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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
永禄二年(1556年)

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第千五百六十九話・それぞれの年始

Side:北畠具教


 父上が霧山に戻られて安堵したわ。


 年始くらいは戻っていただかねば困るというもの。あと今年は遥々奥羽から来ておる浪岡北畠家の使者殿もおる。


 噂に聞く清洲の年始の宴ほどではないが、当家も恥じぬ馳走は用意出来た。


「なんとまあ。久遠と争うとは蝦夷や奥羽の者らも運がない」


「穏やかな男じゃが、戦となれば鬼どころではないからの」


 使者殿は表情を硬くしておるが、皆で奥羽のことは向こうでなにがあったのかと聞いておると、家臣らは哀れむような顔をしておる。


 内心で面白うない者もおるのであろうが、敵に回す愚は皆が承知のことよ。まして久遠は争いをあまり好まぬのだからな。


「あれこれと配慮を受けており、こちらとしても争う気もございませぬ。されど、政があまりに違い過ぎてよう分かりませぬ」


「左様であろうな。当家は御所様が内匠頭殿らと友誼を深めておるからの」


 きっかけは師であったな。師である塚原殿から聞いた尾張の話に直に見とうなったことが始まりよ。


 多くを学び、今でも学んでおるが、一馬と奥方らは日ノ本とは違う世を生きておるのだということがなにより大きい。


 近頃はわしも忙しく行けぬようになったが、今は父上が友誼を深めておられる。かつては何故信じられるのだと訝しげにされておられたはずの父上が、一馬らを気に入り本気で動かれておるほどよ。


「上手くやれば同盟となれよう。されど苦労をするぞ。久遠の者は寺社も敵わぬ知恵があり、武士も敵わぬ戦が出来る。その上、商人が大人しゅうなるほど商いもまた上手い。隙がないというのがしっくりくる」


 家臣らが使者殿と話すのを聞いておると、わしが思う以上に理解しておることに驚く。


 そこまで分かっておるのならば、もう少し働いてほしいのだがな。


 織田はこちらを敵に回さぬように配慮しておることで、己らの立場は守られると驕っておるのではあるまいか?


「降ることも考えておくべきじゃの。仮に浪岡殿が降っても、こちらは致し方ないと理解する。配慮を受け続けるばかりでは、かえって面目を失うてしまうわ。ならば織田に降り新たな政の下で名を挙げるしかあるまい」


 父上も同じことを思ったのか、ふと洩らした言葉に使者殿の顔色が悪うなる。一族とはいえ家督に関わるわけでもない。厳密には他家となる。こちらから降れと言うわけにはいかぬが、安易に争うくらいなら降ってもよいと先に言うておかねば、向こうも動けなくなるからな。


 父上自ら一馬に、織田に臣従させることを頼んだほどよ。一馬は同盟でいいと配慮するつもりであったようだが、話を聞く限りだとそれでは先々で困ることになる。名はあっても力なき同盟者ほど厄介なものはないということだ。


 こちらとしても遥か東の果ての一族とはいえ、捨て置けぬ。己の力で新たな治世を生きられぬというならば、上手く降ってほしいものだ。




Side:六角義賢


 今年も上様と年始を迎えることとなった。ご生母であらせられる慶寿院様は未だに腰を据えておらぬ上様に苦言を呈されることもあるが、それでも御止めまではしておられぬ。


 近江以東が落ち着いておることが、上様の治世に大切なことと慶寿院様もご承知のこと故であろうが。


「さあ、皆も飲め」


 今年は畿内ばかりか諸国から、上様に年始の挨拶をする使者が数多く参っておる。最早、上様は畿内に重きを置いておらぬが、それ故に上手くいくとはな。政とは分からぬものだ。


 諸国の使者も驚いておろう。金色酒を筆頭に、未だに値が天井知らずの酒や品が豊富にあるのだ。料理も尾張に習った故、一味違う。


 もっともおかげで京の都ではなく尾張の宴を思わせる年始となったがな。さような些細なことを気にする者は家中にはおるまい。


 上様は上機嫌だ。昨年の末に院の蔵人の一件があったものの、あとは大きな憂いはない。


 細川京兆は晴元を隠居させて新たな当主を立てたいと画策する者が増えておるようじゃが、いかんせん上様が相手にしておらぬことで動きたくても動けぬ有様。


 また三好も丹波守護に任じられた細川氏綱の家臣として振る舞っておるが、上様が修理大夫殿を相伴衆に任じておられることもあり、直に命を下してしまわれるので細川京兆の権威も落ち始めておると言えよう。


 畿内はいずれ尾張の後塵を拝することになる。最早、それは止めようもあるまいな。公家衆などからはそろそろ都で政務をしてはという声もあるが、上様にその気はないのだ。


 尾張の斯波と織田の力を得て、上様は朝廷にですら強く出られるようになった。昨年の譲位の際には警固固関の儀に苦言を呈されたが、それを公卿と公家衆は軽んじた結果、尾張を怒らせた。


 さらに尾張から朝廷へ献上しておった品と銭を今後上様が差配することになり、今まで軽んじておった者らが媚びるように動きだしたことには、我が家臣らですら呆れておるくらいよ。


 あとはこちらが一日も早く日ノ本を統べるべく国を整えねばならぬ。


 まあ、それが大変なのだがな。




Side:山科言継


 晴れやかなお顔の院に心底安堵する。


 変えてはならぬことも多々ある。長きに渡り日ノ本の帝として続く故に変えられぬこともまた多い。


 されどな。世の移ろいと共に人も変われば臣下も変わる。すべてにおいて慣例を厳守せよなどと言うたところで良いことなどないのだ。


「これはまた初めての味であるな」


 見知った料理もあれば、見知らぬ料理もある。院は一品ずつ味わうように食しておられる。


 温かい汁でさえも内裏では食せなんだ。毒見は必要なれど、温めてお出しするという配慮も出来なんだことはすでに変えておる。


 此度も鬼役による毒見は広間に運ぶ前に済ませた。目の前で毒見じゃと待たせては気分がいいはずもあるまい。


「魚はやはり海が近き地は美味しゅうございますなぁ」


「いやいや、尾張では料理もまた学問であり知恵を絞っておる。故にこうも美味いものがあるのであろう」


 鯛の蒸し物の他にも、鯨やあじを使うた料理がある。鯵は酢の物じゃの。これもまた酢の味が違うというのだから驚きしかないわ。いかにしたのか分からぬが、酢がまったく違う。


 今川の世話になっておる公家衆は、かような料理の品々に尾張の知恵じゃと理解しておる。悲しきことに都の公家衆のほうが理解しておらなんだのかもしれぬ。


 ああ、鴨肉を焼いたものにはみかんか? それをタレとしておる。これがなんとも美味い。甘き果実を料理に使うなど信じられぬが、見事に鴨の味と合っておる。明か南蛮の料理であろうか? 久遠の料理であろうか?


「ああ、これは前に食したな。良き味である」


 院が空になった飯椀の品をもう少し欲しいと所望なされた。綺麗な黄金のような色をした飯と共に魚介を炊いたものとか。院も覚えておられたようじゃが、久遠の祝い飯か。


 これは魚介の味が飯によう染みておって美味い。作り方が違うのであろう。吾らの知る飯と違う。


 酒ともよう合うの。おっと、吾は食うてばかりもおられぬのであった。武士らの様子も見ねばならぬ。


 院にお声を掛ける武士がおらぬことは少し寂しく思うが、正しくはそれを許されておる身分は武衛くらいとなる。致し方ないことか。蔵人めらが余計なことをせねばもう少し違っておったのであろうがの。


 とはいえ、今はこれでよい。無礼や慣例などと騒がず、共に祝いの席を楽しむ。それだけで良いのじゃ。院が臣下と交わるのはこれからゆるりとしてゆけばよい。


 皆も酒が進み、あちらこちらで笑い声が聞こえだすと、院もまたお喜びになられておるご様子。かような様子をご覧になられたかったのであろう。


 世が変わりつつある昨今、限られた公卿としか会えぬお立場に疑念を持たれたのやもしれぬな。


 ひとまず大役を果たせて安堵したわ。






書籍版・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

第六巻。六月十三日発売です。

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書籍版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

第十巻まで発売中です。

― 新着の感想 ―
[気になる点] この世界線が、どんな結末になるのか、全然予想つかない。
[一言] 院も久遠本島に興味はあるんじゃないかなぁ~って、思ってしまう 行くのは、無理だろうけど
[良い点] 久遠の者は寺社も敵わぬ知恵があり、武士も敵わぬ戦が出来る。その上、商人が大人しゅうなるほど商いもまた上手い。隙がないというのがしっくりくる 的確な表現です [一言] その上、帝や院は…
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