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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
永禄四年(1558年)

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2006/2166

第二千五話・太平の島・久遠諸島・その九

 第八巻、11月20日発売しています。

 すでにご購入いただいた皆様、ありがとうございます。

 引き続き、連載継続と書籍版続刊のため、書籍版のご購入をお願い致しております。

 放っておいても連載と続刊が続くほど甘い世界ではありません。もし、ご購入を迷う方がいましたら、この機会にぜひお手に取ってみてください。

 一巻から七巻も書籍版オリジナルの加筆があり、続刊を重ねるごとに加筆が充実しております。



Side:赤堀景治


 海が見える。いくつかの船が漁をしておるようだ。


 内匠頭殿が墓に参るというので皆で同行したが、やはり驚かされる。


 権威のあるようなものがなにもない。立派な本堂も山門もない。仏像どころか地蔵もないのだ。ここが日ノ本の外なのだなと改めて教えられる。


「公園に似ておりまするな」


 ああ、そうかもしれぬ。日ノ本にあるような建屋はあり、葬儀や法要などを行うことはあるという。


 墓も大きな石碑がひとつあるだけであり、尾張の公園と似ておるものの墓にはあまり見えぬな。


「ちーち、おしごと?」


 神妙な面持ちの内匠頭殿から察したのか、いつも楽しげな大武丸殿も落ち着いておる。


「うん? 仕事じゃないなぁ。ちーちとはーはたちの大切な人たちが眠っているんだ」


 久遠の祖は何者であるのか。尾張でも以前はいろいろと噂があったらしい。


 船に長けていることから平氏の末裔か、ここから近い伊豆諸島で亡くなった源氏の末裔か。様々な噂が囁かれておったと聞いたことがある。


 内匠頭殿自身も知らぬとのことで、すべては憶測でしかない。


 ただ、近年は左様な話がされることはない。祖先が何者であろうと内匠頭殿は内匠頭殿であり、祖先を超えた。皆がそう思うからであろうな。


 多くを語ることもなく、皆で祈りを捧げる。形も掟もない。各々の信じる寺社の教えのままに祈るのも構わぬという。久遠らしいと皆が思うたであろう。


 わしも祈ろう。久遠と久遠の民が安らかに眠り続けられるように。



「なにを守り、なにを変えるか。難しいの。人は些細なことで立場やあるべきものが大きく変わってしまう」


 一際、長く祈っておった楠木殿が海を見てそう口にした。よう知らぬ者は大きな武功を挙げ立身出世した楠木殿を羨む者すらおる。


 朝敵のまま幾世代も重ね、表立って名を名乗れぬ苦難は他の者には理解出来ぬものがあったであろう。


 北伊勢の地で意地を張って朽ち果てるか。最後の拠り所であった所領を放棄して織田に降り生きるか。悩んだのは我ら以上であろう。


「再び、世は割れようとしておる。わしは同じような因縁と苦しみを残さぬようにしたい」


 その言葉に周囲におる皆が驚いた顔をした。慎重な御仁だからな。御家の動きや過ぎたることに対する意見を人前で語ることなどないのだが……。


「奪われ、虐げられ続けてもか?」


 もとより静かであった場が止まったかの如く無音となったが、そこで問うように口を開いたのは佐々殿だ。


 久遠家と親しいこともあり、こちらに来てからも尾張と変わらぬ御仁になる。皆が遠慮することも言えるようだな。


「奪う者を認めることは出来まい。それは奥羽で嫌というほど理解した。されどな、敗れし者、道を踏み外した者にも先に続く道は残してやりたいと思う」


「ふむ、ならばよい。安堵した。滅ぼし根切りにするほうが恐らく容易いからな。されど、我らはもう左様なことを言うてはならぬ立場だ。認めることも滅ぼすことも望ましくない。故に、我らは新しい道を往くのだ」


 ふと見渡すと土田御前様、内匠頭殿と奥方衆が静かに佐々殿と楠木殿を見守っておった。両名に対する信頼の表れであろうな。案ずるような様子は皆無だ。


 さすがは氷雨殿の懐刀とも称される男か。織田家古参でもっとも久遠の治世に通じておると言われることもある。


 その気になれば総奉行職すら務まるであろうな。




Side:目賀田忠朝


 身震いしそうになる。楠木は北伊勢の国人であったはず。勢力の拡大が著しい織田においては新参と言えぬのかもしれぬが、それでも古参とも言えぬはず。


 かような者が天下国家と主家の在り方を理解し、主家に尽くしておると言うのか? この男は、もとよりかように世が見える優れた男だったのか?


 六角家中では、今もあらゆることで揉めておる。所領や利権の扱い。さらに御屋形様が新たに始めた織田農園や近江御所の造営に際して、尾張流賦役を行なっておるが、その利を得られなんだ者が騒いでおるのだ。


 楠木殿のように、主家ばかりか敗れし者の行く末まで考えて動いておる者が近江にはおるであろうか?


 尾張は畿内に習うのを止めた。これは数年前から聞かれることだ。わしも幾度か尾張に行ったことがある故、分かっておるつもりであったが、その実はまったく違う。


 根底にあるはずの形をすべて変えてしまったようだ。


 斯波と織田は畿内を目指さず。近しいことでも大内家の故事がある。畿内に関わったところで得るものがないと見定め、久遠に習い、まったく別の国をつくっておる。


 それは分かる。だが、驚くべきはそこではない。織田家中がそれで意思統一し、田畑を耕し戦をするしか知らぬ武士を変えておることだ。


 佐々殿や楠木殿のような男が、尾張には続々と増えるのではあるまいか?


 人を育てることこそ、久遠のもっとも優れた技と知恵だとすると恐ろしいことになる。


 血筋、家柄、祖先の功で身分を定め、その内で生きることしか許されぬ日ノ本の諸勢力では相手にならぬ。


 才ある者を探し、その才を伸ばしてやるという織田学校。まさか、その先に身分ある者しかたどり着けぬような一廉ひとかどの将ですら作り上げてしまうとは……。


 先代様はこれを見抜かれておったのかもしれぬ。


 六角家は存亡の機というわけか。




Side:久遠一馬


 楠木さんの発言をきっかけに、皆さんがゆっくりと話をしている。墓地内にある和風建築の建屋で、休息として冷えた麦茶をお出ししていた時のことだ。


 家中や領内から過激な意見が増えつつあるけど、主立った皆さんはやはりそれだけでは駄目だと気付いている。


 オレたちの苦労を良く知る佐々さんが、上手く話をみんなで考える方向に誘導してくれた。若い人たちとか、今回のメンバーにも過激な意見の人がいるからね。


 まだまだ遊び足りない子供たちは、エルたちと一緒に近所の散歩に行ってしまってこの場にはいない。それもあって仕事をしているような雰囲気だ。


 佐々さん、相変わらず力の入れ時と抜き時が上手い。身分出身地問わずという異質な警備兵を上手くまとめ統括しているのは、彼のそんな力量が大きい。


「隼人正殿、言い分、一々もっともでございましょう。されど、相手はこちらからすべてを奪いかねない者らですぞ。かような者らに慈悲を持てと?」


「慈悲とは言うておらぬ。心を折るなりしてもよいし、権威も武力も持たせず、丸裸にしてしまえば残しても懸念は多くあるまい。いずれにしろ所領を与えることはない。この先、勝手な蜂起はないのだ」


 うん、言葉を選ばないとそういう言い方になるね。オレが言うと騒ぎになるので個人的には使えない手だけど、過激な思考の人には有効なんだよなぁ。


 信実さんと信友さんあたりは苦笑いを浮かべている。多分、オレと同じ心境だろう。そこまで言って上手く収められるのは才能だよね。


「古き世の権威、治めておった者の言い分。もっともなところもあるがな。少し意地の悪い言い方をすると、奴らとて力で従えてまとめたのだ。東国などその因縁が今も残ろう。奴らが誰も傷付けず、神仏の如き慈悲で日ノ本をまとめたならば話は変わるがな。あり得まい」


 淡々と語る佐々さんを若い者たちが尊敬の視線で見つめていた。


 考え方、物の見方。完全にウチの影響だ。有史以来の長い歴史、その闇や歴史に残らぬ始まりも考えている。


「ただ、拒絶して滅ぼしたところで面倒ばかり増えて利がなにもないのだ。上手く使うことを考えろ。おっと使うという言葉は言い過ぎかな。まあ、いい。叱られるのは覚悟の上だ」


 少し乱暴だけど、簡潔に多くの人を納得させてしまった。これオレとか家老衆だと同じ事出来ないからなぁ。立場が違う佐々さんならではだ。


 ちゃんと最後に言い過ぎたら叱られると釘を刺したし。


 ほんと、そろそろ立身出世を真剣に考えてもらいたい。





書籍版の書き下ろしなどは、今後webなどでの公開はありません。

書籍としての付加価値は守ります。

web版と違い、一冊の本として読むことを意識した加筆修正になっており、購入をお願いできるものに仕上がっていると思います。


どうか、ご購入をお願い致します。


カクヨムにて『オリジナル版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』と『改・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』があります。


『オリジナル版』は、2121話まで、先行配信しております。


『改』は言葉、書き方、長期連載による齟齬などを微修正したものに、オマケ程度の加筆があるものです。

なお、『書籍版』の加筆修正とは別物であり、書籍版の内容とは違います。

そちらも、どうかどうか、よろしくお願いします。


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書籍版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

第十巻まで発売中です。

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