第千二百九十七話・迅速な対応
Side:無量寿院の僧
観音寺城に到着して休む間もなく裁きの場が設けられた。そこに公方様の姿はない。病が良くないのか、それとも……。
「上様はいずこにおられる! 我らは勅願寺を預かる僧ぞ!」
「己らが勝手なことをほざいて帝を欺いたこと、訴えてやるわ!」
大半は諦めたのであろう。大人しいが、僅かな者がまだ騒いでおるわ。道中ろくな飯も食わせてもらっておらぬのに、未だに気力が衰えぬらしい。
「裁きを申し渡す。以下の者、すべて日ノ本より追放とする。二度と戻ることはまかりならん。戻れぬところに放逐してくれるわ。死罪にすると極楽浄土に行ってしまうからな」
公方様の近習と六角の者らに蔑んだ目で見られながら受けた裁きに、皆の顔に驚きや動揺が走る。
死罪ではないことへの驚き、日ノ本より追放という聞き慣れぬこと、それらをあらかじめ察しておった者はおるまい。
「お待ちくだされ! 何卒、何卒、我らに弁明の機会を!」
「帝と上様に逆らわねば、それも許してやれたのだがな。己らには幾つかの罪状がある。畏れ多くも勅願寺において一揆を起こさせ勅願寺の権威を傷つけた罪、千種家の謀叛を企てた罪、織田と北畠の領地を末寺の者らが己らの命で荒らした罪など様々あるのだ。故に、大人しく詮議に従うように命じたのだ。それを無下にしたのは誰ぞ?」
動揺からか大人しく従っておった者も声を上げ始めるが、六角左京大夫様を筆頭に場の者は誰ひとり驚いておらず冷めた様子で我らを見ておる。
「庇い立てする者ももうおらん」
ああ、飛鳥井卿を怒らせたことがここで我らにとって不利となったのか。思えばあれは失策であったな。あの時までは織田でさえ話が出来ておった。かつて末寺におった者らも仲介すると申しておった者がいると聞き及ぶ。
「御寺はいかがなりましょう?」
「勅願寺は勅願寺であろう。然るべき者が盛り立てていくことになろうな」
最後に我らが御寺を潰すことがなかったことが唯一の救いだ。本證寺の愚か者どもと一緒にされるのだけは逃れたのだからな。
乱心して騒ぐ者は罪人として押さえつけられ連れ出された。
そして我らも、無量寿院を汚した罪人として生きねばならぬか。
報いということであろうな。
Side:六角義賢
ようやく終わったな。公方様の命に逆らった者を許すわけにはいかぬ。
「此度も早う終わりましたな」
蒲生下野守があまりに早い解決にホッとしつつ、僅かに複雑そうな心情を見せた。
裁きまで早う終えたことは良かったと言えよう。長々と争うておれば、いずこかの者が口を挟む懸念もないわけではなかった。
近頃では若狭から動かぬことで若狭管領と揶揄されておる管領とてそうだ。公家や比叡山も関わりがないのが、なにかあればいかに動くか分からぬところはある。
これにて伊勢は安泰であろう。奴らを追放することで千種も相応に納得するはず。
帝の譲位と院となられての御幸に不備があってはならぬ。真宗の総本山かもしれぬが、無量寿院に邪魔などされては困るというもの。
「北近江三郡はいかがなっておる?」
「あまり変わりませぬな。されど一時よりはいいかと」
奴らのせいで我らがいかほど苦労を重ねておるのか。属領として扱っておればいかに楽であったかと考えずにはおられぬ。長年争い、対立しておった地を直に治めるのがこれほど大変だとは。
わしも伊勢ばかり見ておられぬ。甲賀衆を俸禄とせねばならぬからな。武士ばかりではない。坊主も民も皆同じ。勝手ばかりする者らをひとつに束ねていく。父上も成し得なかったことだ。
秋には親王の行啓もある。その支度も急がねばならん。織田との力の差は歴然なれど、近江源氏である六角家で粗相や不備があったとなれば、末代までの恥となる。
しかし、領内を整え、新たな政を試し形にしていく。さらに当然の如く公方様の役目を支えることもせねばならんとは。織田は何故、あれほど上手くやれるのであろうな?
次に会うた時に聞いてみねばならん。やるべきことが多すぎて手が回らぬわ。重臣らも忙しいようであれこれと話す機会が増えた。
各々の城にて領地を治めるなど出来ぬ者が出始めておるほどよ。
Side:久遠一馬
三木直頼さんが倒れた。史実より少しずれているが、歴史が変わった影響だろうね。パメラの診察では長くはないらしい。長くて一年、半年持てばいいほどだとか。
息子さんと京極さんには伝えた。京極家の家督継承を少し急ぐそうだ。
「おめでとうございます!」
そしてリンメイが子を産んだ。元気な男の子だった。家中も慣れてきたものの、みんな喜んでくれている。
オレはお祝に駆けつけてくれる人たちの応対とか、いい意味で忙しい。恒例となりつつある領民への振る舞いもしている。
これもね。この時代でもあまりやることじゃない。そもそも不特定多数の領民に振る舞える人は限られているし、身分があると領民なんて同じ人間と考えていないような価値観も珍しくないし。
まあ、ウチの振る舞いは経済政策に近いものがあるけど。お金を回すという意味では織田家より大変かもしれない。ウチだけにお金が溜まるのは良くないし。
「あ~う~」
応対に一段落したので赤ちゃんを見に行くと、輝が力強いハイハイで赤ちゃんに近寄っていた。輝はハイハイ出来るようになってから活発に動くようになったんだよね。母親のジュリアに似たんだろうか?
「おぎゃあ、おぎゃあ!」
輝がなにかをしたわけじゃない。ただ偶然に赤ちゃんが泣き出すと輝はびっくりした様子で止まった。なんでと驚いているようにも見える。
「どうしたのネ?」
リンメイが赤ちゃんを抱き上げてやると、輝が見上げていたのでオレが抱いてやる。それに気付いた輝が嬉しそうにキャッキャッと騒ぐのが、オレとしても嬉しい。
ふたりを互いに見せてやると、輝は嬉しそうに赤ちゃんを見ている。仲良くしてほしいな。新しい弟なんだから。
他には大武丸と希美もロボたちもみんな赤ちゃんを喜んでくれている。また家族が増えたな。頑張らないと。














