第千八百二十二話・一夜明けて
第七巻、三月二十日発売です。
今回も加筆修正をしており、女性陣の視点、土岐頼芸の最後、お市ちゃんの出番など書き下ろしの場面も随所にあります。
書籍版の書き下ろしなどは、今後webなどでの公開はありません。書籍としての付加価値は守ります。
web版と違い、一冊の本として読むことを意識した加筆修正になっており、購入をお願いできるものに仕上がっていると思います。
どうか、ご購入をお願い致します。
詳しくは活動範囲にて。
カクヨムにて現在『オリジナル版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』と『改・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』があります。
『オリジナル版』は、1854話まで、こちらより先行配信しております。
『改』は言葉、書き方、長期連載による齟齬などを微修正したものに、オマケ程度の加筆があるものです。
なお、『書籍版』の加筆修正とは別物であり、書籍版の内容とは違います。
そちらも、どうかどうか、よろしくお願いします
Side:知子
花火大会から一夜明けた。
綺麗な花火を見られたことで気分がいい。これで自称高貴なおっさんたちと一緒じゃなかったらもっと良かったんだけど。
領民の反応は予想以上だったかもしれない。私たちのいる八戸根城の周囲ではお祭り騒ぎをする声が一晩中聞こえていた。
ショック療法というべきかしら? こうでもしないとこの地を変えることは難しい。
一方で顔色が悪かったのは寺社の関係者かしら。神仏という信仰を最大限に利用している彼らにとって、人が想像した以上の奇跡と信じさせる現象を起こせることは脅威でしかない。
実際、今でも彼らは自分たちの価値観を押し付け慣例通りに遇しろと騒いでいるし、私たちに説法をしてやろうという人さえいる。最近じゃ、会うこともないけど。
土地を治めるのに神仏の名を使わない。それが私たちのやり方。私たちもまた彼らに私たちのやり方を押し付けていると言えるけど、今まで通り好きに領地を治めることは否定していないわ。
ただ、こちらの統治に力を貸せと言わない代わりに、義理以上の利など与えないというだけなのよね。それが、神仏の代理である自分たちに頭を下げないのが気に入らない。突き詰めるとそんな傲慢な本音も見え隠れするわ。
ほんと、私の大嫌いな人たちね。
「お方様、いかがされましたか?」
「なんでもないわ。少し歩いているだけよ」
外はまだお祭り騒ぎだけど、城内の一角では兵たちが鉄砲の訓練をしていた。蝦夷から連れてきている者たちを中心に、二千から二千五百は常に私たちと共にいるのよね。
彼らが鉄砲を撃つ音が常に聞こえるのがここの暮らしであり、私たちに会いに来る者たちへの威嚇にもなっている。
「ここももう少し改築しないと不便ね」
「しばらくここに留まることになるのでございまするか?」
兵たちを見ていると指導している者が問いかけてきた。織田家から与力として来ている武官のひとりね。
「高水寺とか、あっちの出方次第かしらね」
私たちがいる根城は平山城であり、そこまで悪い城でもない。ただし、物足りないというべきかしらね。規模も設備も。無論、港も町も同じことが言えるけど。
港の整備と町の拡張を優先させていることで城は手付かずなのよ。私たちにはゲルがあるしね。別に城の防備を整えたいなんて思わないけど、不便で物足りないことに変わりはない。
もっともこの地域だと竪穴住居が普通に使われているわ。寒冷地であるこの地の気候風土を考えると、現状だとこれがベターなのよね。
衛生管理とか以前の問題で頭が痛くなるけど。
「この地に来ると、尾張や美濃は恵まれておると実感致しますな」
「そうね。はっきり言うと、ウチも蝦夷や日ノ本の外に力を注いだほうが利になるのよね。ただ、変えてあげないといつまでも変われないから。こういう土地は」
尾張からの出向組は、厳しい環境と開発がされていない土地に複雑な思いを抱く者が多い。それでも熱心に働いてくれているのは、私たちが彼らの暮らしと将来をきちんと保証しているからと言える。
ここを与えるから治めろと言うと、自分と家が生き残ることしかしないだろう。尾張を知る彼らであっても。出来ないと言ったほうがいいかもしれないけど。
「左様でございますな。我らがやらねば、世は変わりませぬ」
「期待しているわ」
「ははっ!」
自分たちが世を変える。中堅以下でさえも、当たり前に言えるようになった。これだけでも本来ならば相当な難題なのよね。
子や孫、いえ、末代の世のために。
覚悟ひとつとっても織田は一歩も二歩も進みつつある。そういう意味では鉄砲や花火がなくても、この地の者に負けないでしょうね。
おかげで私たちがそこまで神経を擦り減らして統治しなくて済んでいる。
あれからもうすぐ十年。成果は確実に出ているってことね。見えないところから。
Side:織田信秀
「花火はよいの。あれを見るたびに新しき世を見とうなる」
花火から一夜明け、守護様はご機嫌な様子か。
公卿公家よりは面倒がないとはいえ、上様や古河公方など多くご心労があるかと案じておったが。
「恐れおののくように見ておる者もおりましたな」
「ふふふ、良いではないか。こちらが差し伸べた手を拒むならば好きにすればよい。わしもそなたもまことの仏ではないからの。敵となるならば討つまで」
津島で初めて花火を上げてから九年。わしも守護様も歳を取った。だが、この九年はまことに有意義で面白き日々であったな。
このお方もまた、変わりゆく世に合わせるかの如く強く大きくなられた。一馬らが老若男女問わず、人を育てることを第一としておるのが分かるわ。
「慶寿院様がいかにするか少し懸念しておりましたが……」
「表立って動くことはあるまい。あとは奉行衆が抑えるであろう」
懸念はいずこにでもあるが、上様の周囲には公卿と近衛家に通じる者が多い。上洛の折に上手くいかなんだことで少し動きがあると聞き及んでおるが、思った以上に落ち着いておる。新たな面倒事も覚悟しておったのだが。
「弾正、せっかく上様がおるのだ。模擬戦をやってみるか? 秋以外でもやってはという献策があったであろう。古河殿らにも見せておくべきじゃと思うが」
そういえば左様な献策があったな。あれやこれやと忙しゅうてやれておらぬが。
「良いかもしれませぬ。領内は争いがなく、金色砲や鉄砲ばかり使うからと武芸を軽んじておると思う者もおりましょう」
武芸がお好きな上様は喜ばれような。なによりあれは武士としての鍛練や用兵を我らが欠かしておらぬと示すことが出来る。古河公方らに見せれば、安易にこちらを争いに巻き込もうとする愚か者が減るやもしれぬ。
「あえて諸国の者に見せることでこちらの武威を示す。武芸大会から学んだことじゃからの」
花火も武芸大会も一馬らが始めたことだ。家中領内をまとめひとつとするため。戦をせずとも武威を示すため。
事実、一度だけ若武衛様のためと模擬戦に出た一馬は、己の武威を示したのだ。あれ以降、一馬自身に武威がないと軽んじる声が消えたとも聞く。
同じ真似が出来ぬと示した花火のあとに、同じ戦ですら強いと示す。この意味は大きいと言わざるを得まい。
では、さっそく支度に入るか。














