第二千八話・太平の島、久遠諸島・その十二
第八巻、11月20日発売しています。
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放っておいても連載と続刊が続くほど甘い世界ではありません。もし、ご購入を迷う方がいましたら、この機会にぜひお手に取ってみてください。
一巻から七巻も書籍版オリジナルの加筆があり、続刊を重ねるごとに加筆が充実しております。
Side:楠木正忠
祭りの賑わいが朝から心地よいな。
寺社がなくとも祭りはある。八百万の神に感謝して祈る。この国も人々の営みは同じということが嬉しく思う。
本来、民と共にあり、幾ばくかの導きを示すのが寺社の役目であったのではなかろうか? それがいつの間にか、税だ借財だと民の暮らしを脅かす者が大きな顔をしておる。
その実、祈りなどではなにも成せぬと配慮ばかり求めるのだ。これでは信心を持てというほうが難しい。
「寺社がいかにあるべきか。考えもしなかったな」
思わず出てしまった言葉に、共に祭り見物をしておる者らの顔つきが僅かに変わる。
寺社のない国、案じるところもあったが、来てみるとなくても良いのではと思えてしまう。ただ、左様な己が少し恐ろしくもある。真摯に勤める寺社すらも要らぬと思えてしまう己の愚かさが分かってしまうのだ。
「この国を守るのも我らの務め」
「左様であるな」
神戸殿と赤堀殿に迷いはないか。臣従以降、共にいることが増えたが、両名とも頼もしくなった。
まあ、今は祭りを楽しむかと沿道にある物売りを眺めつつ楽しんでおると、紙芝居をやっておる場に出くわす。
「さあさあ、見ていってくれ! 北は奥羽の地でのことだ! 日ノ本には楠木十郎左衛門様というお方がいてな。あの楠木正成公の末裔だ。奥羽の地で堕落した傲慢な寺社が、織田様の治める地から銭や米を奪おうと騒ぎを起こした時、このお方が一歩も引かずに戦い、季代子様たちをお守りなさったんだ!」
老若男女、多くの者が集まる中、この国の紙芝居はいかなものかと思い近寄ると、まさかわしの名が呼ばれておった。
織田領内にてあの件が紙芝居となっておるのは承知しておるが、こうしてその場に立ち会うのは初めてだ。
ましてここは久遠の国であるというのに……。
「牛頭馬頭様ってお方は凄いな~」
「朝敵って、なんだ? こんなお方を敵にしていたのか? 日ノ本の帝は」
まさか、己の紙芝居を見ることになるとは。いかにしてよいか分からず少し戸惑うてしまう。神戸殿や赤堀殿に声を掛けてこの場を離れようとするが、紙芝居を見ておる者たちの声に思わず考えさせられる。
「ねえ、ごずめずさましってる?」
ふと立ち止まると、うしろで紙芝居を見ておった幼子に声を掛けられた。我らが日ノ本の武士と分かる故に、声を掛けたのであろう。
ただ、これほど答えに窮したのは生まれて初めてだ。
「うむ、この御仁が牛頭馬頭殿だぞ」
「左様、奥羽にてそなたらのご領主様の奥方を見事守り通したのだ」
困った顔をしておったかもしれん。左様なわしを見た神戸殿と赤堀殿は、なんとわしのことを教えてしまった。
「ごずめずさま?」
「おお、まことだぞ」
幼子もまさか近くにおるとは思わなんだのであろう。驚き首を傾げておるが、周囲の大人がすぐに気付いて騒然となる。
「そういや、楠木様というお方が来られているはずだ」
「牛頭馬頭様がいたぞ!」
紙芝居どころではなくなった。皆がわしを見て中には祈る者までおるではないか!
「ありがとう!」
「季代子様たちをお守りいただきありがとうございます!」
「こりゃめでたいな!」
ああ、瞬く間に周囲を囲まれた。わしは、いかにすればよいのだ? 己の民でない者らにかように集まられるなど、滅多にあることではない。ましてここは日ノ本の外だというのに。
「牛頭馬頭様、さあ、祝い酒を飲んでくだされ!」
「この祝いの料理も召し上がってください!」
皆の喜ぶ顔に父や祖先は喜んでおろうかと思うが、ふと気づく。尾張にて内匠頭殿らが背負う重荷の大きさを。
自らの民でもない者らが祈りすがる。その重きこと、理解しておったつもりであったが、思うた以上だ。
「では頂くとするか」
逃げるわけにいかぬな。この国の者がわずかでも安堵出来るならば、わしは強くあることを見せねばならぬ。
「ゆいこさま、おげんき?」
ふと先程とは違う幼子の言葉が耳に入る。『お元気』久遠の言葉か。息災かという意味であったはず。
「ああ、元気だぞ。美味い物をよう食わせていただいておる」
「わたしのかわりにおたすけしてください!」
「うむ、必ずや守り助けると誓おう」
正成公よ。人の上にたつとは難しきことだな。戦で勝てばいいだけではないとは。
久遠の者と共に生きる。これもまたわしの定めであろう。
今日はこの国の者と最後まで共に楽しもうぞ。
Side:久遠一馬
本当、お祭りだなぁ。
海では派手に装飾した船がいくつも見られる。島の中も斯波家や織田家、それと土田家や斎藤家の旗指物が時折飾られていて、祭りと一体と化している。
斯波家と織田家の旗指物は前回もあったんだけどね。なんか、前回より馴染んでいるように見えるのは気のせいではないはずだ。
装飾としては他にも提灯や垂れ幕があったりする。提灯とかは日ノ本だと高級品だからお祭りとかであんまり使えないんだけどね。島では割と使っているものだ。
子供たちは朝から元気いっぱいだ。妻たちも土田御前と帰蝶さんも振り回されるほどに。
露店や屋台は日ノ本よりもいろいろと珍しいものがある。北はシベリアから南は南洋地域からの産物とかあるからなぁ。
「内匠頭殿、この値で売ってよいのか?」
祭りを楽しんでいると、佐久間さんが少し戸惑うように声を掛けてきた。ああ、品物の値段か。今日は祭り価格で安くしているんだよね。
「ええ、お祭りですから」
日ノ本だと売っていない珍しい品が多い。本領で作っている織物や硝子製品などの工芸品なんかも安価であって驚いているみたい。
ちなみに織田家の皆さんも購入していいと事前に言ってある。お金は持ってきていないから、ウチで用立てたけどね。
「京の都あたりに持っていくと、値が数十倍になるものもありますけど。売っても妬まれるだけですし」
数十倍どころか百倍を超えて値段が付かないものもあるけど、ほんと波風が立つからな。
「ねえ、楠木殿が島の者たちに囲まれているみたいなんだけど……」
佐久間さんが自分のお土産を買いに行くのを見送ると、シュヘラザードが少し困った様子でトラブルを知らせに来た。
楠木さんたち、島の人たちに素性がバレて大騒ぎになって酒盛り始めちゃったらしい。まだ午前中なんだけど。
「楠木殿なら上手くやるさ。なあ、カメリア」
止めたほうがいいか迷うらしいが、あの人なら大丈夫だろう。さっきからご機嫌な様子のカメリアを抱きかかえつつ、オレもお祭りを楽しむ。
この時代の武功を挙げるような人って、適応力とかあるんだよね。単純な用兵や兵法のみでは計れない能力がある。
慶次なんて滞在中、屋敷に戻らないでソフィアさんの実家に滞在しているくらいだ。まあ、オレがそうするようにふたりに命じたんだけど。
ただ、慶次の凄いところは、島の人たちと一緒に働いて酒を飲むなどしていることだ。このまま島でも生きていけるだろうね。
「そういや、午後にイルカの芸を見せるんだっけ?」
「うん。シーホと一緒にやる」
こちらに来てイルカと仲良くなっているナディはやる気満々だ。もともとイルカ好きで手懐けたらしいけどね。海に生きるオレたちにぴったりな演出だろう。
「一馬殿! これいかがですか? 島の者に頂きました!」
「ああ、よくお似合いですよ。姫様」
姿が見えないなと思っていたお市ちゃんは露店巡りをしていたようだ。あまり派手な品ではないけど、よく似合っているね。
「あの、あれは貴重な品では……」
「ああ、いいんですよ。南方から手に入る品ですから」
お市ちゃん、すっかり島の人たちに顔を知られているからなぁ。姉妹の皆さんにお土産を買ったら、ひとつおまけにくれたらしい。
お市ちゃんと一緒にウチに出入りしている乳母さんは価値を察しているらしく、いいのかと困っているけど。
みんなの笑顔以上の価値はない。楽しんでくれるならなによりだ。
書籍版の書き下ろしなどは、今後webなどでの公開はありません。
書籍としての付加価値は守ります。
web版と違い、一冊の本として読むことを意識した加筆修正になっており、購入をお願いできるものに仕上がっていると思います。
どうか、ご購入をお願い致します。
カクヨムにて『オリジナル版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』と『改・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』があります。
『オリジナル版』は、2126話まで、先行配信しております。
『改』は言葉、書き方、長期連載による齟齬などを微修正したものに、オマケ程度の加筆があるものです。
なお、『書籍版』の加筆修正とは別物であり、書籍版の内容とは違います。
そちらも、どうかどうか、よろしくお願いします。














