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カツアゲされそうだから素直にお金あげちゃうことにした。

お久しぶりです。今回もよろしくお願いします。

 こんな機嫌悪そうな人と遊ぶ物好きなんているのかな、と思いながら足を進めていると、隣を歩いていたナタリーさんが足を止めたことに気付いた。


「あれ、ナタリーさんどうしたの?」


 ナタリーさんの代わりに、少し遠くから野太い返事が聞こえて来た。


「どうしたの、じゃねぇよ! 俺たちはお前らに用があるんだよ! ったく……まあ、女の方が止まってくれてありがたいぜ」


 さっき変な呼びかけをしていた連中なのだろう。

 僕は君たちに用事なんてないなぁ。そもそもギルドに登録に行くために急いでいるのだが……。

 早く終わらせたかったのでこちらから話を聞く。


「確か、遊びたがっているんだったっけ? で、遊ぶってのは何をして遊ぶつもりだい?」


 相手はこちらに近付きながらヘラヘラと笑みを浮かべ、


「何って決まってるだろ? 男は俺たちに金を出す。女は俺たちにカラダを出す。そうすりゃ皆ハッピーだ!」


 相手の言っている「男」は僕のことで、「女」はナタリーさんのことだろう。


「おかしいなぁ。ただお金を差し出す僕が全然ハッピーじゃない気がするんだけど」


 ナタリーさんが小声で、


「指摘する場所はそこですか!?」


 と言ってきた。でも、ロジカルに考えれば当然の指摘だろう。

 相手はニヤニヤした笑みを崩さず、


「そうだなぁ……。じゃあ、その金を払ってくれれば俺たちがそこの女と遊んでいる様子を見学させてやってもいいぜ」

「はぁ。……それで、君たちは幾ら払って欲しいんだ?」


 ナタリーさんが小声で、


「何でお金を出すつもりなんですか!?」


 と尋ねて来た。仕方ないので普通の声量で返事をする。


「いや、平和的に解決できるなら平和的な手段を取った方がいいでしょ?」


 相手が手に持っていたナイフの刃をちらつかせながら、


「そうだぞ、そこの男の言う通りだ。物分かりが良くて助かるぜ。さあ、銀貨10枚出しな」


 意外と安いなぁ、と思いながらポケットを探る。

 その手をナタリーさんに掴まれた。


「ちょっと! 私が全然ハッピーになれないってことは考慮出来ないんですか? アウルム君、仮にも冒険者志望でしょう? これぐらい追い払ってくださいよ!」


 その声を聞いた相手集団がクスクスと笑いだす。


「おいおい、冒険者志望のガキが本物の冒険者に勝てると思っているのか?」

「しかも、見た所丸腰みたいじゃねーか。勝ち目あるとか思ってんの?」


 彼らに追従して僕もナタリーさんに尋ねる。


「今の僕が勝てると思ってる? それに、神は言っている。ここで死ぬ運命ではない、と」

「あなたねぇ……」


 ナタリーさんは諦めたように溜め息をついて、上着の中から細い金属の短剣を取り出した。

飾り気のない短剣だが、裏を返せば、相手を倒すための機能だけに全てを捧げているデザインとも言える。


「私はこれでも神官です。あなたたち、見た所そこまでランクは高くなさそうね。身の程を弁えなさい」


 男たちは途端に弱気になったが、何とか踏みとどまった。

 そういえば神官って街の治安維持とかにも関わっているらしくて、かなりの武闘派組織だった。男たちが怯むのも無理はない。スキルを授ける側というだけあって、自分達が持っているスキルもかなり強いと聞く。


「げぇ、神官かよ……。し、しかし、相手はまだ若くて素人だ! 数で勝る俺たちならやれる!」


 うーん、平和路線を願っていたのに、思っていたのとは全然違う状況になってしまったなぁ。


(普通に戦いたくねぇ……)


 花水はなみずさんもこの通りすっかり怯えてあまり出て来ない。

 一触即発の空気が漂う中でポケットの中から銀貨を取り出す。


「ねぇ、まだ最初の話覚えてる? これ、例のお金なんだけど……」

「アウルム君、絶対に渡さないでください!」

「えぇ……僕としてはお金を渡して早めにこの場を離れたいんだけど……」

「じゃあ、一人で先に帰ってください!」


 おお、そういう手があったか。……と思いながら振り返ったら、路地の先を彼らの仲間に塞がれていた。ねぇ、早くない? コンビネーション抜群だな。

 出口の方にいた人に、おずおずと声を掛ける。


「あの、お金……通行料って形で……」


 相手は少し拍子抜けしたような表情を浮かべた後、


「あ? いいぜ。……それにしても女を置いて行くなんて薄情なやつだな。まあいいや。さっさと金を出せ」


 とだけ言ってお金を受け取りに近付いてきた。


 ここで僕の身体が勝手に動く。

 腕を大きく振りかぶって、


「銀貨10枚、掴めるものなら掴んでみやがれ!」


 投げる!

 ――ヒュン、と音がして、数人の受取人たちの頬を掠めてどこかに飛んで行った。一拍遅れて相手の髪がふわりと浮き上がる。

 あれ、僕ってこんなに肩強かったっけ?


(バカ! これはスキルだよ。スキルで銀貨を高速で移動させているだけのことよ。これ便利だな。……っと、そろそろ戻って来る頃合いか)


 花水さんの解説が入る。

 そのまま手を頭上に掲げると、さっきと同じスピードで投げた10枚が帰って来た。

 物凄いスピードで飛んでいたけど、手に収まる時には全然衝撃を感じなかった。これもスキルで速度調節が出来ているおかげだろう。

 路地一帯に沈黙が広がる。僕が銀貨を投げた方向に立っていた男たちは皆呆然と立っていた。……いや、一人泡吹いて倒れたな。


「えっと……お金、掴めませんでしたね。もう1回チャレンジさせてください。今度は皆さんが上手くキャッチ出来るように頑張りますので」


 申し訳のなさが一杯になったので謝罪と再挑戦のお願いをしたのだが、相手はブンブンと手を横に振った。


「こ、今度は確実に当てる、だって? 無理無理! 何だコイツ!」

「今何が起きたんだ?」

「アレ、銀貨だったの?」


 あれれ? みんな銀貨欲しくないのかな?

 疑われているので手の中の銀貨を掲げて見せる。


「ほ、本当に銀貨だぞ」

「馬鹿な……俺はてっきり弓矢か何かだと……」


 納得いただいたところで第二投。


「行きますよ~!」


 僕が腕を振りかぶると、男たちはしゃがみ込んだ。


「お金要らないんですかぁ~?」


 すると、悲鳴にも似た声が返って来た。


「い、要らん! サッサと通っていけ!」

「命だけは……!」


 そういう話だったので、悠々と歩を進めようとしたら、背後から声を掛けられた。


「テメェら! 何でそんな素人相手に弱腰なんだ! おい、そこの男! 俺たちはまだお金を貰ってないぞ」


 そういえばこっちにも人が居たんですね……あっ、こっちの人が元々僕に声を掛けて来たからこんなことになったんだっけ?


「じゃあ銀貨10枚あげますね~」


 腕を振り上げると、さっきまで強気だった男たちが身構えた。しかし、だからと言ってお金をあげないわけにはいかない。何故ならば相手が欲しているのだから。


 そう、これは良い事。

 これは正義。

 これは僕の優しさ。

 ならば遠慮なく。

 遍く平等に行き渡りますように。


 手の中から重みが消えたと感じたその瞬間に、銀貨は相手の掌を貫通していた。

 男たちの悲鳴が路地に木霊している間にも、コインは飛ぶ。

 先ほど僕に対して「お金は要らない」という主旨のことを言っていた人たちが、心変わりしたのか立ち上がってこっちに来たので、彼らの手元にもコインが飛んで行った。


「あれれ~? 困りますよ? ちゃんとキャッチしてくれないと……」


 掌を前に突き出すと、手元にコインが綺麗なまま戻って来た。

 血塗れのままだと嫌だったので、その辺の水辺まで飛ばして洗って来てもらったのである。

 その辺に泣きながらうずくまった男たちに笑いかける。


「じゃあもう一回だね」


 しかしながら、男たちの返事は今までと全然違うものだった。


「ふ、ふざけるなよ……この人殺し……」

「痛ぇよぉ……だれか、助けてくれ……」


 困った人たちだ。とりあえず事実認識ぐらいはちゃんとしてもらわないと困る。


「嘘をつかれると困ります。ここにいるあなたの仲間は誰一人として死んでませんよ。もし、胸ポケットの中や口の中に硬貨を突っ込んでくれ、と言われていれば命は無かったでしょうが……」

「く、狂ってやがる……!」

「事実なのだから狂うわけないじゃないですか。それが歪んで見えるなら、あなたたちの頭が狂っているということですよ?」


 うーん。手の傷で頭にも何か影響が出たのだろうか。不思議だ。

 それにしても、これからどうしようかなぁ。


今更なのですが、セリフと地の文の間って開けた方が良いんですかね……?

この辺のことについて誰かコメントしてくださると有難いです。

次回もよろしくお願いします。


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