第二千三話・太平の島・久遠諸島・その七
第八巻、11月20日発売しています。
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放っておいても連載と続刊が続くほど甘い世界ではありません。もし、ご購入を迷う方がいましたら、この機会にぜひお手に取ってみてください。
一巻から七巻も書籍版オリジナルの加筆があり、続刊を重ねるごとに加筆が充実しております。
Side:久遠一馬
宴は大成功だった。
翌朝には飲み過ぎたと二日酔いに苦しむ人もいたが、それでも異国の地といえるこの島にてみんなで飲んで楽しんだ影響は小さくない。
そんな滞在二日目と三日目は、それぞれ要望や関係ある場所への視察をしている。
尾張とこの島の制度や具体的な様子の違い、また、ここではない海外領との違いなど、進んだ技術や体制以外にも学ぶべきことは多く、前回までの来訪よりも現実的な研修になっているんだ。
現在、織田家の主要課題には、領国間の格差と、尾張から離れた領地の開発と防衛などがある。それと義統さんと信秀さんは、ウチの領地になにかあった場合には兵を送ると明言していることもあり、海外領を含めた協力体制や派兵に向けた課題の洗い出しなど、清洲では具体的な検討がされている。
畿内との関係が難しく騒がれつつあるが、織田家として具体的な検討がされているのは、奥羽領、関東、近江への派兵であり、戦略、戦術、補給ルートの確保など軍務奉行である信光さんの下で支度が進んでいる。
あと軍事以外にも食糧確保や各種資源や必要な品をどう手に入れていくかなど、既存の武家では考えることがないことも多岐に渡り検討しているんだよね。
そんな苦労をしている織田家の皆さんからすると、面目が、権威がと言いつつ品物と銭を欲しがるばかりである朝廷の評価が下がっていくのは仕方ないことだと思う。
すでに実権もほぼなく実務経験もない朝廷だと、実りある話なんてほとんど出来ないしね。
長年の懸案である畿内に蔓延する悪銭鐚銭をどう思っているのかと問うても、困ったものだと口にするばかりで、朝廷として貨幣をどうするのかという意見が聞けることはない。
威張って上に立とうとするのに、具体的な話になると足利がやるべきことだとか奉行衆に押し付けるんじゃ、敬意を持ってというのも難しくなる。
まあ、朝廷の代わりに政治をしていたのが足利なので、足利がやるべきということは間違っていないんだが。
ただ、尾張からすると、それならば朝廷と話す必要ないんじゃないかとしかならない。申し訳ないが、義理以上に関わるメリットがない。
京の都では奉行衆と京の都在住の織田家家臣が話し合うことはあるが、極論を言うと金の無心以外はあまり話すことがないんだよね。
外交として交渉を続ける意味はあるし、歴史ある朝廷を誰も自分が潰したくないから切り捨てることもしないけど。
少し話が逸れたが、現状では対畿内、対朝廷は重要案件だが、具体的な改革や検討とか進んでいるかと言えばそうでもなく、割り振る予算や人員も多くない。
あまり外部に漏れないようにしているので知られていないが、はっきりいうとウチとの連携と協力に関わる予算と人員のほうが圧倒的に多い。
ほんと当初はオレが信長さんの家臣で、俸禄を頂きつつ、商いなどの税を納めていただけなんだけどね。
今も俸禄はあるし、信秀さんの猶子となり直臣になった以外は表向きの形は変わっていない。
ただし、織田家と久遠家という関係で見ると、もうそういう段階ではない。
事実上の同盟国として対等な形で助け合っている。財政面では、すでにウチが織田家に貸し付けているお金のほうが多いんだよね。無論、実際にお金のやりとりをしているわけではなく、あくまでも書面の上でのことだが。
それにはオレたちが教えている知識や技術の対価も含まれており、細かい対価を誤魔化しつつ織田家に教えていたことに対する過去の対価分も、近年では密かに再検討して借金という形で残すことで調整しているくらいだ。
織田家から与えられている各種利権もあるから、そこは相殺する形だけど。そこを加味しても、オレたちの知識に対する対価がおかしいと織田家中の皆さんが気付いてしまった。
これ、主に朝廷と公家のせいなんだ。金の無心はするが、与えられるのは名誉のみ。そんな朝廷との付き合いが織田家中の皆さんに広まった結果、自分たちのことを顧みている。
ウチが豊かなのはあくまでもウチの独自の力であり、教えられた知恵や与えられた技に対する対価としていかがなものか? そんな考えが生れてしまった。
織田家が正統な形で中央集権国家になりつつある過程としては、歓迎するべきことだけどね。
まあ、借金を返せということは未来永劫、多分ない。どうせ織田と久遠は今後も運命共同体として助け合っていくんだから。
今回の訪問団の皆さんが真剣なのは、そういった織田家と久遠家の外に漏れない深い関係も影響しているということだ。
オレとしてはもう少し緩めたいんだけどね。
Side:今川義元
「聞きしに勝るとはこのことよの」
一言で言えば美しい治世と言うてもよかろう。小さな島でいかに広く海の外にある所領を治めておるのか。そこを問うて学ばせてもらったが、そうとしか思えぬ。
わしは唐天竺に並ぶほどの者を相手に争うておったようなものじゃな。後の世の者に愚か者と謗られよう。
「試行錯誤の末のことでございますよ」
アイム殿、タオルという新しき布をここ久遠諸島で作る形を整えたとかで職人衆からは織の方と呼ばれておるが、領内を見て回りつつ、気になったことを問うとわしでも分かるように教えてくれる。
話をすると、この者もまたいかに優れておるか分かる。高徳を称する坊主とて、教え学んだことを語る以外は役に立たぬ者も珍しくないというのに。
まことに敵わぬと思えた者は雪斎とごく僅かな者だけじゃ。
「日ノ本が悪いとは思わぬがの。されど、長き世に渡り、始末を付けずに済ませたことが多過ぎる」
来てよかった。わしに出来ること。わしがするべきことが見えてくる。
大殿や内匠頭殿ならば知っておることであるが、わしのところには今も関東などから文が届く。織田の治世を理解しておらず、なにかあらば兵を挙げると本気で思うておる者があまりに多い。
裏切り裏切られ、生き残るためには手段を選ばぬ。それもまた世の常であろうがの。
「外のことは難しゅうございますね。私には無縁なことですが」
この一言に背筋が寒うなる。本領の者にとって、日ノ本はまさに『外』なのじゃ。武衛様や大殿が上手くやっておることで上手くいっておるが、正しくは主と言えるほどの義理はない。
もっともそれを言うならば、わしもまた朝廷や足利家に対して同じ思いを抱くことはある。まさに『外』なのじゃ。畿内はの。
「まあ、外のことはいかようでもいい。わしはここで学べることを学び、斯波家のため織田家のため、今川家のために勤めるまで」
「私たちも同じでございます。共に学び変えていきたいと思っておりますわ」
共に学び変えていくか。血塗られた坊主などが及ばぬわけじゃの。
あえて口にせぬが、政とはなんと面白いものじゃと教えられた。あり得ぬと一笑に付しておったことや思いもよらぬことをすることで、あれこれと変わりてゆく。
この歳まで生きてきたが、かように政が面白きものじゃとは思わなんだわ。
書籍版の書き下ろしなどは、今後webなどでの公開はありません。
書籍としての付加価値は守ります。
web版と違い、一冊の本として読むことを意識した加筆修正になっており、購入をお願いできるものに仕上がっていると思います。
どうか、ご購入をお願い致します。
カクヨムにて『オリジナル版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』と『改・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』があります。
『オリジナル版』は、2117話まで、先行配信しております。
『改』は言葉、書き方、長期連載による齟齬などを微修正したものに、オマケ程度の加筆があるものです。
なお、『書籍版』の加筆修正とは別物であり、書籍版の内容とは違います。
そちらも、どうかどうか、よろしくお願いします。














