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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
永禄四年(1558年)

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2005/2171

第二千四話・太平の島・久遠諸島・その八

 第八巻、11月20日発売しています。

 すでにご購入いただいた皆様、ありがとうございます。

 引き続き、連載継続と書籍版続刊のため、書籍版のご購入をお願い致しております。

 放っておいても連載と続刊が続くほど甘い世界ではありません。もし、ご購入を迷う方がいましたら、この機会にぜひお手に取ってみてください。

 一巻から七巻も書籍版オリジナルの加筆があり、続刊を重ねるごとに加筆が充実しております。



Side:河尻与一


 この三日、わしは島のあちこちを見て歩いておる。若い者らは熱心に学ぶべく己の役目と通じるところに足を運んでおるが、わしは隠居した身故に少々気楽だ。


 学ぶことを疎かにする気はないが、この島の者がいかに生きておるか。それが知りたい。


「神仏とは……己の胸の内におられるのかもしれぬの」


 ふと、そんなことが思い浮かんだ。


 戦に出ては人を殺め、武功とし誇っておった日々はもうない。かつてはそれが当たり前であったが、内匠頭殿の与力として仕えて理解した。


 市井の民でさえ、人とは代わるもののなき大切なものなのだと。


「河尻殿……」


 学校の見聞ならばと同行してくだされた天竺殿が、わしの言葉に驚いた顔をされた。少しいい過ぎたかの。


「なあに。戯言じゃよ」


 大殿や内匠頭殿が神仏の化身ではと称えられるのを間近で見ておったこともあり、考えさせられるのだ。神仏とはいかな者なのであろうとな。


 少なくとも寺社がまことに神仏に通じておることはない。それだけは断言出来る。真に神仏に通じておるように思える者など会うたことがない。


「貴方になら教えてもいいわね。それは当家の学問の行きつく先のひとつよ。そこにこれほど早く行きつくなんて……」


 驚かれたわけはそれか。少なくともこの世に神仏などおらぬ。いや、神仏がこの世に手を出すことなどないと考えるのが久遠の秘伝中の秘伝か。


 家督を譲り隠居したのは今年の年始だ。それ以降、学校で子らにわしの積み重ねたことを教えつつ、久遠の学問を学ぶことも許された。


 難しく理解が出来ぬこともあったがの。それでも多くを学んでおると通じるべきひとつの道が見えたのだ。


「坊主どもでは世を乱すことはあっても、治めることは出来ておらぬからの」


 熱心に祈り勤める者もおる。されど、寺社の者とて上に行けば行くほど俗物だ。寺社もまた世のためにあるべきだとは思う。されど、神仏の名を騙るは増長しておるとしか思えぬ。


「答えの出ぬことを考えるのが久遠の学問であったな。この件も考え続けねばなるまい。いつまでもな」


 やっと分かった。内匠頭殿らが寺社のすべてを従えようとしておる意味が。寺社のないこの国に来てな。


 神仏とはいかな存在なのか、寺社とはいかな存在なのか。一から考えねばならぬのだ。そのためには寺社のないこの国に来ねば分からぬのかもしれぬ。


「頼もしきお言葉です。やはり隠居が少し早かったとしか思えません」


「退いたからこそ見えるものもある。わしの新しき役目も見えたかもしれぬ」


 織田と久遠は安泰であろう。それの一助にはなれたはずだ。次にするべきは多くの者に久遠の学問の真髄を教え説くことか。


 寺社が騒がぬようにさりげなくな。


 世は広いな。果てしなく。だからこそ、面白い。




Side:織田信友


 本領でさえ人の数は決して多いわけではない。されど、日ノ本より広い海を制し、あちらこちらに領地を持つか。


 なにからなにまで日ノ本と違う。根底から違うと言うべきかの?


「受け継いだモノを守ることしか考えぬ日ノ本が及ぶところではないの」


 田畑にも出来ぬ入会地ひとつ争い、幾世代も争う者らを内匠頭殿らはいかに見ておったのであろうな?


 国を豊かにする。これだけならば日ノ本の者も常に考えること。されど、親兄弟や己の側近ですら疑い、殺し合う。


 内匠頭殿が子を武士にはしない。武士の家に子は出さぬと言い切る理由が分かる。


「我らには争うほどのものがございませぬので」


 案内役の者がわしの言葉に困ったような顔をした。見下してもよいと思うがの。こういう気遣いを出来るのが久遠の者ということか。


 幾世代も大人しく見つからぬように隠れ住む。まあ、噂で聞いたことはある。かつての平氏の生き残りなどがおるとな。


 左様な者と同じく日ノ本を離れ隠れ住んだ久遠の者らが、いつの間にやら日ノ本を越えてしまった。誰も口にせぬであろうが、誇らしかろう。


 朝廷が焦るわけよ。内匠頭殿は穏やかな御仁故によいが、祖先に因縁のひとつでもあり隠しておるとなると、此度こそ朝廷が終わる時が来るかもしれぬからの。


「まあ、それはよいか。面白きことは、あえて本領でも作らぬものがあることじゃ」


 内匠頭殿は常に損得を考える。商人らしいと言われておったが、この島に来ると内匠頭殿の本来の役目は領主であろう。


 つまり政にも損得が必要ということだ。


「海から採れるものと僅かな作物だけで生きる暮らしならば、この島ですべてそろえることも出来まする。されど、それでは我らに先はございませぬ」


 品物を作ることから運ぶことまで、久遠がすべて差配しようとする理由がこの地に来ると分かる。


 駿河遠江のような新参の地ですら、領内を遍く把握し、なにを作るのに向いておるのかと考えておるくらいじゃ。さらに作れるだけでは駄目で、必要とする量を考えて作らせ、端の民が食うて行けるようにと配慮をする。


 織田家でもようやく理解する者が増えて、今では領国の代官らがそれを基に進めておるがの。


 かつての日々を思うと、これを武士に教え説くことにいかに苦心したか察するにあまりある。


 畿内者は気付いておるのであろうかの? 外から買う品がなくなると困ると配慮をしておることに。


 これは織田家中でも知らぬ者がおることじゃがの。今の政を確と理解すると見えてくるもの。


 内匠頭殿の欠けておることのひとつかもしれぬ。己の功を隠そうとするあまり、配慮をしておることなども隠してしまう。これでは愚か者は気付かぬまま増長する。


 無論、大殿はご存知なことであろうが。それでも内匠頭殿の意思を守りたいということか。


 嘘偽りなく、内匠頭殿次第の世になりつつあるな。これがまことの天下を動かすということなのかもしれぬ。


 わしなど役に立つとは思えぬがな。僅かでもその重荷をともに背負うくらいはしてやりたい。


 因縁を水に流し、因幡守家を継げたのは、あの御仁がわしを許したことも大きいのじゃ。当人は貸しとも思うておらぬようじゃがの。




Side:久遠一馬


「皆様、いい顔をしているね。佐々殿のおかげかな」


 屋敷の庭で子供たちと土田御前や帰蝶さんとのんびりとしていると、見物や視察から戻った人たちが顔を見せに来てくれるんだけど。その表情がいい。


 楽しみつつ、新しい発見や学びがあったみたいで、メモした内容を清書するからと各自の部屋に戻る姿は見ていてもいいものだ。


 ただ、そんなオレの言葉に、土田御前がこちらを見てなにか可笑しかったのか笑い出した。


「貴方と会うと、皆があのような顔をしておるのですよ。高徳な僧ですら成し得ぬこと。もう少し自覚を持ちなさい」


 表情が柔らかい。仕方ない子だ。そう言いたげな土田御前に、亡くなった母さんの姿が重なって見える。


「土田御前様……」


 洋服を着ていることもあるのかもしれない。今日は特になにかあるわけではないが、いくつか用意してあった洋服をご自身で選んで着ている。


「自ら上に立てとは言いません。守護様も殿も三郎も望んでおりませんので。ただ、己の力は常に忘れないようにしなさい。さもなくば、大武丸や子々孫々が困ることになるはずです」


 見抜かれているなぁ。オレの本質を。


「そうですね。私の至らぬところかと。分かっているんですけどね……」


 実のところ、ここまではっきりと言ってくれるのはエルたち以外では土田御前だけだ。


 実の母子でも傅役や乳母が育てるこの時代で考えると、実の子と同等、いや、それ以上かもしれないほどの深い愛情を感じる。


「……時々、私が誰か分からなくなる時があります。私は皆が見ているほど立派な人ではないのですよ」


 ふと漏れた言葉に帰蝶さんが驚いた顔をした。エルたち以外にこんなことを言うのは初めてかもしれない。それだけデリケートなことだと理解している。


 ただ、久遠一馬という人物はオレを超えつつある。自分であり自分ではない。そんな感覚に陥る時が稀にあるんだ。


「分かっていますよ。だから私たちがいるのです。猶子とする際に殿が誓ったこと。久遠は織田が必ず守る。あの誓いは今も生きており、これからも生き続けるでしょう。織田家が織田家である限り」


 一緒にいるエルたちも驚いた顔をした。


 見抜かれている。オレの葛藤も苦悩も。恐らくエルたちの苦労も。


「母とはいいものですね」


 驚かされてばかりだと面白くない。最後に土田御前を母と呼ぶと、土田御前が僅かに驚いた顔をした。


 猶子にして以来、付き合いがいろいろとあるが、面と向かって母と呼ぶのは初めてだからね。


「三郎よりも困った子を持つとは思いませんでしたよ」


 ああ、驚かせようとしたのを見抜かれてやり返されてしまった。少しいたずらっぽい表情でそう言われると返す言葉がない。


 ただ、ほんと心地よく楽しいね。




◆◆

 永禄四年、久遠諸島滞在中の久遠一馬と土田御前の様子が土田御前の侍女であった者の文として残っている。


 具体的に話した内容は残っていないものの、一馬に己の力の自覚を促した土田御前に対し、一馬は土田御前を母と呼び感謝したという内容だ。


 尾近伊の三国同盟や斯波、織田、久遠で交わした久遠盟約など、後の歴史から見てもすでに天下を動かせる力のあった一馬の苦悩を土田御前は理解していたとあり、実の親子以上とも言われた信頼関係があったことを裏付ける資料となっている。


  



書籍版の書き下ろしなどは、今後webなどでの公開はありません。

書籍としての付加価値は守ります。

web版と違い、一冊の本として読むことを意識した加筆修正になっており、購入をお願いできるものに仕上がっていると思います。


どうか、ご購入をお願い致します。


カクヨムにて『オリジナル版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』と『改・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』があります。


『オリジナル版』は、2119話まで、先行配信しております。


『改』は言葉、書き方、長期連載による齟齬などを微修正したものに、オマケ程度の加筆があるものです。

なお、『書籍版』の加筆修正とは別物であり、書籍版の内容とは違います。

そちらも、どうかどうか、よろしくお願いします。


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書籍版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

第十巻まで発売中です。

― 新着の感想 ―
[良い点] 母親を感じるシーン、最近の中では一番好きな話です
[一言] まさにその通り!宗教は糞!結局お金だから!死んでつけられる戒名もお金次第、その人がどんな人生を歩んできたかではなく寄付の額で決めている…で坊主はパソコンの戒名を決めれるソフトを使って簡単に決…
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