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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
永禄二年(1556年)

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第千七百三十五話・年越しの支度

Side:ウルザ


 尾張はいいわね。私たちが帰ると喜んでくれる人がいる。故郷なんてないはずの私たちが故郷に帰った気になる。いえ、もう尾張が故郷と言えるのかもしれないわね。


「すまぬの。いろいろと世話を掛けて」


 元信濃守護である小笠原大膳大夫長時殿のところに挨拶に出向くと、開口一番で謝罪された。いろいろと細かい問題があるという報告は受けているようね。ただ……。


「いえ、民部大輔殿のおかげで厄介とまで言わないうちに片付いておりますわ」


 弟である民部大輔殿は信濃衆の取りまとめ役となっている。私たちの耳に直接入らない問題や不満、諍いなどいろいろとあることを上手く取りまとめている。


「長きにわたって争うことしか知らぬ者も多い。わしが言えることではないが、愚かしいと思う」


 大膳大夫殿は、今も家中に礼儀作法や行儀作法を教えている。小笠原流として確かな形があるものの、どちらかと言えば尾張に合わせて形に拘り過ぎない指導をしており、評価が高い。


 この方も尾張で学んで変わったのよね。


「致し方ないことかと。変わるだけの機会と場を整えてやるのも私たちの役目。そう思っております」


「この世の広さからすると日ノ本は狭く感じるが、それでも恙なく治められぬ程度に広い。人の生涯で世を変えようとするとは思わなんだわ」


 統治も戦も決して上手いとは言えない。でも、だからこそ人を治める苦労を理解している。織田の治世を学んだ今なら、一国の代官に向くかもしれないわね。


「まあ、愚痴を言うても仕方ないの。なにかあれば言うてくれ。出来ることは少ないが、力になろう。信濃は生まれ育った地。あの地が変わるのをわしも見てみたい」


「ありがとうございます」


 旧高遠領の問題もなんとか目途が立った。諏訪が荒らしたことで復興は道半ばだけど、諏訪分家も不満ばかり主張する末端の統制に四苦八苦しながら動いている。


 高遠領で勝手に村などを占拠した者たちは、本来の持ち主に村を返すこと。立ち退く際に生きていけるように織田で仕事を斡旋することなどでまとめたわ。


 北信濃の村上なども、商いにおける価格調整の成果もあって互いに争わないで共存しようとしてくれているものね。


 武田と甲斐にだけは負けたくない。信濃衆の共通する意地よ。それが国をまとめている。今のうちになんとしても形にしてみせるわ。




Side:久遠一馬


 猶子の子たちが帰ってきて、報告と挨拶をしてくれると嬉しい。まあ、中には身分が一気に変わって戸惑った子たちもいるようだけどね。それでもみんな元気に役目を果たしてくれたようで助かっている。


 オレとすると褒美を与えて、年末年始はゆっくり休むようにと言うくらいだね。


 報告では主に牧場関連があった。美濃の牧場は順調だし、三河の牧場も候補地を決めて縄張りをしている。頼もしい限りだ。孤児院は今後も増やしたい。牧場運営と一緒にすることで救える子供たちも増えるだろう。


 牧場に関しては、牛乳やチーズの需要は増えているし、生産量は増やしたい。さらに野菜や卵の消費も右肩上がりだ。卵なんかは狭いスペースで鶏を飼えるので農村から武士の屋敷まで飼育が普及しているけど、まだまだ需要があるから牧場でも生産はする。


 野菜も栽培が難しいものや流出させていないものは、牧場の主力になるからね。もっと増やしていきたい。


「セレス、大丈夫か?」


「はい。少しは動かないと駄目ですから」


 この日は餅つきのために牧場村に行くんだけど、来月出産予定のセレスも同行するようだ。お腹も目立つようになったし、気になるけどね。とはいっても、寝ているばかりというのは駄目だからなぁ。


「まーま、いっしょ」


「ええ、一緒に行きましょうね」


 ニコニコとした武典丸たけのりまるはセレスと手を繋いでご機嫌だ。数えで二歳なんだけどね。母親たちや侍女さんたち、それに子供たち同士でいろいろと学んで成長している。


 特に教育方針を変えていないんだけど。武典丸は母親であるケティを見ているからか、妊娠しているセレスの傍にいることが多い。


「パメラも無理するなよ」


「うん。大丈夫! 大丈夫!」


 ああ、パメラが妊娠した。五週くらいだ。今のところ妊娠の兆候があるという段階に留めているけど、仕事を少し減らして様子を見ている。


 病院だとお清ちゃんも春に出産したばかりなのでまだ産休中だけど、医師も看護師も少しずつ増えていて、みんなで頑張れる体制が出来つつある。


「ハハハ、こういうことはわしに任せろ!」


「しゅごい!」


「さすがは、まがらさま!」


 牧場村の孤児院ではウチのみんなや家臣たちが餅つきの支度をしているけど、真柄さんが手伝ってくれていて、臼を軽々と持ち上げて運び子供たちが喜んでいる。


 真柄さん。客分なんだけどなぁ。細かいこと考えないで馴染む人って、社交性が高いというか人としてのスキルが凄いなと改めて思う。


 家臣とか使う人も増えて、オレたちでみんなに餅を配る分をすべて搗くことは難しい。でも自分たちで食べる分と、縁起物みたいに少しずつ配る分は搗くんだ。


「某まで世話になり申し訳ございませぬ」


「いえ、構いませんよ。皆で楽しむのが当家の流儀なので。遠慮せず我が家と思ってください」


 孤児院には他にも絵師が何人かいる。雪村さんは今も客分としているし、雪村さんの伝手で尾張に来ている関東の絵師が数人ほど孤児院で暮らしているんだ。


 自身の絵を描くばかりじゃなく、ウチの仕事を手伝ってくれたりしながら滞在している。オレが特に関わったわけじゃないんだけどね。雪村さん以降、絵師の交流が尾張でも盛んだから。


 特に故郷に戻る必要のない人なんかは尾張で年越しをするらしく、今日も一緒に餅つきをすることになっている。


 ああ、藤吉郎君の母親である、なかさんとか、弟の小竹君とかもいるね。家臣の女衆とか子供たちと一緒に手伝ってくれている。


 みんな楽しそうだね。オレも見ていないで手伝おう。子供たちもやる気だしね。




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書籍版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

第十巻まで発売中です。

― 新着の感想 ―
[一言] この勢いで子供生まれたら〇〇の誕生日会とか一人一人やるのがだんだん厳しくなっていきそう。
[一言] さすまが
[一言] ああ、その内作州の浪人さんが尾張に来そうだね! 京では吉岡も大人しくなってるし、尾張の武芸大会は 機内で有名だし、武蔵が来たら久遠に逗留してジュリアや 卜伝名人の教えを受け、尾張の気風で温泉…
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