第千九百十四話・第五回文化祭
戦国要塞、一巻から七巻まで発売中です。
七巻に関しては加筆修正をしており、女性陣の視点、土岐頼芸の最後、お市ちゃんの出番など書き下ろしの場面も随所にあります。
書籍版の書き下ろしなどは、今後webなどでの公開はありません。書籍としての付加価値は守ります。
web版と違い、一冊の本として読むことを意識した加筆修正になっており、購入をお願いできるものに仕上がっていると思います。
どうか、ご購入をお願い致します。
カクヨムにて現在『オリジナル版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』と『改・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』があります。
『オリジナル版』は、1980話まで、こちらより先行配信しております。
『改』は言葉、書き方、長期連載による齟齬などを微修正したものに、オマケ程度の加筆があるものです。
なお、『書籍版』の加筆修正とは別物であり、書籍版の内容とは違います。
そちらも、どうかどうか、よろしくお願いします。
Side:セルフィーユ
深夜、日付が変わる頃。学校の食堂には、徹夜をする者たちがお腹を空かせてやってくる。
年に一日だけ。文化祭の前日は徹夜での準備が許されていて、大人から子供まで徹夜や朝方まで起きている者が多いのよね。
私も今日は徹夜で手伝うべく食堂の調理場に入っている。
「うふふ、私がいなくてももう困らないわね」
学校の料理番のみんなが頼もしい。開校当初は戸惑いと試行錯誤の連続だった者たちだ。栄養という概念がない時代なだけに、どういう食事を出すべきなのか。そこから教える必要があった。
当然、予算もあり使える食材も限られている。この辺りは私のほうから進言して、無理なく続けられるようにと初めから予算を制限してもらった。
一度上げた予算を減らすのは難しい。さらに太平の世になり、各地に学校が出来た時に食事をどこでも出せるようにと私も必死に考えたのよ。
「お方様にはまだまだ及びませぬ」
「同じものを連日お出しするわけにいきませぬからなぁ」
この時代では食材を集めるだけでも苦労をする。そのため近隣などいくつかのところでは、契約して学校用の畑を作ってもらうなどもしている。
それでもこの時代では手に入る食材が限られている。栄養や味を考えて子供たちのために食事を作る。城の料理人と同等に大変な役目なのよね。
「さて、明日は大変よ。交代で少し休みましょう。これも役目のうちよ」
夜食は作り置きをしたので料理人のみんなを休ませないと。本当に忙しいのは明日なのよね。学校に通う者たちの家族と地域住民ばかりじゃない。武芸大会に来ている他国の者たちが文化祭も見物して帰ろうという人がそれなりにいる。
「セルフィーユ殿、こちらはいかがですか?」
「料理番は先ほどから休ませておりますよ」
しばらくすると市姫様がやってきた。いろんなところを回って困っていないか確かめているようね。なんか、小さなエルやメルティを見ているようだわ。
「もう少し人を配しましょうか?」
「そうですね。では夜が明ける少し前にお願い致します」
「はい! お任せください!」
眠気もあるでしょうに、頑張る市姫様に思わず笑みがこぼれてしまう。幼い頃から知るだけに、主家の姫様というよりも本当に私たちの妹のように思える時があります。
「こういうのも楽しゅうございますね」
学校生活という経験がない私にとって、文化祭は自分も学生になった気分になれる。
明日はきっと楽しくなる。
仕事でもあるけど、それ以上に一緒に楽しめることがなにより嬉しい。
Side:久遠一馬
パメラとの赤ちゃんは『甘奈』と名付けた。ふたりでいろんな候補を出しつつ、すずとチェリーとかも候補を出してくれた中から選んだんだ。
今はまだ眠る時間が多いけど、起きて周りが賑やかだと嬉しそうにする子だ。
赤ちゃんは可愛い。ずっと見ていても飽きない。
ただ、傍でパメラとケティが微妙な雰囲気になっている。
「私も行きたかったのに~」
「駄目、まだ出歩くには早い」
九月下旬に甘奈が生まれて、ひと月以上が過ぎている。暦は十一月だ。
すでにお宮参りも済ませていて、今日は文化祭の日になる。パメラは見物に行きたいみたいだけど、ケティが止めている。
妻たちもそれぞれだ。ジュリアもそうだったけど、落ち着いているのが苦手だとすぐに動きたがるよね。
そうそう、文化祭、今年は三日間になった。去年の混雑具合や来場者から学校を中心に関係者で決めたことだ。
文化祭もすっかり那古野のお祭りとなっていることで、工業村とか那古野神社の意見も反映されているんだ。
「私たちが動くと、下の者たちが休めなくなる。我慢して」
「う~」
パメラは不満そうに頬を膨らませるけど、ケティには勝てない。体調は問題ないんだけどね。産後、母親を半年は休ませるようにと指導しているケティとすると、妻たちが動くのは避けたいんだろう。
「なんか美味しそうなものがあったらお土産を買ってくるから」
「絶対だよ!」
オレも一緒に残ってあげたいところだけど、子供たちが楽しみにしているし、学校の子たちもオレが来るのを楽しみにしているらしいんだ。
屋敷を出ると、那古野の町は朝から賑わっている。ほんと地域の連帯感はこの時代の長所だと思う。
学校までは少し距離があるけど、歩いていく。小さい子たちは妻や侍女さんが抱っこしてね。
通り沿いにあった田んぼはこの十年でほぼなくなった。それだけ町が拡大したんだ。那古野で田んぼを作っていた人たちは新しい仕事をしている人が多い。学校や病院で働いている人もいる。
ただ、尾張の食料生産量はむしろ向上している。知多半島など簡易ながら灌漑設備を整えたところもあるし、農業改革が浸透し魚肥なんかも普及したからだ。
中長期的に見ると、やはり尾張の食料生産量は減るだろう。とはいえ、水利がいい土地以外は入会地となっているところも多く、開発次第ではまだまだ新しい農地を作れるところはある。
まあ、甲斐、信濃、飛騨でも開発効率が良さげなところはまだあるんだよね。三河の渥美半島なんて、水利が良くないこともあってほとんど手つかずのまま残っているし。
「ああ、輝、そっちじゃないよ」
「ちーち、あっちいこ!」
「うん。今度行こうな。学校でお祭りがあるから」
おっと、のんびりと歩いていると、子供たちがあちこちに興味を示してはぐれそうになる。
ウチは目を離さないだけの人がいるからいいけど、子育てって大変だなと実感する。
「あら、混んでいるわね」
わりと早めに来たんだけど、学校はすでに多くの人で混雑している。入口で刀とか預かっている人たちは大変そうだ。
これ引き換えとして木札を渡しているんだけど、毎年、なくしたと騒ぐ人がいるらしい。
もっとも学校に来る時は、刀とか脇差し持ってこない人も結構いるらしいけど。尾張内を移動するなら、正直、刀とかなくても困らないしね。
上級武士とかは間違って他人の刀と取り違えたりしてもいいように、大切な刀は持ってこない人も普通にいる。
学校を信用してないわけじゃないけど。そのほうが面倒はないからね。
しかし、年々賑やかになるなぁ。今年はなにがあるんだろうか?














