第二千七十四話・第十一回武芸大会・その十
書籍版、戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。
9巻、6月20日発売になります。
書籍版限定の書下ろしエピソードを随所に入れていて、より広い世界観となるようにか書きました。
どうか、よろしくお願いいたします。
side:久遠一馬
二度の休止を挟んで大会最終日となった。
最終日は基本、メイン会場だけで各個人戦の準決勝と決勝、団体戦の決勝のみ行なう予定だ。
「武芸大会くじ、凄い売り上げよ」
メルティから最終日開始時点での武芸大会くじの状況を教えられるが、確かに凄い。前年比で二倍以上だ。領民所得が上がっているので、武芸大会くじの売り上げも年々右肩上がりだったのだけど、それを考慮しても伸びが凄い。
「若武衛様の世継ぎが誕生したお祝いもあるみたい」
なるほど、お祝いの効果で売り上げが伸びているのか。清洲近郊では武芸大会くじの売り上げで行なった治水がすでにいくつもある。そういう意味では少額で参加出来て、運が良ければリターンが得られる武芸大会くじは人気なんだろう。
この時代だと人に施しを与えて善行を積むという価値観もあるし。武芸大会くじに参加することで世のため国のためにお金を出したと言える。
ただ、デメリットも見え始めている。寺社への寄進が増えていないことだ。身分ある者たちは昔からの付き合いがある寺社を大切にしているものの、中には義理で付き合っていた寺社と距離を置く者も珍しくない。
昔と違い、今は自分の財布に入る金額が決まり、そこからいかに使うかということを武士も考えなくてはならなくなった結果だ。何度も言っているが、織田家では徳政令はない。従って無計画に借金をしてしまうと大変なことになる。
中には借金と返済に揉めた武士が、旧領代官の役職を取り上げられて日ノ本の外に追放された例もある。借金をなかったことにしろと、貸していた寺社や土蔵を脅したことに対する罪でだ。
所領がなくなり徳政令も出さないこと数年、武士も現体制に慣れたことで、不要な支出を減らす人は当然出ている。
オレたちの影響もあって、寺社の信頼と権威が落ちているからね。寺社に睨まれてもあまり困らないという事情もあるんだ。菩提寺くらいは大切にするけど、旧領の維持に必要で付き合っていた寺社とは縁を切っても困らない。
支出で増えたのは武芸大会くじの他には、学校や病院への寄進がある。言い方があれだけど、堕落した寺社に出すくらいなら学校や病院に寄進したほうがいいと考える人は増えているんだ。
公儀としては歓迎するべきことなんだけどね。これで治水がまた進む。
寺社に関しては、旅籠や商いなどで収入を得るべく動いて成功しているところ、上手くいかないところは旧寺領分の俸禄で食っていくだけになっているところもある。
最近では、食べさせることが出来なくて寺社に入る人も減ったので困っていないみたいだけど。そろそろ寺社の統廃合と縮小も検討するべきかもしれない。
経済と流通の中心でなくなり、規模を維持するのが難しくなるのは分かっていたんだけどね。
さて、もうすぐ試合が始まるけど、今日は貴賓席にジュリアたちがいない。朝から模範試合のために調整しているからだ。
怪我とかしなきゃいいけどなぁ。
Side:柳生宗厳
今年は準決勝で愛洲殿か。
もう一組は奥平殿と真田殿だ。共に厳しき試合をよう勝ち抜いた者らだ。勢いはわしや愛洲殿よりもあるかもしれぬ。
「では……、参る」
礼をして対峙する。始まる前のこの時、恐ろしくもあり胸が高鳴る時でもある。
幼き頃、父より武芸を教わり始めたこの道。人生の半ばに差し掛かるというのに、未だに先が見えぬ。
もっとも塚原殿でさえ先は見えぬと言われると思うがな。
互いに万全の試合。遠慮なくいかせてもらう。
拙者の攻めを見事にいなしていく。相も変わらずだ。共に木刀での試合に慣れており、木刀ならではの戦いが出来る。
騒がしいはずの見物人の声もいつの間にか聞こえなくなる。拙者と愛洲殿で同じなのは、試合に勝つ以外の雑念を一切持たぬことであろう。
面目も、体裁も一切持たぬからな。
拙者はいくつか習った武芸の中で、鹿島新當流と久遠流と陰流を主に使っておる。己が流派を立ち上げるつもりはないが、それらを合わせ、好きに使っておるのだ。
尾張では同じようにしている者が多いが、皆、細かい使い方は違う。故に、こうして試合などすると面白いのだがな。
激しい試合の最中、一旦間を空けると愛洲殿が笑った。
「楽しいな。わしはこの時をなにより楽しみとしておる」
「それは拙者も同じ」
この時ばかりはすべてを忘れてもよい。ただ、この一戦がすべて。
僅かなひと時しかないことが残念で仕方ない。されど、それがまた良いのかもしれぬと思う。
「さて、ケリをつけるか」
「ああ……」
互いに力の限りを尽くす。それだけだ。
勝っても負けても遺恨なし!
Side:真田信綱
相手は奥平殿か。
真柄殿が敗れた試合は見ていたが、寒気がするものだった。わしもまた大太刀を使う故にな。
気を抜くと敗れる。故にわしは自らの長い木刀を振るい、己の間合いで戦う。
真田は名を上げねばならぬのだ。武田家中からは新参の余所者と陰で謗られ、信濃衆からは裏切り者と陰で謗られる故にな。
武田家と小笠原家と今川家の婚姻も決まり遺恨なしとしたのは、所詮は上の者だけなのだ。
不満は溜まり、表に出せぬ分だけ、下の者、弱き者、新参者に向かう。御屋形様も存じており、止めるようにと再三に渡り命じておるが、御屋形様にすら目通りが叶わぬような者にとっては意味を成しておらぬ。
今はいい。御屋形様は父上を相応に遇してくださっておるのだからな。されど、代替わりするなどしたら真田家はいかになるのか。
もう所領もなく信濃には戻る場所もない。
わしは武芸で名を上げて、織田にて確と残る場を作らねばならぬのだ!
「いずこを見ておる? そなたの相手はわしだ」
力の限り戦う。攻めて攻めて攻めて。だが、まるですべてを見透かすように冷たい目をした奥平殿に熱い体が一気に冷えた気がした。
懐に入られ大太刀を封じられると、そのまま胴に見事な一太刀を受けてわしは敗れてしまった。
まるで流れる水の如くとはこのことだ。
無念だが、力量が違う。武芸大会上位に入る者にはわしはまだまだ及ばぬか。
だが、真田家ここにありと示すことは出来た。少なくとも武芸大会にて勝ち上がれぬ者らよりはな。
メインでの活動はカクヨムです。
もし、私を助けていただける方は、そちらも、どうかどうか、よろしくお願いします。
カクヨムにて『オリジナル版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』と『改・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』があります。
『オリジナル版』は、2296話まで、先行配信しております。
『改』は言葉、書き方、長期連載による齟齬などを微修正したものに、オマケ程度の加筆があるものです。
なお、『書籍版』の加筆修正とは別物であり、書籍版の内容とは違います。














