第千八百二十五話・親と子の模擬戦
第七巻、三月二十日発売です。
今回も加筆修正をしており、女性陣の視点、土岐頼芸の最後、お市ちゃんの出番など書き下ろしの場面も随所にあります。
書籍版の書き下ろしなどは、今後webなどでの公開はありません。書籍としての付加価値は守ります。
web版と違い、一冊の本として読むことを意識した加筆修正になっており、購入をお願いできるものに仕上がっていると思います。
どうか、ご購入をお願い致します。
詳しくは活動範囲にて。
カクヨムにて現在『オリジナル版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』と『改・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』があります。
『オリジナル版』は、1856話まで、こちらより先行配信しております。
『改』は言葉、書き方、長期連載による齟齬などを微修正したものに、オマケ程度の加筆があるものです。
なお、『書籍版』の加筆修正とは別物であり、書籍版の内容とは違います。
そちらも、どうかどうか、よろしくお願いします
Side:織田信長
「まさか大殿と戦うことになろうとは……」
感慨深げな勝三郎の声が胸に響く。
馬廻衆も武官や文官となり今はなく、直臣も親父とひとつにしてしまったことで、百名の兵ですら親父と交互に欲しい者を選んだほどだ。
誰を選ぶのか。選んだ者、選ばなんだ者のことを考えると面倒かと思うたが、親父とふたりで選び始めると、互いに考え方や見方が違うことを理解して面白いとさえ思った。
親と子であっても考え方は違う。それ故、他家では争うこともあり、時には戦にまでなることすらあると改めて教えられた。
事前に決めたことは親父の直臣から選ぶことだけだ。エルたちや新介などのように直臣でない者は入れぬことにした。
勝っても負けても遺恨なし。オレと親父ならば懸念はない。
守護様と親父は、これを機に古河公方らに斯波と織田の力を示したいと考えたようだが、正直なところオレにはいかようでもいいところがある。
かずらもそうだが、敵にならぬようにと配慮に配慮を重ねておるものの、それを理解する者は僅かしかおらぬ。そこまでして残してやる義理があるのかオレには分からぬのだ。
無論、戦がしたいわけではないがな。
「若殿、いかがなさいまするか?」
実はひとりだけ事前に辞退した者がおる。爺だ。もう歳故、吉法師と共に見届けたいと言われた。代わりというわけではないが、入れたのはこの男。爺の嫡男である五郎右衛門久秀だ。
すでに爺の跡を継いで家老衆のひとりとなっており、よう顔を合わせる男だ。誰に似たのか少し頑固者だが、織田随一と言われる爺の後を確と継いでいる。
「まずは攻めるか。こちらから攻めるなど戦では無理だからな」
先ほども言うたが、戦がしたいわけではない。されど、槍を手に戦場を駆けることを夢見た者たちだ。
戦場では弓や弩、鉄砲に焙烙玉などの飛び道具が主体となりつつある。無論、それでもなお敵が退かぬのならば槍を合わせることになるが、今のところそこまでやれた相手は僅かしかおらぬ。
今後はもっと減ることになろう。
故に、この場くらいは皆が夢見た戦をしてもよいと思えた。勝敗に関わらず親父には当分当主でいてもらわねば困るからな。
「はっ! ではそのように!」
もしも……、あの時かずが尾張にやってこねば、オレは今も自ら戦場を駆けておったのであろうか?
ふと、それが気になった。
Side:織田信秀
「若殿は討って出るおつもりのようでございますな」
佐久間大学は楽しげだな。いや、味方は皆楽しげだ。
こちらの陣には少しばかり歳のいった者が多い。誰を選ぶかとなった際に、ついつい昔を思い出して決めてしまったからであろう。
大学に限らず、織田が大きくなるに従い立身出世して役目に就いた者が多い。文官と武官、同じ武士でありながら戦に出ぬ者と出る者に分けたからであろうな。古参には相応に人をまとめ、政をするように求めた結果だ。
文治で国を治める。武士の生き様に異を唱えるようなこの形に不満があった者も多かろう。されど、変わりゆく中で、皆が己の役目を見つけて付いてきてくれた。
わしは、尾張半国に美濃と三河を少しばかり手に入れるくらいしか出来なんだ。それ故、一馬たちに懸けた。
「よかろう。付き合ってやるか。だが、鉄砲も金色砲もない戦はこちらのほうが慣れておるのだ。三郎らに見せてやろう。生き残るための戦をな」
「はっ!」
三郎や吉法師、若い者らにまだ伝えきれておらぬことがあると、今この場になって思い出した。
同じ条件で戦をするという難しさを三郎や若い者らに教えてやらねばならぬ。
一馬、そなたもまた己の目で見たことがあるまい? 幾年月も続く乱世の理由を確と見ておけ。
「残すものは残し、伝えるものは伝えねばならぬか」
「大殿……?」
「怖い男だ。戦を根底から変えつつも、それを残すべくかような場をつくった。我らが泥にまみれて戦をした日々は決して無駄ではなかったのだ」
つい口から出てしまった言葉に、皆の顔つきが変わる。
人を変え、世を変えることを誰よりも進めておるというのに、古きを残すことも誰よりも熱心だ。
なんということはない。それが知恵というものなのであろう。
新たな世に生き様を残す。それもまた我らの天命。
「後れをとるなよ。かかれ!」
いかがなるのであろうな。勝敗にあまり興味はないが、気になるのも事実。
歯が立たぬほど敗れるなら隠居して安穏とした日々を送るのもいいかもしれぬ。そう思うと笑みがこぼれそうになる。
Side:久遠一馬
開始の合図と共に両軍動き出したけど……。
「これはまた……」
両軍陣地は本陣を守るように最低限構築していて、そこからのスタートになる。驚いたのは、両軍共に討って出たことだろう。策を考えた布陣とかがないんだ。
「少し懐かしゅうございますな」
「ああ、昔は戦とはかようなものであった」
その意図を考えていると、資清さんと望月さんが答えを示してくれた。
そうか、これは本来の戦そのものなのか。
あまり深く考えた策もなく、面目や小競り合いから始まる戦。地形などにより多少の違いはあるんだろうけど、とりあえず一当てしてやろうという本来の戦に近い考えから始めたようだ。
信秀さんと信長さんで話し合って決めたんだろうか? この辺りはまったく聞いてないから知らないんだよね。
「大殿は、私たちに見せてくださろうとしているのかもしれません。武士の在り方を。今も争う者たちの生き様を」
「……エル」
義輝さん以下、古河公方や北信濃の国人衆がいる中、彼らに織田の強さを見せつけるより、オレたちになにかを伝えようとしているのか?
変えることが正しいかなんて、オレにも分からない。ただ、今の乱世よりはマシな世の中にしたいとは思う。
そんなオレたちを周りがどう見ているのか。どう受けとめているのか。客観的に知ることはなかなか難しい。
敵は、関東でも朝廷でも寺社でもない。自分たちのうちにいるかもしれないということか?
分からない。ただ、オレも真剣に見届けないといけない試合だということは確かだろう。
ふたりが、いや、参加している皆さんがどう動き、どうなるのか。
目に焼き付けておこう。














