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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
永禄四年(1558年)

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2024/2164

第二千二十三話・見えるモノ

書籍版、第八巻まで発売中です。

書籍オリジナルの加筆修正、追加視点、巻を重ねるごとに充実しております。

よろしくお願いいたします。


Side:六角義賢


「御幸とはな」


 尾張からもたらされた話に。宿老や重臣一同が言葉少なに考え込んでおる。


 正直、言おう。いささか荷が重い。


 公の立場と実情が異なる現状では、上様と尾張の意向次第ではとすら思える。ところが上様と尾張は無理押しを好まぬどころか、我らの考えを求められる。配慮はありがたいが、責の重さに身震いするほどだ。


「曙殿。この一件、我らには荷が重い。上様の御所落成のことであるしな」


 虚勢を張っても仕方ない。わしは同席を願った曙殿にあるがままに打ち明ける。上様からの書状ではわしの好きにしてよいとの仰せであったが、あまりに重大なこと故、迷うてしまう。


「まあ、そうでしょうね。朝廷と上様。東国と畿内。今の懸案がこの件に繋がっているわ。ひとつ間違うと大乱になる」


 誰もが言えぬことをはっきりと口にされたか。曙殿らは武衛殿の名代としてここにおるが、誰もが一目置くのは、その才覚と力量故にだ。近江武士を内心で軽んじておるような五山の僧ですら、この者の前では大人しゅうなる。


「難しく考えなくていいと思うわ。朝廷との対峙は上様がされること。東国と畿内の対峙は斯波家と織田家、北畠家も共にする。なにがあっても六角だけを矢面に立たせることはないから」


 その一言に安堵する。畿内との関わりは日を追うごとに悪うなるのだ。朝廷が騒ぐとなにがあるか、わしなどでは考えも及ばぬ。


「曙殿、上様や尾張は御幸を受け入れることをお望みか?」


 もっとも安堵してもおられぬ。蒲生下野守がすぐに此度の件の核心に迫った。


「懸念の声は尾張でもあるのよね。ただ、院の御幸により朝廷は御所を認めることになる。その利は言うまでもないでしょ? 無論、裏があるかもしれないけど、我が殿は近衛公を信じているそうよ。なにかあれば動くわ」


 信じるか。皮肉なことかもしれぬが、内匠頭殿は信じられるが朝廷は信じてよいのか、わしには分からぬ。


 畿内より豊かな尾張を認めるのか? 認めぬと思うのだ。わしは。


 世を治めるということは、かように難しきことなのだな。誰のために政をして、誰のために国を治めるのか。御恩と奉公と言うならば、東国には最早、朝廷を奉ずるほどの恩はないのではないかとすら思える。


「朝廷の面目を立てるか。内匠頭殿らしいな」


 いっそのこと、このまま突き放したほうがよいのではあるまいか? 内匠頭殿は甘いと思えてならぬ時がある。


「悩むなら尾張に行くべきかもね。皆で腹を割って話せば道は開けるわ。ちょうど、私たちも花火見物に戻る。一緒にいかがかしら?」


 悩む。誰もがあることだ。久遠の良きところだな。悩むならば納得のいくまで話そうというのは。それ故、人が付いていく。


「それはいいかもしれぬな」


 上様と尾張がおる限り、わしが近江を離れても乱れることはあるまい。花火見物を理由に尾張に行ってもいいかもしれぬ。熱田は少し時がないが、津島ならば十分間に合う。




Side:久遠一馬


 熱田祭りも間近となり、尾張では諸国からの旅人が見られるようになった。


「尾張は面白きことが多いな。近頃だと髷を結わぬ者もめずらしゅうなくなった。女も髪を切るなり結わえるなりしておる」


 今日は菊丸さんが牧場に来ていた。菊丸さんと与一郎さんが子供たちに武芸を教えてくれていたんだ。


 オレは仕事の合間に牧場の様子を見に来たんだけど、ちょうど休憩時間らしく子供たちなどと一緒にお茶をすることになる。


 ちなみに、宗滴さん。菊丸さんの正体に勘づいている節がある。以前、上皇陛下を海水浴にお連れした際に足利義輝の素顔を見ているからだろう。他人の空似というには似すぎていることで察したようだ。


 まあ、この件はオレたちも話をしておらず、宗滴さんもなにも言わないが。リリーが気付いているようだと教えてくれたんだ。


 気を使ったのか、ちょうど今も休憩となった時に席を外している。


「ああ、あれね。ウチの習慣が馴染んだのでしょう。あと髪を切るハサミも普及しましたからね。正直、短いほうが楽ですし」


 牧場とウチの家中だと、髷を結っているのは対外的に武士として動く家臣くらいなんだよね。資清さんたちは他家との付き合いとかあるから、武士としての一般的な形を守っている。


 猶子の子たちは元服した子も含めて誰も髷は結っておらず、ウチの関係者、下働きとかの人たちで髷を結っているのは半分くらいだ。


 こちらはオレが髷を結わないことで、その必要性を感じない人が多い。主と違うことをしないというのもこの時代の価値観だ。


 ただ、尾張全体で言うと、若い人は髷も結わず、また髪型もオレや妻たちを真似るような人が増えている。


 女性だと一番髪型が変わったのは遊女らしいけど。ショートヘアーやツインテールとか、妻たちの髪型を真似るのが流行っているそうだ。これケティが遊女屋に真似ることを許したことで一気に広まった。


「姿格好だけを見ておると、尾張を恐れる者が増えたのも分かる」


 見た目の違いが、人々に与える影響って大きいんだよね。菊丸さんもその辺りが気になるらしい。


 正直、このあたりは別に変えようと進んで動いたわけじゃない。義統さんと信秀さんが西に習うのをやめたことと、細かい規制をしていないことが大きな理由だろう。


 尾張公儀の政策全体に通じるけど、権威や立場で下を押さえつける政策があまりない。庶民でも金持ちが贅沢するのを止めないし、風紀の乱れとかそんな理由で規制することもほとんどない。


 個別にやり過ぎだという人に注意くらいはするものの、言い換えるとそれで終わってしまう。


 もう少し言うと、このあたりはお市ちゃんの影響もかなりある。ウチの流儀や価値観の体現者であり、信秀さんの娘でもある。そんなお市ちゃんがこの時代では珍しい髪型や服装で出歩くと、同じ髪型や服装が増えるなんてこともあったんだ。


 あと着物は甚平に近いものや、洋服を尾張でも着ている人がいる。久遠諸島との交流が盛んになった影響で、向こうの服が尾張でも手に入るようになったからね。


 服は需要が多く求められたことで交易の品として売っている他にも、尾張で同じ形の服を仕立てることを許したことで普及しつつある。


 現状だとお金のある庶民と武士階層が、晴れ着のように日常使いをしない特別な服として持つことが多い。


 洋服での茶会とかもたまにあるからなぁ。身分のある人は必ず持っているし。


「あまり細かいことを禁じるの好きじゃないんですよね」


 流行はオレたちの意思ではないが、大元である政策として権威や立場で規制して従える統治をオレが好まないというのはある。


 正直、そんなことしなくても斯波家や織田家の権威は守られているしね。自由な暮らしや文化から生まれるものも大きい。


 尾張だと礼法指南している小笠原さんも、無駄と思えるような形式にこだわらず、複雑な形など作らない実用的な礼法指南しているからなぁ。小笠原流の概念と尾張の文化を上手く取り込んだ礼法を指南していて評判がいい。


 そういう変化が今の尾張を支えているとも言える。


 近江と行き来している菊丸さんも理解しているようだけどね。





メインでの活動はカクヨムです。

もし、私を助けていただける方は、そちらも、よろしくお願いします。

カクヨムにて『オリジナル版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』と『改・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』があります。

『オリジナル版』は、2168話まで、先行配信しております。

『改』は言葉、書き方、長期連載による齟齬などを微修正したものに、オマケ程度の加筆があるものです。

なお、『書籍版』の加筆修正とは別物であり、書籍版の内容とは違います。


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書籍版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

第十巻まで発売中です。

― 新着の感想 ―
[気になる点] 何気に小笠原流礼法をググったら登録商標だったんですね。こういうのって書籍化するとき出版社からチェックが入るのかな?
[気になる点] 髷が無くなっても、椿油などの文化発展は残して欲しいところ。 相撲が神事になって残るか? あ、でも知多半島のハゼノキがここで生きてくるかも。ハゼノキの油も使いますもんね髷油。
[一言] 忍び衆は、どのような体格の人を想定されているのでしょうか?一説によると、鍛え上げられた体格ではなかったとの意見があります。農民、武士、漁民などで体格、体形が異なるので、ムキムキの武士の体では…
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