第二千五十八話・医師と対面して
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Side:十河一存
我らは尾張滞在中、清洲城にて世話になることになり翌朝を迎えた。見るものすべてが珍しいものの、驚くことにも飽きたところだ。
噂通りと言うべきか噂以上と言うべきか。この国は京の都を超えたのであろう。そう思うと当然と思える。
朝餉を頂くと、望む者には薬師殿が診察をするということで頼むことにした。なんでも尾張では常日頃から病がないかと医師が診るのだとか。
瘡を患っており、兄上からは尾張で薬師殿に診てもらえと言われておるのだ。
「では診察を始めます」
若い。噂以上に若く見える。
診察の様子もまた、今までのいずれの医師や薬師と違うな。兄上が京の都から遣わした医師は今のところ治す術はないと言うておったな。
その医師は、もし治す術があるならば、尾張は久遠家だけであろうとも教えてくれたがな。日ノ本一の医術は久遠にしかない。申し訳なさげに言われたことを思い出した。
「日ノ本では瘡と呼んでいる病です。しかもそれなりに症状が進行しています。このままでは遠くないうちに命に係わるでしょう」
やはり瘡か。すべて己が定めだ。覚悟はある。
「ただし治る術がないわけではありません。当家の秘伝の医術で少なくとも三月は治療を施せば治ることもあります」
「……それはまことか? いや、薬師殿に左様なことを問うのは侮辱するようなものだな。済まぬ。今の言葉は忘れてくれ」
不覚。驚くのも飽きたはずであり、覚悟もあった。だが、治るかもしれぬと言われて僅かに取り乱してしまったわ。
「三月か」
「私たちが西に行き、三月もの間、治療することは出来ません。尾張に滞在しての治療を勧めます」
治ることもある。言葉を濁しておるが、自信はあるように見える。少なくとも手がないわけではないか。
ただ、三月も戻らずというのは悩む。
「尾張では、他家の者が病の治療や新しき知恵を学びに来ることは珍しくありません。十河殿が残っても、こちらでは目立つことはないと思います」
斯波と織田とすると迷惑ということでもないか。ならば考えるまでもないな。他に術がないのだ。
「良しなにお頼み申す」
「お任せください。では本日から治療を始めます。ただひとつ懸念があります。この病を患っている者がまぐわった相手は、男女問わず同じ病に罹ることがあります。また子が出来た場合は子も同様です。奥方や妾、子、小姓、思い当たる方には診察を受けさせることを勧めます」
「なんと!?」
これは一大事だ。讃岐から尾張は遠いうえ、妻子をここまで連れてくるのは難儀だが、そうも言うておれぬではないか。
「分かり申した。なんとか致そう」
「修理大夫殿に書状を出すなら、私の診断と診察を勧める書状も書きます。織田では人質など取っていないのでご理解いただけるでしょう」
おっと、こちらの懸念を察しておられたか。久遠家奥方衆は皆、並みの者以上であったな。忘れておったわ。
まあ、兄上ならば理解してくださるはずだ。あまり表沙汰にしておらぬが、尾張との関わりは遠方だというのに悪うない。
「重ね重ねかたじけない」
ただ。少しばかり借りが大きくなるな。致し方あるまい。いずれ借りを返そう。
Side:久遠一馬
三好長慶さんの弟である、史実で三好実休を名乗った之虎さんと、十河一存さんが尾張に到着した。
十河さんは、予想通り梅毒だったとのことで、ペニシリンで治療するそうだ。
医学に関しては未だに久遠家の秘伝としているものもあるが、曲直瀬さんなど医師と医師見習いには病院で使用する薬の大半は効果と使用方法など教えてある。製造方法などは一部しか開示してないけどね。
すでに病院ではペニシリンを使用しており、梅毒ならばオーバーテクノロジーを使わないでも治療出来るので他の医師にも分かる形で治療するとのことだ。
ちなみに、梅毒の治療。ケティが尾張に来ていた頃からこっそりとやっていたので、尾張だと患者多くなかったんだよね。ところが領地が広がりあちこちから流民が来るようになると患者が出始めている。
病院で治療しているから十河さんのことも珍しくないし、騒がれることもないだろう。
あと武芸大会観覧のために春たちが戻った。
「さすがは大御所様ね。ほんと助かったわ」
春の表情が明るい。大御所様と相談してあれこれと動けたおかげでだいぶ楽になったみたいだ。
近江政権、御所造営と体制の改革なんかでものすごく大変だからなぁ。管領と政所という足利幕府の屋台骨がない政権だし。
政権の移転、京の都にあった政権を近江に移すだけだとしても本来は苦労が多いんだ。盆暮れ正月と決算が毎日あるより大変だろう。
「ナザニンが来てくれると、もっと助かるんだけど」
近江で困っていることのひとつは、日ノ本全土から集まる書状や使者の対応か。春がおねだりするようにこちらを見つめるけど……。
「あー、それは無理。こっちもキツイ。京極殿が大殿に嘆願したから尾張に長期滞在しているくらいだし」
ナザニンはこの時代に来てからは、尾張でたまに助言する以外はシルバーンで久遠領の対外交渉の監督指揮していたんだよね。メインは久遠領のほうだったんだ。
外交関連、後回しにしていたからなぁ。経済と流通を握ったことで、斯波家も織田家もそんな余裕なかったこともあるが。
「ナザニンなら二十四時間戦えるって!」
そんな高度経済成長期やバブル期のサラリーマンみたいなことさせられません。この時代にブラック労働が根付いたらどうするんだ。
「夏、兵のほうは?」
「こっちも大変よ。みんな懸命にやっているけど……」
足利政権、組織として機能していないと言っていいほどガタガタだったからなぁ。権威だけ戻ったところで組織運営が上手くいくはずもなく、もっと言うなら権威が戻ったら古いしがらみが日増しに増えていくし。
「秋、御所と町のほうは? 思った以上に上手くいっていると報告があるけど」
「上手くいっているのが不思議なくらいよ。ただ、詰城と支城が遅いわ。大御所様とも話したけど、そっちは急がせないとダメね」
職人も寄せ集めだからなぁ。織田領の職人だと旧来のやり方と違う者たちもいるし。地域や立場による対立とかもあるだろうしなぁ。当然か。
「御幸、いつやるの? 正直、みんなギリギリだよ」
最後に冬に報告を聞くが、忙しい時に御幸が決まり近江では困っていたみたい。
御幸関連は尾張から御幸の経験者を派遣しないとダメだな。これは次の評定で提案しておこう。
長期政権とは言わないけど、無用な争いが起きない政権にはしないと。オレたちのほうでももう一度検証して助言することをまとめてみるかぁ。
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