第千二百四十四話・長慶との会談
Side:三好長慶
都に斯波家の嫡男らが参るというので出向いた。形としては別件で都に参ったので会うという形にしたが。
細川家の家中には、わしが斯波の嫡男と会うというだけで良からぬことを考えておるのだと騒ぎ立てる者がいてもおかしゅうない。
それにしても若武衛殿は若いな。倅より少し年上くらいではないか。
ただ、当人よりは供の者が捨て置けぬな。久遠の当主と織田の嫡男、飛騨の姉小路と京極とは、いつの間にこれほどの者らを従えたのやら。その上、北畠の権中納言殿まで同行しておられるなど驚くしかあるまい。
挨拶を交わし、とりとめのない話をする。誰がいずこまで知っておるか分からぬ以上、上様との密約のことはこちらからは言えぬか。同席しておるのは若武衛殿の他に内匠助殿と尾張介殿のみであり、知っておるような気もするがな。
「丹波はいかがでございますか?」
「織田のようにすんなりとはいっておらぬわ。羨ましい限りよ」
話を変えたのは内匠助殿か。大内の内乱を知っておった久遠が丹波の様子も知らぬはずもあるまいが、斯波も織田も公には細川の内紛に関与しておらぬ立場だ。わしと晴元の争いも、外から見ると細川の内紛でしかないからな。知らぬふりくらいするか。
「御主君が上様から丹波守護に任じられたと聞き及んでおりますが……」
「ここだけの話、細川家では家督を巡る争いがようあること故にな。皆、慣れておるのだ。それに管領殿は健在だ。また上様が病という噂も管領殿を助けておる」
やはり上様の信があるのはこの男か。若武衛殿や尾張介殿を前にしてひとりで話しておるというのに、ふたりとも不満な顔一つせぬとは。家中も上手くいっておるとみえる。
わずか数年で織田をここまで大きくし、斯波を次の管領に、とまで言わしめるには十分な男か。弾正もこの男こそ尾張の要と言うておった。
「いかがすればよいのやら。噂の久遠の知恵とやらを借りたいところよ」
試すわけではないが、上様を見てこの男がいかに答えるか知りたくなった。
「他ならぬ筑前守殿ですので知恵でよければお貸ししたいところですが、知恵のひとつやふたつで細川家の争いの優劣は変わりませんね。管領殿を若狭に封じておくことが現状では最良ではないでしょうか。都を押さえているのがどなたか。また一刻の勢いではないと示せば示すほど困るのは管領殿でしょうから」
もっともな意見だ。奇策では常勝はありえまい。また安易に策など口にするのはいかがなものかと思うからな。
「かず、上様のこともあろう。なにかないのか?」
ここで無言であった尾張介殿が口を開いたことに驚いた。まさかこの場で上様の御名を出すとは。
「筑前守殿もそこまで困っておりませんからね。今のところ六角と斯波と織田が三好と争うことはありません。そうなると筑前守殿が困ることにはなりませんよ。細川の内紛はいろいろと大変なので、すぐにとはいきませんが」
「そのお言葉で十分である。感謝致す」
このふたり、示し合わせておったのか? 上様との密約が正しいものだとわしに明らかとしたわ。上様を疑うわけではないが、すべてがまことのことか確証もなかったのだ。
これだけでもわざわざ来た甲斐があるというものだ。
Side:久遠一馬
都での滞在期間も残りわずかとなった。
わざわざ訪ねてきた長慶さんとも話したし、武芸大会でも活躍した吉岡さんや都の商人とも会った。吉岡さんは今年も参加したいと言っていて、弟子も連れていきたいと言っていた。
都では鰻がすっかり上魚として扱われていて、値段が以前と比較にならないほど値上がりしたと聞いた時には少し複雑な心境だったけど。
需要が高まれば当然値上がりする。それは仕方ない市場原理だ。でもね。上魚だからというだけで値を吊り上げたりして儲けている人たちがいる。いつの時代も変わらないなと思い知らされることだ。
「三好はあれでよいのか?」
「商いで多少助力はしますよ。ただ、斯波家家臣である私たちが細川内の争いに関わるのはよくありませんしね」
長慶さんとの会談後。信長さんが少し気になったのか会談のことを口にした。リップサービスとしてはあんなものだろう。
「それに三好もいずこまで信じてよいか。まだ見極めていませんので」
「敵に回ることもあり得るのか?」
信長さんは驚いていないようだけど、義信君が少し驚いた顔をした。オレらしくないと思っているんだろう。
「あり得ますよ。筑前守殿は上様に従うおつもりのようですが、それでも細川家の家臣ですから。すべてひとりで決めて家中をまとめられるわけではありませんし」
元の世界の歴史に鑑みると、三好が敵になる可能性はあまりないとは思う。ただ、それは考慮しないとまずい。まだ三好がどう動くかは未知数なところもある。北畠は具教さんとよく話してあるし、六角は定頼さんの遺言があるが。
三好には今のところ義輝さんと長慶さんの口約束しかない。さらに彼は独裁権を以ってすべてひとりで決められるわけではない。そもそもこの時代では重臣たちとの合議で決める体制が当然なんだ。
まあ、三好とは今後誼を深めて話をしていくしかない。
「そもそも、まことにこのような地をすべて統一出来るのか? 公家とてこの有様ぞ」
義信君もいい経験をしているね。都や公家と親交を深めて、彼らを含めた日ノ本の統一の大変さを理解したらしい。
「そのつもりですよ。今はこうしてお互い誼を深める。それが大切です。いずれ来る新しい世が敵ではないと知ってもらうために」
出来るはずだ。個人的に公家はあまり心配していない。ぶつかることはあるだろうけど、敵に回る可能性は多くないと思っている。きちんと誼を深めてお互いの考えを理解すれば。
長い歴史を生き残ってきたんだ。生き残るという意味では武士よりも機敏だろう。それに彼らの歴史と伝統は日ノ本の大きな財産だ。残さなければならない。
「そなたがそう言うならば、そうなのであろうな」
「皆でこうして腹を割って話せるようにするのが私の役目かもしれません」
義信君が呆れたような感心したような顔をしている。
難しいのは百も承知だ。ただ、出来るはずだ。今回の上洛もそういう意味では有意義なものだった。
本音をいえば、大きな失態がなくてホッとしているけどね。本当のオレは普通の小市民だから。
カクヨム様にて同作の連載始めました。
『改・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』
基本はなろう版と同じですが、多少の修正をしていく予定で、たまに書き下ろしをするかも。
プロローグは完全書き下ろしです。
どうかよろしくお願いします。














