第千六百三十六話・清洲の歴史
Side:久遠一馬
熱田祭りの準備が進んでいる。上皇陛下ご臨席の花火大会も予定しているし、やはり花火大会が一年で一番盛り上がるんだ。
ただ、今年から花火大会を熱田と津島の両方でやろうということになっている。予算は有限なんだけど、花火大会の影響が相変わらず凄まじい。経済・外交・軍事の、どれに対しても多大な影響を与えていることもあるし、これには花火大会を広めたいという信長さんの意向もある。
今後は、美濃、三河、伊勢と花火大会を開催するのを尾張以外にも増やすことを視野に入れたものだ。
まあ、正直、一回だと人が集まり過ぎて大変だという事情もある。さらに去年は上皇陛下にご覧いただくために二回花火大会をした結果、経済効果や人の集まり具合などデータが取れたことでそれも考慮して検討した結果だ。
それと熱田祭りのあとには本領の島に戻ることも決まった。晴具さんと道三さんが楽しみにしているんだよね。移動をクリッパー船ですれば負担も少なくていいし。
「いや、凄いね」
清洲城からの帰り、ちょっと鉄道馬車のレール敷設現場に足を延ばしてみたけど、かなり進んでいた。大変なのは地盤の安定化なんだよね。
整地ローラーで何度も往復して地盤を可能な限り安定させて、砕石を敷き詰めてレールを敷設する。砕石を敷き詰めることで互いの砕石の角が噛みあい、衝撃を吸収する役目になるんだ。
清洲もオレたちが来た頃の数倍に町が広がっているし、工事を始めて三か月ほどなので、まだ一部の区間しか工事をしていないけどね。
「そろそろ軌条の敷設も出来そうですね」
エルも実際に見て工事の早さと出来栄えに驚いている。ちなみに軌条とはレールのことだ。元の世界の和名をそのまま使っている。
「ここの現場は、工業村や牧場村を造った頃から賦役に出ておる者ばかりでございます。皆で、一日も早い仕事をと励んでおりますれば」
ああ、そうかぁ。ウチが始めた賦役で何年も働いている人がもういるんだよなぁ。よく見ると微かに見覚えのある人もいる。最近は忙しくなって賦役の現場に来られないことも増えたけど、最初はオレも参加していたんだよね。
工事の進捗が早いことも無理にやらせているというより、自発的に頑張っているようだ。古参組が多いので士気が高いらしい。
「あの頃から考えると変わったよね」
賦役をしている皆さんもどこか誇らしげにしている。オレたちが変えたんだという自負はあるだろう。
実は上皇陛下が御還御される前に、鉄道馬車の完成をお見せしたいという意見があるんだよね。この様子だとレールの敷設を出来そうだし間に合いそうだ。
車体のほうはすでに完成してある。馬車とか大八車とかいろいろ作った経験があるからね。
頼もしい皆さんだ。上皇陛下に御乗車いただけるかもしれないと知ったら驚くだろうなぁ。
よし、計画を変更して早急に検討してみよう。
Side:南部晴政
「これで最後か」
「はっ」
九戸が織田に降ることを決め、一族の主立った者はすべて降ることとなった。やはり先の大敗がすべてであったな。
家臣らも安堵しておる。これでわしの役目は終わりだ。
出羽の浅利と戸沢はまだ残るが、あちらはこちらと違い決断出来ぬ様子。さらに巻き込んだわしを恨んでおるのであろうな。こちらの仲介を聞かぬ以上、いかんともしようがない。
わしは三戸城の明け渡しのために片付けをせねばならぬ。腹を切るかという思いもなくはないが、勝手に腹を切っても認められぬと言われた。
「ああ、これは父上の……」
城には父上から受け継いだものや武具に家宝など、いざ片付けを始めるとあれこれ貴重なものがあり時が掛かる。つい昔を思い出してしまうわ。
「当面はこのままとは?」
「尾張は遠い。お方様がたは尾張に行く際に船で行かれるのだ。南部殿らもその時に尾張にいくことになる。遅くても年の瀬には行くことになる故、それまで三戸城を預ける」
八戸に使いを出して下命を待つが、到着した使者殿の言葉に戸惑うてしまう。
「あまり悲観されるな。いかなる沙汰があるか、わしには分からぬ。とはいえだ。尾張ではかつて大殿と戦をした斎藤や今川も許されて仕えておる。南部殿もけじめは付けねばならぬが、なにかしらの役目を与えられよう。所領は持てぬが、それは御家の者は皆同じ。例外は久遠殿だけだ。日ノ本の外にある所領がそうだ」
わしとしたことが、使者殿に読まれるとは。にしても、敗軍の将の扱いなどいずこも変わらぬと思うのだが。織田は寛容ということか?
「ひとまずは主立った者を集め、織田の分国法や政を教えることになる。尾張に行く前に学ぶべきことは多くあるのだ。南部殿もそれを学ばれよ」
まあ、いずれにせよ城の片づけはしておくべきであろうな。
あとは新しき分国法と政か。はてさて、わしに分かることならばよいが。
Side:季代子
ようやく南部が片付いた。寺社や細々としたところはまだ意地を張っているところもあるようだけど、そちらはこれから徐々に片付ける。
あとは尾張に送り、処分と正式に臣従をさせるだけなんだけど……。急がないことにした。
「お方様、やはり従っておらぬ村も多くございまする」
「そう、今はいいわ」
上が降っても下が素直に従うほど従順じゃない。津軽を含めて、それなりのところで勝手をしている村や土豪がある。斯波家の権威も仏の弾正忠の名も末端の領民にはあまり通じないのよねぇ。
まあ、この時代だとそれが普通。税を納める以上の口出しに一々従わないのは当然だけどね。
人の数を暫定で調べようとしても、戦で村から出す人数に関わるからと若い者を隠そうとするし、稗を増やすように早々に命じたところも従っていないところがある。
まだ津軽は冬場に塩と食料を配布したので話を聞いて従うところが多いけど、他だと信じるより疑われるほうが多い。
この地で早急に領民を従えるためには、現地に根付いた南部の力がいる。尾張から遠く離れたこの地では、信頼関係がないので村を従えることからして苦労をしている。
右馬助殿が思った以上に使える人材なのよね。あれだけの大敗をしたにもかかわらず、主立った一族を臣従でまとめたほど。もうしばらくこの地で働いてもらいましょう。
その分の功はあとで考慮する。頑張ってほしいわ。
時を掛ければかけるほど飢える者が出る。時間こそがこの地域の最大の敵なのよ。














