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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
永禄元年(1555年)

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第千五百八話・村上義清

Side:村上義清


 砥石城からの知らせに我が耳を疑った。


「愚か者どもは大戦にしたいのか? 院が尾張におられるというのに」


 小競り合いは歳時さいじつね通りと言えるが、新たに信濃に入った織田が国人如きに舐められるわけにはいくまい。当然、出てくることもあろう。謝罪を求める使者が来たのならば形ばかりでも頭を下げておればいいものを。


「殿、いかがなさいまするか?」


「出ぬわけにいくまい」


 一戦も交えず小笠原が降り、武田も降った。守っておった者、攻めておった者、諸皆もろみなこうべれた。北信濃以外が織田に靡いたのも仕方なかろうな。弱き者に選べる道などないのだ。


 砥石城は堅固な城なれど、あの辺りは海野一族由縁の者が多く、武田に従っておった者も多い面倒な地だ。それは織田とて同じ思いのはず。


 織田も臣従を願う者は許しておるようだが、自ら寝返りをさせるべく動いてもおらぬ。織田は織田なりにこちらに配慮をしておったというのに。その配慮を潰すとは。


「愚かなのは味方か。出るぞ!」


「お待ちくださりませ、今は稲刈りをしておるところ。終わってからのほうが……」


「そなた、本気で織田と戦がしたいか?」


 家臣らの様子が芳しくない。言い分は理解する。されど、(はよ)う出ねばこちらの面目も立たず、向こうも退くきっかけがなくば退けなくなる。


「いえ、それは……」


「小笠原家から斯波家に守護が変わった。最早、形ばかりの守護ではないのだ」


 卑怯者の武田や、信濃すらまとめられぬ小笠原と同じと思うのは愚か者のすることよ。ともかく出ねばならぬ。いかになっておるかこの目で見ねばな。




 急ぎ兵を集め二日後には出陣して南に向かう途上、思いもせぬ知らせが届いた。


「まさか、砥石城が一日も保たず落ちるとは……」


「無惨にも、金色砲と思わしきものを雨あられと使われ、無念にございます」


 砥石城、落城か。家臣らの顔つきがさらに悪うなった。天を裂き、城門も塀も木っ端微塵にするという金色砲。噓偽りではないということか?


 さらに驚くのは、降伏した者らを解き放ったということだ。これはいかが見るべきだ?


 ともあれ、行かねばなるまい。


「敵将は何者ぞ」


「はっ、久遠内匠頭の妻である夜の方とか。領内では斯波武衛様の名で命を出しておるとのこと。なんでも三河一向宗を殲滅したのはその女とか」


 女とはな。関東では今巴という女が安房の里見を蹴散らしたとか。女も武者働きをする家柄なのか? 久遠とは。


「丸に二つ引きの家紋の旗印はあったか?」


「はっ、ございました」


 斯波武衛家の名で戦をする女か。面目を潰せば、村上家もいかがなるか分からぬな。




Side:諏訪満隣


 砥石城落城の翌日、村上の軍勢が姿を現した。味方はおおよそ七千。村上方は半分もおらぬように見える。


 こちらの本隊の陣には馬防柵や矢盾などで堅固な陣を構築しており、前に出るような陣容ではない。村上はいかがするのだ?


 蜂起せずに良かったわ。意地を見せる? 織田の戦を前に諏訪が蜂起したところで意地どころか顔も見せずに終わってしまうわ。


「来たわね。木曽衆に伝令、『後方に回って、命あるまで手を出すな』」


 最早、この女に異議を唱える者はおるまい。砥石城を一日と掛からず落とし、近隣もほぼ制してしまった。半数ほどは尾張から連れてきておる兵だと聞くが、あとは小笠原と木曽の兵ではないか。


 それをおのが兵として使いこなすとは恐ろしいとしか言いようがない。さらにこれだけ戦のやり方が違うというのに、木曽衆を村上方の背後に置くべく差配しておるのだ。念には念を押すということか。


「さて、誰か。村上方に使者をお願い。会談を求むと」


 織田はいかなる野戦をするのかと皆が恐る恐る見ておると、驚くべきことを口にした。この女は村上方の将と会う気か!?


 村上方は鉄砲を懸念してか少し離れたところで止まっておる。


「村上左近衛少将様、こちらに参るとのことでございます!」


「へぇ。そう乗り込んで来るのね。なかなかやるわね」


 面白そうに笑みを浮かべた女、『夜の方殿』の言葉に本陣の者らが騒めいた。


「こちらの手の内を直に見ることを狙ったのかしらね?」


「それもありましょうな。さらに我らがこの場で村上殿を害するなどあり得ぬと承知のことかと。それを考慮しても良い度胸をしておると思いまするな」


 明けの方殿が村上の真意を推考して語ると佐々殿も同意した。織田の者の中でもこの三人は別格だな。




Side:ウルザ


 面白い。もっと武辺者かと思った。事前情報でも村上は武田に勝ち、討ち払ったことに驕っているとあったことでもある。


 ところがこちらの会談要請に応じたばかりか、自ら出向くとは予想外ね。


「村上左近衛少将である」


「久遠内匠頭の妻、ウルザよ。信濃の代官をしているわ。ごめんなさいね。女が相手で」


 堂々とした様子で数人の供の者と本陣に入る村上義清に皆が息を呑んだ。そのまま彼は用意してあった床几に座った。


 いい度胸だと思うわ。戦で人と世の中を見るタイプかしら? ジュリアや春なら真っ向勝負をたのしみたいタイプかもしれないわね。


「構わぬ。砥石攻めは聞いた。見事な差配よ。敵の力も見抜けぬ城方が愚かだったことを除いてもな。戦場では男も女もない。勝つか負けるか、それだけだ」


「織田と村上、いずれを選んでもいいと黙認してくれた村上殿の配慮を理解しない者がこの地には多かったわ。こちらとしては新しい政をしているの。領地に手を出された以上は捨て置けないのよ」


 なんだ。話の通じる相手じゃないの。武辺者には武辺者の道理があるか。まあ、武辺者と頑固者を一緒にしたら駄目よね。


「こちらとしては斯波家と縁戚の村上殿がこちらを害したとは思っていないわ。それでいいかしら? 砥石城はこちらの所領を荒らした謝罪を拒んだので落としたけど、一連の責めを村上殿が負うなら返してもいいわ」


「織田方も楽ではないと理解しておる。配慮をしておることも承知だ。わしはかような戦など望んでおらぬ。始末は勝手なことをしておいて城も守れぬ愚か者にさせればよい。城も要らぬ、そこまで面倒を見きれぬ」


 この地を放棄したか。維持出来ないと理解している。それと斯波家や織田との因縁も困るということか。せっかく武田がいなくなったんですものね。こちらも引き際ね。


「では誓紙を交わして終わりましょうか。互いに遺恨なしということでいいかしら?」


「こちらに異存はない」


 まあ、命じたわけでもない小競り合いから全面戦争なんて困るわよね。守護様がせっかく所領安堵したのに。


 ただ、このままでは彼の面目がちょっと立たないわね。


「良ければもう少し話をしたいのだけど、いかがかしら? こちらも戦など望んでいないわ。助け合えることもあるはずだと思うのだけど」


「こちらとしては望むまでもないことだ」


 ふむ、この人なら大丈夫ね。


「小笠原殿、兵たちを下げて。戦は終わりよ」


「はっ、ただちに」


 少しもてなして話をしておいたほうがいいわね。格差で困るのは村上なんだし。力の差を理解してか随分と妥協してくれた。お土産がいるわ。


 別に私たちは村上を倒したいわけじゃないもの。





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書籍版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

第十巻まで発売中です。

― 新着の感想 ―
[一言] 顔も見せずに終わるは草
[一言] 最後の三行が全て。
[良い点] 何だかんだで知名度高いから村上義清もそりゃ能力的に一定の力はあるわな。 他の人が書いているように生きるために強さを基準にしてるような描写が見れて納得w [一言] ゲームみたいに敵を潰すだけ…
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