されそうになるが、そうされてはわしの負けだ。
押し切るつもりで最後の力を振り絞る。
「なっ!?」
その声は誰のものであろうか? わしの覚悟と愛洲殿の力量、共に尋常ではない。先に耐えられなくなったのは木刀のほうであった。
わしと愛洲殿の木刀にひびが入り、折れてしまう。
だが……、それでも愛洲殿は折れた木刀で攻めるつもりだ。無論、わしもな!
「勝者、奥平孫次郎!!」
その時、わしは崩れ落ちるように倒れた。体に力が入らず、立っておられなんだ。
勝敗の差は木刀の折れた場所だ。残る木刀はわしのほうが幾分長かった。
ただ、それだけだ。
「まさか、折れるとはな。木刀を超える試合だったか。これもまたよき糧となろう」
愛洲殿に助け起こされると共に折れた二本の木刀を見る。未熟者ならば折るようなこともあるが、愛洲殿に限ってはありえまい。
「奥平殿、このあと今巴殿と模範試合があるが……」
「さすがに難しかろう。見物人には悪いが、後日にするべきだな」
ようやくひとりで立てるようになったが、まだ木刀を握る力すら入らぬ。左様なわしの様子を察した愛洲殿の進言により、本来行われるはずの模範試合は後日となった。
最後の模範試合を楽しみにしておる者も多い。わしは前に出ると周囲に申し訳ないと頭を下げる。
だが、見物人からはわしを非難する声が聞こえることはなかった。
天にも届きそうなほど盛り上がる見物人の賑わいが響いていた。
いつまでも、終わることのないまま。
メインでの活動はカクヨムです。
もし、私を助けていただける方は、そちらも、どうかどうか、よろしくお願いします。
カクヨムにて『オリジナル版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』と『改・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』があります。
『オリジナル版』は、2306話まで、先行配信しております。
『改』は言葉、書き方、長期連載による齟齬などを微修正したものに、オマケ程度の加筆があるものです。
なお、『書籍版』の加筆修正とは別物であり、書籍版の内容とは違います。














