表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
天文23年(1554年)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1323/2177

第千三百二十二話・外交という名の戦

Side:真田幸隆


 若殿が参られるとはな。西保三郎様とは久方ぶりの対面なれど、さほど話すことがあるほど親しくもないらしい。対面と時候の挨拶をしたのちに会話が途切れた。


「ずいぶんと良い暮らしをしておるようじゃの。甲斐では御屋形様が御自ら質素倹約に励んでおるというのに」


 我らを蔑み謗るような顔で、屋敷や我らの様子にひとりの老臣がそう口にした。


 御屋形様も何故、かような年寄りを寄越したのか。先代様を追放した者らの生き残りだという。いわば御屋形様が東国一の卑怯者と謗られる因果(いんが)を作った者らだ。


 世の習いたる慣例も軽んじて、誓紙を破り、甲斐が無法者の国だとあざ笑われておるのは、当主になったばかりの御屋形様にかような進言をしたこ奴らの責が大きい。


「止めよ。尾張は質素倹約など不要な国なのだ。武田家の面目を守るためには、相応の暮らしがいる。それは兄上も承知のことなのだ」


 西保三郎様は驚愕(きょうがく)のお顔が垣間かいま見えたが、能面の如き笑みとなられた。斯様かよう世知よしらぬやからを恥じるお心を尾張にて学ばれたのだ、我ら尾張()めの家臣が無言になる中。典厩様が止めに入られた。


 お可哀想に。遥か甲斐から離れ、他国で人質の如き暮らしをしておる西保三郎様を労うこともなく、軽んじて非難するとは。


「それとこれとは話が別でござろう。特に新参の信濃先方衆なれば誰よりも質素倹約に励むべき。さもなくば家中に示しがつきませぬ」


 ああ、こ奴が非難したいのはわしか。信濃からの文の通り、甲斐本国と信濃は上手くいっておらぬらしい。


 今や都の公家衆まで日ノ本一の卑怯者であろうと噂しておるとか。信濃においても武田を忌み嫌う者が増えておるからな。


 典厩様もその言葉には黙ってしまわれた。信濃先方衆を庇うだけのお力もないと見える。我らがいかほど苦労をしておるか知りもせぬ愚か者が。


 まあよい。武田がかような様子ならばわしにも考えがある。恩義以上の忠義は不要ということであろう。


 わしもこの尾張にて多くを学んだ。幸いなことに学校にて世の広さを知り、尾張がいかに富める国となったのか知ることが出来た。


 露見せねばよいことだと恥さらしな同盟破りや蛮族の如き戦をする甲斐の愚か者と共に末代までの恥を晒す気はない。


 太郎様とて、異を唱えることもなく我らを良う思うておらぬことは明らかだ。


 しかし、戦にも勝てず、信義もない。甲斐源氏の名が泣いておるわ。




Side:久遠一馬


 今川・武田・朝倉・小笠原と各地からやってきた人たちが親王殿下と義輝さんに拝謁している。


 尾張では義統さんと信秀さんが客人の皆さんと会っている。当然歓迎の宴をするわけで、一堂に会するものの、武田義信さんと今川氏真さんの印象は対照的だ。


 寡黙で静かな義信さんと、笑顔を見せ会話がある氏真さんの違いは、両家の今後が見えるような気もする。


 武田義信さん、史実でも資料では武勇に優れていた人と思われる。こちらの調査でも武勇の評判はいいようだ。


 今川氏真さん、彼は元の世界では時代と共に評価が一変している人物だ。史実では今川義元亡き後、苦労を重ねたものの臣従していた松平元康と同盟していた武田晴信の裏切りにより攻められて領地を失った。


 そのため評価が低かった時代もあるが、斜陽の今川を数年に亘り立て直そうとした実力は決して暗君ではない。戦自体はそこまで得意とは言えないものの、一度領地をすべて失った立場から生き残って今川の家を残した彼の力量は侮れるものではない。


 調査の結果と会ってみた印象だと、社交性は抜群かもしれない。敵地と言える尾張に来て笑顔で会話をする。これがなかなか難しい。オレも北条家とか行ったから分かる。


「内匠助殿、おひとついかがでございますか?」


 噂をすればなんとやら。先ほどから宴の席で公家衆にお酌をして挨拶をしていた氏真さんが、義統さんや信秀さんに続いてオレのところにもやってきた。


「ありがとうございます」


 たいしたものだね。笑顔でお酌してくれたのでこちらも氏真さんに返杯する。


「雪斎和尚に聞いたのでございますが、内匠助殿は日ノ本にはない茶を嗜むとか。よろしければ、某にもお教え願えませぬか?」


 凄いね。駿河在住の公家に鍛えられたんだろうか? ただお酒を注ぐだけじゃなくて一歩踏み込んできた。


「お教えするほどのことはありませんが、のちほど当家の茶にお招き出来るよう、尽力致しますよ」


「それはありがたい。よろしくお願い致します」


 長いこと駿河で公家を保護していた成果があったんだろうな。史実において力がものをいう時代に今川氏真は翻弄されたように思える。だけどこの世界では、すでに力があればいいという時代から変わりつつある。


 こうして顔を合わせる場での行動がより影響を与えるんだ。社交性、コミュニケーション能力が史実よりも数段必要になる。


 もちろん今川の家名を貶めることはしていない。彼はまだ嫡男でしかない。自らあいさつ回りをしてもおかしくなんてない。さらにオレに茶の湯の指南を頼むとか、本当に凄いとしか思えない。


 茶の湯ならば、身分が低いウチに教わっても問題ないだろう。


 そういえば宗滴さんも社交性とコミュニケーション能力は良かった。大内家然り今川家然り朝倉家然り、公家を保護するメリットが今後は大きくなるかもしれない。


 反面で割を食っているのは武田家か。特に問題はない。大人しく作法もきちんとしている。ただしそれだけだ。


 『日ノ本一の卑怯者』という異名が日に日に重くなりつつある。信繁さん個人は凄いと思う。周りに合わせて礼節があると見せつけているからね。ただ、それだけだと汚名をそそぐことは難しい。


 社交性は個人の資質もあり一概に言えないけど、公家衆なんかと常に接している今川とそうでない武田ではこの宴だけを見ると評価は明らかに違う。


 武田晴信。史実では確かに戦に強く、この時代から見ても常識のない甲斐国人をまとめてひとつにした実力は確かだろう。


 ただし、対外的に見ると彼自身の信義はかならずしもあったとは言えない。それと史実の資料で彼を見る時に注意が必要なのは、徳川家康に勝ったという名声と後に徳川に仕えた人たちがそれなりにいることだ。


 史実において武田滅亡の原因は晴信にもあるとオレは思う。甲斐の国の厳しい現状だと仕方なかったんだろうとも思うけど。


 まあ、ひとつ言えることは、尾張を中心とした新しい秩序で生きていくのは氏真さんのほうが向いているということだ。


 甲斐源氏という名門で戦には強いが、今のところ社交性も信義も常識もない。使いどころが難しくなりそうだなと思う。仮に彼らが臣従を望んでも。


 


典厩=武田信繁

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

f32jl8qbc3agfyxy6wkqi1e64pdq_usm_gp_oi_b3h407nu97vpxj6mn46wo16nzbyfl_a86_gp_on_d1i3l8a7jekdaacv9fwp2m0w2eaxh_l5t_140_1mj58tiewczhgh6e0rrl48o4mhrhy3h_wmh_16e_1pqf32jl8qbc3agfyxy6wkqi1e64pdq_usm_gp_oi_bf32jl8qbc3agfyxy6wkqi1e64pdq_usm_gp_oi_bf32jl8qbc3agfyxy6wkqi1e64pdq_usm_gp_oi_bf32jl8qbc3agfyxy6wkqi1e64pdq_usm_gp_oi_bf32jl8qbc3agfyxy6wkqi1e64pdq_usm_gp_oi_bf32jl8qbc3agfyxy6wkqi1e64pdq_usm_gp_oi_b

書籍版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

第十巻まで発売中です。

― 新着の感想 ―
[一言] 〉寡黙で静かな義信さんと、笑顔を見せ会話がある氏真さんの違い 信長さんも以前は前者に近かったわけで、二人を見ながら内心自らを省みて悶絶してそう。
[良い点] 氏真公が輝く作品て初めて見た気がする… いや、名脇役として光放ったのはいくらか見た気するが。 本作の環境では父親以上に家の舵取り出来そう。 そんな氏真くんの名門意識はどうなってるのか気に…
[気になる点] 三国同盟が無いってことは、早川殿は今何処… [一言] 義元亡き後の氏真の行動に確実に影響を与えた愛妻 てか三国同盟の 婚姻で唯一夫婦揃って関ヶ原以降まで長生きしてたんですよね… そして…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ